異世界人の許嫁!
めぐむ
プロローグ
初めて出会った異世界人は、同い年の女の子だった。
日本では見かけない沁みひとつないブロンドが眩くて、目を細めたのを覚えている。エメラルドグリーンの瞳も直接見たのは初めてだった。
「初めまして」
引っ込み思案なのか。肩を縮めて小さくなった緊張顔で零された彼女の声は、鈴の音のようだった。
「初めまして。
初対面の挨拶を返すだけではきまりが悪くて、名乗りを付け足す。彼女はそれで自分が名乗らなかったことを恥じたのか。大慌てで口を開いた。
「シュカ、シュカネット・ラグ・ヴェ、っヴェルセンです。シュカ、と呼んでください」
噛みまくったことにか。シュカは頬を桃色に染める。そうされることで、肌が淡雪のように真っ白なことに気がついた。
「俺のことも健斗で。よろしくお願いします、シュカ」
中学生になる年頃で、女子を呼び捨てにすることはわけもなく気恥ずかしかった。
けれど、シュカという呼び名は、日本名でない。そのうえ、異世界人だという認識が強くて、抵抗感がなかった。自分を名前呼びにして欲しいというのにも、違和感はなかったのだ。
異世界人との交流を持てるという異次元な出来事に、テンションが上がっていたのかもしれない。手を差し出して握手を求めるほどには、積極的になっていた。
そして、彼女――シュカは、そろそろと手を差し出してくる。触れ合った指先は細くて折れそうだった。ちょうど性差が出始めたころだ。やけにその差を感じたように思う。
女の子と手が触れることなんて、偶然でしかない。ただの握手ではあるが、手に触れるという点では特別だ。
俺は妙にドギマギしてしまって、そのまま何もできなくなってしまっていた。
そもそも、握手をする機会もそうない。手を離すタイミングもよく分からなかったし、これ以上何を言えばいいのかも分からなかった。そして、それはシュカも同じだったようだ。
お互いに金縛りにあっていた俺たちに、引き合わせた親父はもどかしく思ったのだろう。俺の背を叩いて状況を動かすことを促された。
しかし、その威力は予想外に強かったのだ。前方にたたらを踏んでしまって、シュカにぶつかりそうになる。それを避けようとして、咄嗟にシュカの身を引き寄せるような体勢になってしまった。
ふわりと舞ってきた花のような香りに、ぞわりと背が震える。その感覚を何と呼ぶのか。そのときの俺には、ハプニング中なこともあって、よく分かっていなかった。
何より、目の前で真っ赤になっていくシュカに、とんでもないことをしでかしたのだと泡を食っていた。
「ご、ごめっ」
そう慌てて離れたが、シュカは目を潤ませるほどに衝撃的な顔をして俺のことを見つめてくるばかり。
手荒くしただろうか。何か不始末を。臭かったか? と色んなことが一斉に思い浮かんで、パニックに陥った。
そうして硬直している俺の手のひらを、シュカが改めて握り締めてくる。それは握手とは違って、胸に抱かれるようなものだ。
これほど動揺しきって泣きそうにすらなっているのに、引き寄せられる理由が分からない。ただでさえパニックだったところに更なる混乱をぶち込まれて、脳は完全にショートした。
「お受け致します」
その答えが何なのか。俺はまったく分からなくて、その場でなすがままになっていた。
握手をした後に、その相手を抱き寄せることが異世界でのプロポーズであると知ったのは、シュカが婚約に同意してしまった後のことだった。
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