1-2 岩永朝司

 たしかに恋愛の神様と呼ばれるようになってから、朝司は多くのコイバナを聞いてきた。どこにでもあるような淡い恋の話から、生徒と教師の恋だとか不倫だ二股だといったドロドロした男女の話まで多種多様だ。


「……ダメでしょうか?」


 うかがうような視線に朝司は「うーん」と唸りながら腕を組む。


 聞いた話を秘密にするという約束を、相談者とは結んでいない。朝司が嫌だと言っても好き勝手に話していくのだから、朝司が真摯に秘密を守る理由は無かった。


 とはいえ――


「人の秘密を簡単に話すのは、個人的にはちょっと引っかかるんだよね」


 咲那は「ですよね」と声のトーンと一緒に肩を落としていた。露骨に落ち込まれると、朝司としても罪悪感を覚えてしまう。わざわざ朝司を頼ってきたということは、それだけ切羽詰まっているのだろう。


(まあ、でも、俺にとってもいろいろチャンスではある……)


 聞きたくもない他人のコイバナを聞かされる立場には嫌気がさしていた。


(恋愛の神様を辞めるにしても、やらなきゃいけないことがあるんだよな。それは俺一人だと無理だし……そうだな、小井塚さんに手伝ってもらえれば……)


 うまく行くかはわからないが、試してみる価値はある。


「小井塚さんが困ってるなら、いろいろ話してもいいよ。まあ、不倫だ浮気だとか、バレるとヤバい系は外すけど――」


 咲那の顔がパッと華やぐように明るくなった。


「――その代わりに俺のお願いも聞いてもらいたい」

「はい、なんでも聞きます! え? なんでも? それってエッチなこととか入りますか?」

「そんなお願いなどできるわけないだろ」


 朝司はため息をついてから改めて咲那を見つめる。


「俺は君に相談内容を教える。その代わり、君は相談者の悩みを解決して、ハッピーエンドに導くのを手伝ってほしいんだ」


 咲那は大きな目をパチクリと開いていた。


「……恋愛の神様を手伝えってことですか?」

「まあ、そういうことだね。恋愛の神様としての噂話に信ぴょう性が増せば、相談者も増える。相談者が増えれば、君に話せるコイバナも増える。お互いに得なんじゃないかな?」


 咲那は「なるほど」と口に手を添えながら考え込む。


「……わかりました、手伝います。問題を解決する中で、本物の恋愛に近づけますし」


 言ってからニコリと微笑む。


「<恋愛の神様>の助手としてがんばりますっ!」


 朝司は「よろしく頼むよ」と苦笑を浮かべ、言葉を続けた。


「それじゃあ、つい昨日来た相談があるんだ。先ずはこの問題を君に解決してほしい」


 朝司は訥々とコイバナを話し始めた。


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