ボス戦(後半)

「ちょっ、素殴りとかアリなのぉっ!?」


「オォォォォォォッ!」


 ドレッド・タイタンの巨体から放たれた容赦のない振り降ろしチョッピングライトが、私の頭上に迫り———



「【スカッフル】っ!」



 ———刹那、私の足から黄色のエフェクトが弾け、地面を蹴った私は一瞬で最高速度に到達してドレッド・タイタンの視界から消える。


 ドレッド・タイタンの攻撃はそのまま地面に突き刺さる。あまりの威力に地面が震え、砂埃と石の破片が飛び散り、爆発でも起こしたかのような惨状だ。


 が、当たらなければどうと言うこともない。

当たらなければ、ね……マジ危ねぇ……。【スカッフル】を獲得できてて良かった……。



 【スカッフル】

 効果時間中、AGIに+20%の補正。さらにハンドリング性能が上昇し、効果時間中に攻撃を回避する度にAGIに+5%の補正(最大25%まで)。


 【スカッフル】はレベルアップによって習得したダンサー系アビリティである。AGIを大きく上昇できるだけでもかなりありがたいのに、ハンドリング性能に補正……つまり、発進やブレーキ、方向転換など、ステップに関わる行動が行いやすくなる補正が入るのだ。


 これのお陰で、着地した直後の1、2歩目からトップスピードに乗ることができ、ドレッド・タイタンの拳を避けたというわけだ。



 ホッと胸を撫で下ろしてる場合じゃないわね。

 相手は地面にいる私を殴りに来たせいで、前にめりになっている。つまり、棒の攻撃範囲にわざわざ首を突っ込んできてくれたという訳だ。この瞬間を逃す術はない。



「もういっちょ!」



 再びの【ピアースレイド】を、真上に突き出すように放つ。アビリティエフェクトの赤黒い閃光は、一度目と寸分違わず眉間をピンポイントで打ち抜き、僅かにドレッド・タイタンの首を仰け反らせる。そして……



「ふふ……欠けた・・・わね?」



 パラパラと私の上から降り注ぐ小さな破片は、ドレッド・タイタンの眉間から。同じ場所に二度の【ピアースレイド】を受けたドレッド・タイタンの体表は、その貫通効果によって限界を迎えていた。



「さすがにこれだけあからさまに『装甲が剥がれましたよ』って演出しといて、そこが弱点じゃないとか無いわよね?」



 アネックス・ファンタジアは、細かいところまで病的なまでに拘っているゲームだ。いくら全身を鎧で覆ったとしても、その隙間に攻撃を刺し込まれれば生身へと届いてしまう。


 つまり、これほど硬かったドレッド・タイタンも、表面を剥がしてしまえばダメージが通りやすいはず。


 ビキニアーマーが最強の装備だとかいう時代は終わったのだ。



「だったら、そこを狙わない手はないわよねっ!」



 棒高跳びの要領でドレッド・タイタンの腕に飛び乗った私は、そのまま腕を駆け上がりドレッド・タイタンの顔面へ肉薄。そして魔纒・風を纏った棒術、【空風・打】を眉間に打ち込み、その傷口を広げる。



「オォォォォッ!」


「まだまだぁ!」



 【空風・打】の反動で僅かに身体が離れた私へと迫るドレッド・タイタンの拳、これを———



「【流葉】!」



 棒で上から押さえつけるように受け流し、攻撃は下へ、私の身体は上へ。身体を捻って威力を殺しながら、トラップされたサッカーボールのように宙に浮いた私は、ドレッド・タイタンの腕に着地すると同時に【アクセルステップ】を起動する。


 黄緑色の閃光が弾けた脚が爆発的な推進力を生み、再び私の身体をドレッド・タイタンの顔面へと近づける。



「先駆け2発ぅ!」


「ガッ……!?」



 腕の上を走りながらインベントリから取り出した『ゴブリンナイフ』2本を、ドレッド・タイタンの両目に1本ずつ投げつける。攻撃力もなければ耐久値もないナイフだけど、眼球に投げつけられて無視できるものでもない。


 間髪入れぬインベントリ操作で取り出したのは『ゴブリンソード』。ゴブリン・ナイトからドロップした、飾り気の無い無骨なショートソードだ。


 僅かだが怯んだドレッド・タイタンへ、【アクセルステップ】の勢いのまま飛び込んだ私は、ドレッド・タイタンの眉間へとゴブリンソードを突き入れた。



「グォォォォォォッ!!」


「硬い! けどっ……!」



 まるで砂に剣を刺したような感覚。だけど確実に、ゴブリンソードの切っ先はドレッド・タイタンの眉間に食い込んだ。



「おっと」



 振るわれた腕を避けて地面へと降り、ドレッド・タイタンを見上げる。ゴブリンソードが刺さっている部分からはおびただしいダメージエフェクトが漏れ、相当なダメージが見てとれた。



「ここまでこればもうこっちのもんでしょ」


「オォォォッ!」


「とっくに攻撃は見切ってるのよ!」



 大上段から振り下ろされた大剣を横に移動して避け、【空風・突】をゴブリンソードの石突きへと叩き込む。


 振り下ろしから派生する薙ぎ払いをジャンプでかわし、【空風・打】をゴブリンソードへと叩き付けて切っ先をさらに深く押し込む。


 着地と同時に横へ回り込み、突進を繰り出そうとしたドレッド・タイタンの視界から消えたことにより突進は不発。


 死角から近づき、ドレッド・タイタンの膝を足場に身体を登った私は、至近距離から【空風・突】をゴブリンソードにぶち当てる。



「フフフ……はははははっ!」



 次第に深く差し込まれていくゴブリンソード。

 それに対して、鈍くなっていくドレッド・タイタンの動き。

 そして上がっていく私のテンション。


 いつの間にか私の攻撃の方が圧倒的に多くなり、そしてゴブリンソードが根本まで完全に埋まった頃———



『エリアボス: ドレッド・タイタン を討伐しました!』

『プレイヤー名: カローナ が称号 《岩原を踏破せし者》 を獲得!』

『アーレスへの道が開かれた!』



 ———仰向けに倒れたドレッド・タイタンの巨体が消えていくと同時に、そんなアナウンスが流れるのだった。



        ♢♢♢♢



「ふぅ、何とか勝てたわね」


 ・お疲れ様!

 ・まだレベル低いのによくやるわ

 ・結局ダメージ0なんだよなぁ

 ・カローナ様強すぎる……



「一応これで【アーレス】の街には行けるようになったのよね? じゃ、今回はこの辺りにして、少し【アーレス】を見てからログアウトしようかと思います! ありがとうございましたー!」


 ・次回も楽しみにしています!

 ・お疲れ!

 ・お疲れさまでした!



 カメラを切って、『次元繋ぐ天文鏡』を停止……ふぅ、こんなところね。


 次はどんな配信にしようかな?



さらに増えてきた登録者数に若干の恥ずかしさを覚えながらも、足取り軽く第二の街【アーレス】へと歩を進める。新たな街に更なる冒険を期待して———

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