裏稼業で助けた女の子は同級生のマドンナだった
ドンカラス
生まれ変わってもみんなと
中学卒業、ついでに裏稼業も卒業
第1話 最後の裏稼業
僕は家族のために生きている。彼らの為に汗をかきながら仕事をする。下水道にも足を突っ込む。時には血も流す。なぜなら僕にはこれしか、稼ぎ方を知らない。
【裏稼業】
仕事の内容を聞いたら釈迦でもつばを吐きたくなるはずだ。僕は何でもやった。犯罪スレスレのグレーな、汚いシノギだ。5歳の頃から働いた。小学3年生の頃には【ウラ・ベンリ屋】として看板を立てて、裏社会の住人からは【狐畜生】なんて通り名までつけてもらった。
中学1年生の中頃、僕は【狐】とだけ呼ばれるようになった。薄暗い住人どもにそれまでの働きが認められたからだ。仕方のない奴らばかりだが、どうやらどんな人間にも、いいところはあるようだ。
中学3年生の3月24日、つまり今日だが、きっと僕の人生にとって大きな分岐点となるだろう。
1つは卒業式。これはもう済ませた。みんなありがとう。あんまり会うことはなかったけど、それでも登校した日は僕を空気のように扱ってくれた。
2つ目、でかい仕事が飛び込んできた。僕の人生設計(大学卒業まで)で算出した軍資金に+13.33%のお釣りがくる。これを完遂出来たら足を洗うつもりだ。高校では友達を作ろう。表のバイトをして、好きなものを買って、好きなことに金を使おう。
みんなわかるだろう?こうして日記を書くくらい、僕は舞い上がっている。仕事内容は配送車の護送らしい。護衛一人に八桁報酬とは、絶対にやばい仕事だ。元請けは裏社会にびっしりと根を張っている組織だ。ちゃんとやれば払ってくれる。何より分かりやすいのは、限りなく100%に近いメモリで、護衛人は口なしになる。
理由その3だが、さっき書いた通りだ。僕は死ぬかもしれない。負け戦。奴らのことだ、一分の隙もない。それでもやる。隙が阿頼耶の底にあるかもしれない。やってやる。
ふと笑いが込み上げてきた。我ながらなかなか傑作じゃないか。細切りにした木炭を床に置き、身体を床いっぱいに伸ばした。
「神様仏様、次はもっとましな環境にしてね」
僕は自分の頭に向けてそう言った。空には宇宙が広がるだけで、神や仏がいるなら人間の内側だろうと考えているからだ。
肉体が重く感じる。いや、目だけは軽い。瞼はバキバキに開いてるぞ。生きるのをあきらめるもんか。
体中の鉛を出すかのように息を吐く。僕はめいっぱい息を吸って立ち上がる。部屋から家の外に通じる穴倉へと足を運んでいく。地面にぽっかりと空いたそれは、僕の肩まで飲み込める空間がある。穴倉へ入るときに体勢をねじったから、家族の寝室がある方へ振り向くことになった。
(手間のかかる家族だったけど、また一緒がいいな)
僕はセンチメンタルな気分になっている。自覚はある。壁の向こうでみんな寝ている。長い間、僕は家族のことを思った。実際は数分のことなのだろうが、多くのことを思った。無性に寂しくなり、泣き出したい感情を抑えた。そうして出た言葉は
「じゃあ、いきます」
だった。穴倉からモグラのように出していた頭をひょいと戻し、僕は人生の分岐点めがけて進みだした。
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