第77話 完治までの日々 再びの資金調達

カランカラン。


ギルドに入ると、誰かが来たことを告げる金属音が響く。


まだお昼前だがそれなりに人はいるようだ。


アスタロートがギルドに入った瞬間、一瞬静まりかえり続いてアスタロートの方を伺いながらひそひそ話が始まる。


突如有名人が現れて動揺しているようだ。


ギルドで、今日何をするか話していた魔人や亜人達はコソコソしている。


「おぃ。アスタロートさんだ。重傷だって聞いていたけど、もう大丈夫なのか?」


「さぁ。でも、あの包帯じゃぁ。まだ、完治した様子じゃぁねぇな。」


「おぃ。お前、話しかけてこいよ。」


「えぇ。私!?無理無理。」


「なんだよ。いつもの威勢はどこに行ったんだよ。」


「だって、あの特記戦力のナンバー2を撃退だよ。私なんかじゃ声かけられないよ。」


「まぁそうだよな。それにしても、いろいろと凄いな。」


「あぁ。凄いな。」


「はぁ。あんた達ねぇ。」


男女含めた3人の魔人メンバーが話しかけようとコソコソ話をしているのが、アスタロートの方まで聞こえてくる。


男達は、アスタロートの包帯を巻いただけで、プロポーションが丸わかりの格好に目を奪われていた。


アスタロートは、脚は馬のような蹄のある脚で筋肉質だが、上半身は細くスタイルが際立ってよく見える。


男達が、アスタロートの格好に気を引かれているが、誰もアスタロートに服装のことで注意できるような人はこの場におらず、アスタロート自身も気にしていないため、そのまま過ごしていってしまう。


アスタロートはギルドに入ってすぐに、ギルド内にいた人達が自分のことを話し始めたことに気づいているが、話しかけられるかアスタロート自身がようがなければ、声を掛けることはない。


このような、場所で相手の話したい気持ちをくみ取って、こちらから話しかけてもいいことが無いことは前世の経験から分かっている。


前世で手を振ってあげたり話しかけたりすると周りの他のファン達に囲まれて大変なことになったことがある。


挙げ句の果てには、ファンに抱きつかれた姿をパパラッチされたこともある。


あの時は、俳優人生最初で最後の女性とのキスシーンがある仕事で、当時女性に対する免疫が皆無だった明日太郎は全く演技することが出来ず素人目に見てもガチガチに緊張している姿が全国ネットに流れた頃でもあり、そんな、女性免疫のない明日太郎がパパラッチ写真のようなこと絶対しないとファンから言われ、逆に記事を書いた会社側が炎上したことがあった。


当時と比べると女性免疫もそれなりについたが、未だに女性の体に触れると緊張する。


そんなこともあり、周りの人が自分の話をしていたり、話しかけたいそぶりをしていることに気づいても、アスタロートから声を掛けることはしていない。


アスタロートは、自分の用事を済ませるために魔物ギルドのカウンターへ行く。


ギルドのカウンターには、見知らぬ職員がいた。


「アッアッアスタロートさん!先日の人狩りは大変ご活躍されたと聞いております。今日はどういったご用件でしょうか?」


ギルドの職員もえらい緊張しているな。


俺の名前は、そんなに喉がつっかかりそうな名前ではない。


目がキョロキョロと視線を逸らしている。


丁寧に接しようとして、よそよそしくなることをアスタロートはあまり好きではない。


ましてや、今回の実績はほとんどバクバクの実績だ。


あの場にアスタロートがいなくても、ピィカよりも先にバクが目を覚まして無事に帰ってきていただろう、つまり、アスタロートは、ピィカの足止めに失敗して、変わりにバクが足止めしてくれたのだ。


バクにとったら、偶然だったのかも知れないが、十分過ぎるほど助かった。


「そこまで、かしこまる必要も無いさ。普通にしてくれていいですよ。」


アスタロートは、自身が有名になったため、緊張して目が泳いでいると思って、言葉にするが、本当はアスタロートの格好に驚いた受付嬢が目のやり場に困っているだけなのだ。


「はい。」


当然、アスタロートに気楽に接してくれと言われても、原因のアスタロートの格好が変わっていないので、受付嬢の視線は泳いだままだ。


アスタロートは、自分の過ちに気づくことも無く、未だに目のやり場に困っている受付嬢をそのままにして、本題に移ることにした。


「今日の給料が欲しいんだ。お腹がすいてね。」


こういうときに、堅い言葉を使用すると、かえって相手を緊張させることがあるから、初対面の受付嬢であるがフランクに話しかけるアスタロート。


「もしかして、ここで食べて行かれるんですか?」


受付嬢は、アスタロートの言葉に食いつき、ギルド内に響き渡るように聞いてくる。


「あぁ。そのつもりだけど。」


オオカタツムリの出汁を使ったスープを他人にぶっかけたことは、リザリンのクリームケーキと同じく有名になっており、受付嬢が店内で食事している人達に緊急避難勧告を出すために、アスタロートの意向を聞く。


受付嬢の言葉に、ギルド内にいた全員がビクッと聞き耳を立ててアスタロートの返事を聞こうとするが、アスタロートは受付嬢に聞こえるように普通に話したため周りの人には聞こえなかった。


そんな、アスタロートが食堂で食べるのか食べないのかどっちなのか戸惑っている人達に聞こえるように、受付嬢が返事する。


「そうなんですね。こちらで食べて行かれるんですね!かしこまりました、直ちにご準備します。」


アスタロートは、急に大声で話す受付嬢に対して急に元気良くなったなとしか思っておらず、その隠された真意に気づいていない。


ギルド職員が、ポニーテールを揺らしながら奥へと入って行った。


ギルド職員が、奥へと消えていった瞬間に、アスタロートの容姿をデレデレとみていた者達が一斉にご飯を食べ始め、ギルド内に食器とスプーンが当たる音が響き始める。


特に、モコモッコ羊料理を食べていた者達は、アスタロートに見られまいと自分の体で料理を隠すようにして口の中に料理をかき込んでいく。


無言で食べるその様は、少し異様だがアスタロートは他のことを考えており気にしていない。


ギルド職員が奥へ行ってから思い出すが、このギルドの毎日の給金は、懸賞魔人の金額によって左右される。


ここで、奥から出てくる金額が大きくなっていれば、懸賞金が上がったことを意味する。


しばらくして、もどって来た受付嬢は、プレートの上にこの前もらった袋と同じサイズの袋が乗っているが、どうやら懸賞金は上がっているようだ。


「お待たせしました。アスタロートさんの給金は、袋いっぱい閉まりきらずです。」


プレートの上に乗った袋は閉まりきっておらず、通貨がプレートの上に何枚か落ちている。


この世界には、数字という文化は存在しないのだろうか?


前回は袋いっぱいだったし、今回は袋いっぱい閉まりきらずだ。


この単位だと、袋のサイズが変われば変わってしまうではないか。


「あぁ。ありがとう、前回より少し多いね。もしかして、俺の懸賞金額上がっているの?」


「えぇ。勿論そうですよ。あの、雷光のピィカを撃退したのですから!!大金星ですよ。」


「ハハハ。俺だけの力じゃないんだけどね。」


「またまた、アスタロートさんは、謙虚なんですね。」


「いやぁ。そうではないんだけどなぁ。」




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