はないちもんめ~誰がほしい?~
十六夜 水明
遊女
「ねぇ、旦那はん?うちを買ってくれまへんか?」
薄暗く、ほぼ闇に包まれた部屋には、ほんのりと桃色の光を辺りに広がり、人が3人、容易に寝れるような寝台が置かれていた。
その広い寝台の上に横になっている女は甘ったるい声で同じく横になっている男の耳元にて、囁いた。
女は、少し乱れた寝巻き姿で普段は結い上げているだろう艶やかな髪を下ろしている。
1点、おかしいと言うのならば髪色だろうか。女は、黒い髪ではなく綺麗な白銀の髪をしていた。
「…何度も言っているだろう?お前は、ただ自分の体を売る遊女にすぎない。俺は、武士の身だ。諦めろ」
「でも旦那はんは、奥方様が居らんのでしょ?武士様方でも、うちら遊女を買って奥さんにする人もいるとよく聞きますよ?」
男が、あり得ないだろ?と厳しい言で返すのに対し、女は引き下がろうとしない。
「…………」
男は、寝台から立ち上がり、自身の乱れた身なりを整える。どうやら沈黙を貫き通すようだ。
「まぁ、お帰りどすか?私も連れていって欲しいどすな~」
女は、〖仕方ない〗、と先程まで何もなかったように振る舞う。
「黙れ、売女が」
「あらぁ、怖い怖い」
女も男を見送るために起き上がり、右手を口元に添えて冗談めかしく言った。
そのまま、女に見送られながら男は部屋を出る。
『あの人、欲しいなぁ。』
その歪んだ感情を込めた女の言は、男に届いていなかった。
少々苛立ちながなも、男は遊女屋を後にした。
「は……?」
直後、男は顔に驚愕の色を浮かべ、周囲の暗闇を疑った。
遊女屋に入ったときは、周りが他の遊女屋に囲まれ、夜であったのにそれはそれは賑やかで華やかな光景だったからだ。
男は、他の遊女屋や明かり等を目で探す。
しかし、在ったのは今出てきた一軒の遊女屋のみ、周りにそもそも人の気配が感じられない。
──シャン…シャン………
男は、ただただ、何処までも暗闇という無に等しい光景に呆然としている。
すると、約5間(約10m)程さきの暗闇の方から鈴の音が聞こえてくるではないか。
──シャン、シャンシャン………
その音は、段々と男に近付いてくる。
苛立ちはどこへ行ったのだろうか。
男は、一目散に元居た遊女屋に駆け込む。
「助けてくれぇ!」
すると、先程まで同じ部屋に居た白銀の髪をもつ女が玄関口まで走って出てきた。
「旦那はん、どうしたんどすか?」
女は、外で何があったのか全てを知ったような、優越感を帯びた顔をしていた。
「助けてくれ!暗闇から何か来る!」
男は、必死に助けを乞う。
しかし────。
「旦那はんが 、うちを買ってくれるんなら、助けても良いどすなぁ」
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