第6話
「僕はウエルと言います。この国で非常勤の講師をしています、十七です」
ウエルはまず自己紹介をした。尋ねる前にはまず自らの素性を明かしておく。必要性というより彼女にまだあるかもしれない警戒心を解くためという方が強かった。
「あなたに自己紹介をしてもらいたいんです」
問いにしてしまえば、詰問ととらえられ恐怖心を生んでしまうかもしれなかった。
「私は、……アイです。えっと、この国、……というか、どういうかな、この、あ、そうか、この世界の者ではありません。それから、……年か、……、えっと……」
彼女は、アイと名乗った女子は言葉を探すように、逡巡するように、それでいて、誠実に答えるようにして目や顔や指なんかを少し動かしながら答えた。
「ああ、いいよ、年齢とか、答えたくないのは。それよりさ」
ウエルは何度目かになる、アイの出で立ちを上から下へ見やった。
「ああ、これ?」
アイはウエルの視線に気づいて、上着の裾を引っ張りながら自分の装いを見た。
「えっと、異世界のJKっていう」
「やっぱり!」
ウエルが勇んで立ち上がった。アイは言葉を飲んだ。表情が固まった。
「あ、ごめん。びっくりさせて」
頭を掻きながら、ウエルは着席をした。
「そうかな、って思ってたんだ」
目を丸くしていたアイの表情が安堵を示した。
「ウエル、さんは、おっかないとは思わないのですか」
「ウエルでいいよ。いや、君が異世界の人ならむしろ聞いてみたいことがたくさんあるよ。講師をしていると言ったろ? 僕は地理や歴史や行政や法なんかを教えているのだけれど、君のような出で立ちの人はこの国にも他の国にもいないって思ってさ」
言い切って、ウエルの表情が曇った。
「ウエル? どうかした?」
「いや、何でもない。それより話を遮って悪かったね。君の、アイのその服の話だったね」
「ええ。異世界、ニホンっていう国のJK、えっと学生の服なの。セーラー服って言うのよ」
アイは立ち上がると、椅子を引いて、できたテーブルとの間の空間でひらりと一回転して見せた。
「どうして」
と、ウエルが疑問の言葉を始めると、アイは軽やかさを止めて、椅子を寄せて静かに再び座った。
「どうして異世界のJKがこの国にってことよね」
今度はアイの表情が曇った。
「いや、みなまで言わなくていい。察しがついている」
ウエルの表情は今や苦虫を嚙み潰したようにすらなっていた。曇っていたアイの方が怪訝になるくらいに。
「魔王軍が君を召喚したんだ」
ウエルの毅然とした断言に、アイは目をぱちくりさせた。
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