第13話

 本日の講義がすべて終わり、雑務を片付け帰途について早々だった。

 肩からかけた鞄から取り出したものがある。呼び出し音が鳴っていたからである。それは手のひらに収まるほどの大きさの透明な薄いケースで、その上部の角が淡く点灯して牧歌的な調子の音が小さいながら鳴っていた。

 ウエルは手慣れた様子でその表面を指先でなぞった。すると、文字が現れた。濃淡のちょうど読み取りやすい字が綴られていた。

「そうか、明日は休みか」

 そこには翌日の休講の通知が書かれてあった。理由は詳細ではないが、そこにウエルは拘泥しなかった。あるいは、普段だったら、それを使って即座に問いただす意図の書面か、あるいは直接聞きだすため遠隔応答可能な機能を、まさにその透明が道具を使って行っていたかもしれない。いや、きっとしている。ところが、この日のウエルはむしろ空いた時間のせいか、おかげか、いずれにせよ心そぞろになってしまったのである。ひとまず簡明ではあるが、理由に納得していないわけでもなかった。それどころか、透明な道具を鞄に戻してから、再びついた帰途の足取りが随分と軽やかなのは、ウエルを見た人がいたならば、「ウエル、何か良いことでもあったのかい?」と十中八九聞くに違いないと思わるほどのものだった。

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