第156話 シープート参戦

助かったの?


マートルのマグマで肥大化した右腕は、通常サイズに戻っている。


シープートさんがマートルの一撃を相殺したんだ。


シキは、ライザーが助かった事実を認識して腰が抜けそうになるが、踏みとどまる。


まだだ、まだ依然としてライザーはマートルの足蹴にされているし、シープートさんが来たとは言え、マートルとバンバン相手に十分な戦力が集まったとは言えない。


シキの記憶の中のアスタロートは十分に強いが、良く見積もっても今のホムラよりも少し強い程度、戦力としては足りない。


だが、この安心感は何だろう。


記憶の中のシープートさんよりもマートルの方が強い。


それは明らかだが、記憶のアスタロートと1つ決定的に違うところがある。


「オーラ武装・・・。」


だが、シープートさんのオーラ武装は胴の武具を着けているように見えない。


部分オーラ武装だ。


それに対して、マートルは完全なオーラ武装。


それに、シープートさんの魔法は冷気、それに対してマートルはマグマ。


同じオーラを消費した魔法でも冷気とマグマとではマグマが勝つ。


つまり、適正魔法の相性が悪い、圧倒的にシープートさんの方が不利だ。


不利のはずなのだが、何でだろう。


シープートさんが負ける気がしない。


シープートとして以前シキとガイモンに接した時に冷気属性と偽ったためシキは勘違いしているが、本当は氷属性でマートルとはお互いに相性が悪い相手であり、オーラ武装に関しても翼で胴を覆っているため胴体の武装が隠れて見えないだけで本当は全身オーラ武装なのだ。


マートルもアスタロートを前に下手に動けずにいた。


勇者パーティーは勇者含めて4人と聞いていたんだがな。


このモコモッコ羊の亜人は誰だ?


新しい勇者の仲間か?


俺はどんな相手にも全力で戦う。


油断したつもりはない。全力の攻撃だった。


それを、このモコモッコ羊の亜人に相殺されただと・・・。


それに早かった。


纏っているオーラ量と部分的に展開しているオーラ武装からしてそれなりの手練れであることがうかがえる。


マグマケージを展開しているから周囲への警戒は少しおろそかになっていたが、ん?


マグマケージがあるのにこいつどこからやってきたんだ?


もしかしてマグマケージを突破してきたのか?


横目で確認するとやはりマグマケージに穴が空いている。


上から垂れてくるマグマによってすでに塞がりつつあるが、人1人が歩いて入れる程度だ。


マグマケージは破れない魔法ではないが、オーラを消費するはずだ。


それなのに目の前のモコモッコ羊は勇者達と遜色ないほどのオーラを身に纏っている。


元々、膨大なオーラを纏えるかオーラを練るのが非常に早いかのどちらかだ。


モコモッコ羊という種族に騙されるな、こいつは強い。


マグマケージを突破してすぐに俺と互角の攻撃をしてきたんだ、オーラ武装も胴は見えないが、毛の下にオーラ武装が仕込んであると考えた方が良さそうだな。


まずは、この足下に倒れている敵を1人仕留めて、万全の体勢で一騎打ちだな。


面白くなってきた。久しぶりに血肉が踊る戦いになりそうだ。


足下のタンクを攻撃しようと視線を下に向けると、すぐそこにモコモッコ羊の亜人がいる。


アスタロートが距離を詰めたのだ。


クソ。


早い。


アスタロートの拳はマートルに防がれるが、マートルを後退させライザーの救出に成功する。


シキのすぐ隣にライザーを下ろして、相手の出方をうかがうが、すぐに攻めてこようとはしない。




それにしても危なかった。


マグマの壁を吹き飛ばして中に入ると、ライザーがとどめを刺されそうだったのだからな。


間に合ったのは運が良かった。


おもおっも石を外して、オーラ武装をしていなかったら間に合わなかったかも知れない。


もっとも、迷ったと思って他の洞窟に寄り道していなければもっと早く着いていたのだが・・・。


まぁ、こうしてライザーを助けられたのだ。


今はよしとしよう。


助け出したライザーを、お姫様抱っこしてシキの隣まで連れて行く。


ライザーが感謝の気持ちを伝えようとするが、上手くしゃべれず口から血が流れてくるだけだ。


シキの回復魔法でどこまで回復するか分からないが、けが人はヒーラーに預けるべきだろう。


「シッシープートさん。どうしてここに?」


当然の疑問だ。


分かれたはずの相手が合うはずのない場所で出会ったのだから。


「今は、そんな話をしている場合じゃないでしょう。」


なぜここにいるのか、納得させるスマートな理由がなかったアスタロートはごまかすことにした。


シキはアスタロートの返答を聞くとすぐに、ライザーの治療に取りかかった。


ホムラとガイモンも近寄ってくる。


みんな、ボロボロだ。


敵の方は、マグマの女魔人はピンピンしているけど、バッタ顔の魔人は結構ダメージが入っているようだな。


ん?あのバッタ顔の魔人どこかで見たことあるような・・・。


あっ!


異世界転生してすぐに魔王様との会議でいた技将の側近だ。


確か、倉庫の食料を無断で食べて怒られていた奴。


まぁ。変装しているしアホそうだからバレないと思うが、できるだけ近づきたくないな。


「シープートさん助かったぜ。本当にもうダメかと思った。」


「ホムラ。まだこれからですよ。それにしても、シープートさんあなたも人が悪いですね。まさか、奥の手を隠し持っていたとは・・・。」


ガイモンとシキの視線が、アスタロートが身に付けているオーラ武装へと集まる。


トレント戦で、それなりに追い込まれていたのにオーラ武装という奥の手を隠し持っていたことに抗議してのことだ。


「アハハハハ。」


ガイモンの話に、今も翼を隠して氷の斧を隠しているため、もはや笑って返すしかないアスタロート。


翼や氷の斧は自信がアスタロートであることを隠すために必須のことなので、どんなに追い込まれても見せるわけにはいかない。


「マグマの女魔人は私が相手をします。バッタの魔人の方をお願いできますか?」


手合わせして分かったが、マグマの女魔人は強い。


遅れを取るつもりはないが、倒すか追い払うにはかなり骨が折れそうだ。


それに、今の勇者パーティーにマグマの女魔人の相手をするのはしんどそうだが、手負いのバッタ魔人なら相手にできるだろう。


魔王との模擬戦闘や戦闘試験でガンレットのオーラ武装はバッタの魔人に見られている。


俺がアスタロートであることがバレると、仲間に入るどころの話ではなくなってしまう。


懸賞魔人がどのような対応を受けるのか知らないが、悪ければ死刑だろう。


あのバッタ魔人には近づきたくない。


「いいのか?」


「あぁ。是非そうさせて欲しい。」


アスタロートであることがバレるリスクは減らさなければいけない。


「助かる。大きな借りができてしまったな。」


アスタロートからすれば、爆裂バッタと戦いたくないだけだが、ホムラからすると強い方との戦闘を引き受けてくれたと捉えたのかものすごく感謝してくる。


いや、バッタ顔と戦いたくないだけなんですが・・・。





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