1-3 岩永朝司

 相談者の名前は秋月拓志。

 俺と同じ中学出身で、中学の頃は何かと<恋愛の神様>への噂でたくさん名前の出る奴だった。


『モテてたってことですか?』


 そういうこと。秋月はかなりのイケメン。男性アイドルとかやってそうなタイプの顔で、学校中の奴なら誰でも名前と顔を知ってるくらいの奴だった。まあ、高校に入ってもそうだと思うけど……。


『私は知りませんでした』


 一度も見たこと無いの? あいつ、かなりのイケメンだよ。


『リアル男子の顔を覚えるのは苦手なので……』


 そうなんだ……。

 まあ、それだけイケメンだから、秋月は本当にモテた。告白されるのが日常茶飯事で、他校の女子にも告られてたね。それどころか、SNSでも顔が出てさ、なんかめっちゃバズって、日本中の女子からもDMとかで告られてたらしいよ。

 って、君、なに、その露骨に嫌そうな顔は?


『いえ、超絶リア充人生の人って、もうそれだけで別の人種って気がして……せめて、性格は悪くあれ、と思ってしまいます』


 その期待どおり……と言うわけじゃないけど、当然、それだけチヤホヤされてたから、まあ、性格が悪いというか……女タラシというか……なぜガッツポーズを?


『だって、なんの欠点も無かったら、それこそ少女漫画に出てくるイケメンみたいでムカつくじゃないですか』


 君、恋愛小説家のくせに少女漫画とか嫌いなの?


『大好きですよ。でも、現実のイケメンは嫌いです』


 そうなんだ……とにかく、秋月はモテにモテたから、手あたり次第に手を出した。それこそ、最大で八股くらいまで行ったらしい。


『控え目に言ってもクソ野郎ですね。それでもモテたんですか?』


 まあ、嫌いな人は嫌いだったみたいだけど、そこまで突き抜けると、それでもいいからつき合いたい的な女子も出てくるみたいだね。まあ、そんな奴だから、当然、悪い噂は今でも流れてるし、恨まれてもいる。


『ストーカー被害があって大変とか、そういう悩み相談ですか?』


 いや、そうじゃない。

 秋月の相談は、そんな噂のせいで困ってるってことだ。


『自業自得じゃないですか』


 それはそうなんだけどね……。

 でも、今つきあってる彼女は一人だけだし、その子のことを本気で好きなんだってさ。


『絶対嘘ですよ』


 と、秋月の彼女も思っているらしい。

 こっちの名前は九重真奈美って言うらしいんだけど。


『九重さん、同じクラスですよ。清楚な感じの美人さんで、私に対しても優しく話しかけてくれる程度に人格者なのに……そんなクズ野郎とつきあってるんですか?』


 その九重さんが、秋月の噂を信じてしまって、本気で好きだという秋月の言葉を信じてくれないらしい。最近は別れ話に発展することもあったりして、秋月はどうにか引き留めてるんだってさ。


『別れたほうが九重さんにとってハッピーエンドな気がしますけど……』


 でも、秋月は心を入れ替えてるって言ってたよ。

 今は九重さんのことしか目に入らないし、もう二度と浮気だとか二股だとかするつもりは無いって誓ってるのに信じてもらえない。


 過去の噂じゃなくて今の自分を彼女に信じてほしい。


 これが、秋月拓志の相談内容だよ。


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