第10話 戦闘試験開始

俺の実力を測るために連れてこられたのは、広い部屋だった。


ここで試験をして、合格すれば魔王と戦えるみたいだ。


何とかして試験を合格して魔王と直接戦おう。


勇者と敵対してしまった今、勇者の仲間になるよりこの場で魔王を討伐してしまった方が楽なような気がする。


戦闘訓練だ。


力加減を間違えて殺してしまったことにすればいいだろう。


試験で、体を全力で動かして、技も全力を尽くそう。


大丈夫だ。出来る。


倒せなくても、訓練だ。


殺されることはないだろう。


こんな好条件の戦いはない。


俺はついている。


勝てなくても、魔王との戦闘情報が役に立つだろう。


「いい?アスタロート?簡単な試験を受けてもらうわ。それを見て魔王様が直接お相手するか決められるわ。魔王様と直接戦うことが出来れば、周りの魔族から一目置かれるわ。魔王様といい勝負が出来るのは力将や技将くらいで、魔王様に傷を付けたことがあるのも数える位しかいないわ。魔王と戦うことになったら勝とうなどと思わずに上手く負けるのよ。」


あれれぇ~。いきなりお前は負ける宣言をされたんですけど。


「ふーん。分かったよ。」


「ちょっと、あなた分かってないでしょう。どうなっても知らないからね。」


少し不満げな声音で返事をすると、フルーレティーが念を押してくる。


魔王は強いのかも知れないが、俺も3将の1人フルーレティーが負けた勇者パーティーを蹴散らしたんだ。


いくら魔王が強いとはいえ、それなりに戦えるだろう。






「俺は、力将バール。試験内容の目的は、魔王様と戦って瞬殺されない人材かどうか試すためで、パワー、魔法、防御力の三つの項目で判断する。」


力将のバールが試験内容を説明する。


「分かった。」


戦闘試験の審査は、力将が執り行うようだ。


フルーレティーと技将、他のメンツは、遠く離れた場所から見ている。




「ではまずは、パワー試験からだ。」


角、皮、カメの甲羅が兎耳メイドによって用意される。


「どれも、生物の頑丈な部位を集めてきた。これらを破壊してもらう。」


その中には、角が2個あり1つは俺と同じ角だ。


そうかモコモッコ羊、家畜とはいえ強固な角なんだな。


俺も、家畜の角と卑下していたけど、ごめんよ。


これからは自分の角を大切にしていこう。


用意されてたものを力将が確認していく。


「ん?なんで、こんなところにモコモッコ羊の角が混じってるんだ?」


グシャ。


力将は、おもむろに黒い巻き角を手で掴むとそのまま握りつぶした。


うそぉぉぉん。


めっちゃもろいじゃん。


俺の角めっちゃ弱いじゃん。


これから、もっと大切にしよう。


何かの拍子に砕け散ったりしたら嫌だ。


無造作に捨てられた角は、見る影もなく粉々になっている。


あぁ、何と言うことだ。


さようなら、まだ姿も知らぬ同士の角よ。


プスッ。クスクスクスクス。


兎耳メイドが、こちらを向いてニヤリとしてくる。


試験の準備をしていたのはこの兎耳メイドだ。


さてはこいつ、わざと角を混ぜたな。


笑い声が聞こえてきているぞ。


なるほど、大体分かった。


力将との距離が近かったのが気に入らなかったのだろう。


力将に対して色目を使っていたからなぁ。


女の色恋沙汰でよくある光景だ。


まさか、俺がそれに巻き込まれるとは思わなかったが・・・。


だが、俺は、気にしない。


それが、俳優の世界で成り上がった秘策だ。


敵を作らないこと、それが、私の最強の世渡り術だ。


だが、モコモッコ羊の角の仇はとってやらないとな。


「では、好きなやり方、好きな順番で、破壊したまえ。」


確認を終えた力将が、少し離れていく。


この後、魔王との戦いが控えているのだ。


自分の身体能力を把握するためにも全力でかつ試しながらするしかないだろう。


角はテーブルの上に置かれており、皮は型枠にピンと張られて立てられており、カメの甲羅も立てられている。


まずは、角を持ってみる。


少し強く握った感じだと、やはり簡単には壊れそうにないほど堅い。


流石この試験に選ばれる素材名だけある。


だが、こいつの壊し方は決まっている。


モコモッコ羊の角が握力だけで壊されたのだ。


モコモッコ羊の角を弔うために、こいつを握力だけで壊し、モコモッコ羊と同じ握力で壊れる角にしてやる。


徐々に、力を入れていくが、全く砕ける気配がない。


力将は涼しい顔で、モコモッコ羊の角を砕いていたのに・・・。


「ふぅ。ふぃ。ふんぎぃぃぃぃ。」


大きく深呼吸をしてから、全力を出す。


くそ、まだ砕けないのか。


角を握りしめ、前屈みになる。


「はぁぁぁぁぁ。」


顔に、血が上ってきて顔が熱くなってくる。


鼻の穴も大きく広がっていることだろう。


周りも、握力だけでは無理だと言ってくる。


だが、そんなことはどうでもいい。


このまま砕いてやる。


これ以上はもう力がでないという境目から、手に異変がおこる。


冷気が手からあふれ出てくる。


そして、角と手が氷におおわれてくる。


不思議と冷たさは感じない。


パリン。


角が氷に覆われた瞬間に角が砕けた。


「はぁ、はぁ、はぁ。モコモッコ羊の角と同様に少し強く握ると砕けてしまいましたね。」


全然、力入れてなかったかのように、にこやかに宣言する。


見知らぬ同士のモコモッコ羊よ、見てくれましたか。


俺は、凄くすっきりしました。


「おっおう。そうだな。魔法や武器を使って壊してもいいのだぞ。」


力将は、何かを察知したのか、深くは突っ込んでこなかった。


それにしても、さっきの現象はなんなのだ?


強く握りしめると手が凍り付いた。


魔法を使ったときと同じような感覚があったが、力をこめた部位は氷をまとえるのだろうか?


カメの甲羅で試してみよう。


カメの甲羅の前に立って見るが、かなり大きい。


自動販売機くらいのサイズだ。


こんこんと叩いて盛るも、返ってくる音から相当の堅さであることがうかがえる。


普通に殴っては壊せないだろう。


右手を強く握り、右拳が氷に覆われるようにイメージする。


右手の先から肘に掛けて氷で覆われる。


氷は、ガンレットのように、関節が動くようになっており、装飾のような棘もある。


冷たさは感じないが、力が一段と増したような気がする。


今なら、甲羅も砕けそうだ。


「はぁぁぁぁ。」


腰をひねり、拳を回すように肩を入れる。


インパクトの際は、拳を強く握る。


右手には、白い冷気をまとっている。


インパクトと同時に甲羅が凍り付き、拳が甲羅を貫通する。


なかなかの威力ではないだろうか。


拳を抜くと、ぽっかりと拳サイズの穴が空いている。


「やるじゃない。流石私の側近だわ。その皮もちゃっちゃと破っちゃいなさい。」


3将の中でも最弱で、領民も他領と比べれば弱い魔人しかいない。


そんな、フルーレティーの領に強者が現れたのだ。


フルーレティーにとって興奮しない方が難しいのだ。


「ふむ、なかなかやるではないか。」


力将も拳が貫通した穴を観察しながら褒めてくれる。

褒めてくれるのは、相手が敵であっても悪い気はしない。


では、最後の皮をさっさと切り捨てよう。






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