第23話 異世界料理と宿屋

「お待たせしました。」


「ありがとう。」


女性が、料理を持ってくる。


スープからは、湯気が立っている。

おいしそうだ。


パンももっちりとしており、弾力がある。

前世で呼んできた異世界ものでは、固いパンに、味の薄いスープが主流だ。

そして、主人公が前世の知識を生かして料理チートをかますのが一般的だが、この世界では出来なさそうだ。


食べなくても分かる。

この香ばしい香り、どんな味がするんだろう。

前世とは、また違ったものだ。


周りの人たちは、お盆を構え俺が料理を投げつけるのを警戒しているが、気にしない。


速くこの料理を食べよう。

スープは、少しとろみがかっている。


パンを浸して一口。


ん!やはりおいしい。

食べたことのない食材ばかりだが、おいしい。


スープがトロッとしていて口の中もとろけてしまいそうだ。


「おい。本当に食べたぞ。あいつ本当に亜人か?」


「おれもびっくりだ。まさか料理を食べる亜人が東国にいるとわな。」


周りの、人たちは、本当に私が料理を食べたことに安堵し、構えていたお盆を下ろし、食事を再開する。


「このスープおいしいでしょう?西国の亜人さんは食べてくれるんですが、東国の亜人さんは食べてくれる人が少ないんですよ。」


料理を届けに来てくれた女性が喋りかけてくる。


お行儀なんて、構ってられない。

未知の味に感動し、口いっぱいにスープとパンを頬張りながら喋る。


「へぇ。そうなんだ。このスープ初めて食べるんだけど、何のスープなんだ?」


「このスープは、オオカタツムリ出汁の森野菜スープですよ。」


ぶふぉぉぉぉぉ。


口いっぱいに含んでいたスープを通路の反対側に座っていた人にすべて吹きかけてしまった。


いや、不意打ちはむりだ。

こんなおいしい、スープがカタツムリの出汁だって?

耐えられず吹き出してしまった。

女性にかからないように顔をそらしたが、そこにも運悪く人がいた。


「きったねぇぇぇぇ。やっぱり掛けてきやがった。くそったれめ。最悪だ。」


「すまない。わざとではないんだ。」


とっさに謝るが、男性はどこか嬉しそうに顔を赤らめている。


「油断させといて、吹きかけるなんて、なんて高度なやり口なんだ。俺には出来ない。」


「そんなひどい。人には投げつけないって約束してくれたじゃない。おいしそうに食べてくれてたのに、嘘だったのね。」


周囲にいた亜人や女性が騒ぎ始める。


「いっ、いや、違うんだ。使用している材料に少し驚いてしまったんだ。ほら、残りも全部食べるから。」


何でだろう。味はあんなにおいしかったのに、カタツムリから出汁を取っていると知ったとたん食欲が失せた。

とろりとした食感もカタツムリの粘液に見えてしまう。

こんなの、もう知ってしまったら食えねぇよ。


当たりを見渡すと、周りの人は俺が食べるところを注視している。


ゴクリ。

もはや、逃げられない。


味は良かったんだ。

目をつぶって何も考えずに食うんだ。


スプーンを取って口の中にかきこむ。


あぁ。やっぱりおいしい。

こんなにおいしいのにカタツムリから出汁を取っているのか?


素材から想像できる味と、実際に食べている味に乖離しすぎている。

そのギャップで脳が爆発しそうだ。


ケプ

なんとか完食しきったぜ。


悔しいが、おいしかった。

あのカタツムリから出汁を取ろうなんて、異世界人恐るべし。


周りは、本当に全部食ったぜなどざわついている。


なかなかの強敵だったぜ。

最後に水をごくごく飲んで、口の中をリセットする。


次ご飯を食べるときは、何の素材を使っているかきちんと聞くか、聞かずに食べよう。


支払いをすませて、外に出る。

空はもう真っ暗だが、道は明るい。

道路際に、発光している石が置かれているからだ。


ホテルに行こう。

今の時間は日が沈んですぐだから19時くらいだろう。

まだ、寝るには早いが、昨日から一睡もしていないのを考えると早く寝るのもいいだろう。


今日は早く寝て、明日朝にギルドへ顔を出して、西国へ向かおう。


ホテルは、待ちの中央の一番大きな建物だと言っていた。

心当たりはある、赤レンガと土壁で作られたおしゃれな屋敷のことだろう。


フルーレティーと飛んでいるときに遠くから見えていた。


翼をはためかせて飛んでいく。


夜風に当たるのも気持ちいいな。


眼下には、発光する石でぼんやりと照らされた町が移る。

魔王の領と聞いていたが、なかなかいいところじゃないか。

人間は奴隷として扱われているが、それほどひどい扱いはされていなさそうだ。


おっ。あったあった。


遠くに、一際大きな建物が見える。

周りが、一階建ての建物なのに対して、三階建ての建物は目立つ。


滑空して、宿屋の前に降り立つ。

入り口には、庭があり見たこともない花が植えられている。


なかなか、おしゃれなホテルだけど、お金足りるだろうか?

まぁ。聞いてみてだめなら他の宿に泊まろう。


飯を食べて少し減ったお金を握りしめながら、中に入る。


カランカランという音と共にドアを開けると、奥から白いモコモコした髪をした少し首の長い亜人が出てきた。


「いらっしゃ~い。おぉ~。珍しいお客さんだねぇ~。どっちたの、どっちたのぉ~。」


亜人は、珍しいお客が来たと、間延びした声でやってきた。


「あぁ。ここは、亜人が経営している宿なのか?」


「んん~。それは、違うんだなぁ~。人間が経営している宿谷だよ~。あぁ!それと、あたしは、夢を喰うバクの魔人だよぉ~。よく間違われるんだよねぇ~。何でだろうねぇ~。」


どうやら、亜人ではなく。魔人だそうだ。

未だに、魔人と亜人の違いがよく分からない。


こいつほとんど人間じゃないか。

魔人は働かないって聞いていたけど、なんで働いているんだろう。


「一泊頼みたいのだけれど、このお金で泊まれるだろうか?」


とりあえず。

あるだけのお金を出し、向こうに判断してもらおう。


「人間の一泊料金しか知らないから、亜人はタダでいいよぉ~。亜人が泊まりに来るなんて、変わった亜人なんですねぇ~。変わった人もいるもんだねぇ~。」


おっとりしたしゃべり方で、左右に揺れながら話しかけてくる。

変わってるねぇ。変わってるねぇと、首をかしげながら話しかけてくる店員は魔人だ。


「魔人は、働かないって聞いていたけど、って、タダでいいの?」


「おぉ~。いいよ。いいよぉ~。どうせ部屋は空いているからねぇ。それと後ぉ~、あたしは働いていないよぉ~。なんだか楽しそうだから、ここで遊ばせてもらってるんだぁ~。飽きたら、また別のところに行くよ~。」


どうやら、本人は働いているわけではないようだが、完全に働いているじゃないか。

空き部屋も把握しているし、完全に働き者だ。


「ほらぁ。部屋に案内するよぉ~。付いてきてぇ。」


案内された部屋には、ベットと机あとソファが置いてある。

内装もこだわっており、花や観葉植物が至る所に置かれている。


ソファは、モコモコしていてかなりクッション性が高く座り心地がいい。

まるで、羽毛に包み込まれているようだ。


町一番のホテルの名は伊達ではないようだ。


ソファに座っていると心地よく、そのまま眠りに就いてしまった。


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