第93話 消息不明な貴族たち

 黒魔女についての書籍を読んだリリアンは、一瞬だけ見えたあの映像はこの本の中に書かれていた話とよく似ている。

 その時の映像が誰かの記憶だとしたらとリリアンは考えるが、憶測だけで物事を考えてはいけないと思い、今思ったことを忘れる。

 リリアンは鳥籠の中にいる魔物を見て、少しだけ頭が痛くなる。ダンゲルが死んだと思われる場所と比べれば痛みは和らいでいる。


「お嬢様、また頭が痛いのですか????」


「大丈夫よ、大した痛みじゃ無いから」


 リリアンは魔物を見ているとまた声が響いてくる。


『黒…魔女…様???』


「公女様、もしやその魔物の声まで聞こえているのですか???」


「はい、私のことを、『黒魔女』と言っています」


「やはり公女様は、黒魔女で間違い無いのでしょう…」


「こいつ、じゃないぞ」


 ステロンはその魔物を見つめて言うとリリアン、ウルファ、ヒリリトンは驚きの表情を見せる。どこからどう見ても魔物であるその姿を見て、ステロンは魔物では無いと断言する。


「魔物じゃ無いって…」


「ならこれはなんですか???」


「こいつ、魔法で魔物に姿が変わっている人間だぞ」


「どうしてわかるの??」


「おいらたち魔物には魔石が体内にあるんだ。魔石が無いのは人間だけなんだよ」


「だが、そこまで年月の経っていない子供の魔物なら無いのでは???」


「いや、もしもそうだとしたら、デカすぎる。この大きさなら、推定97年ぐらいだろう。大体魔物は50年生きれば大人として見るんだよ」


「魔物でも、大人とかあるんだ…あれ???でもステロンは小さいけど…」


「おいらは下級悪魔だから小さいままなんだ。魔物とは違うんさ」


「よくわからなくなってきた…」


 頭を抱えるリリアンにステロンは不思議そうにリリアンのことを見つめてくる。魔物はまた鳴き声を上げるがリリアンは聞き取る気力が無い。ステロンは魔物の鳴き声に反応するが、リリアンたちに伝えることはしない。


「今、何か言っていなかったか???」


「いや、特に何も言っていないぞ」


「そうか……」


「あ、ヒリリトンさん…私たちはこの辺で失礼します」


「気をつけてね。また何かあればいつでもおいで」


「ありがとうございます…」


 疲労しているリリアンはそのまま外に出ようとするとステロンは小さな悪魔に姿を戻してリリアンの頭の上に乗る。


「ステロン…」


「貴様、お嬢様から降りろ!!!!」


『やだよめんどくさい、また頭を借りるぜ黒魔女様』


「ただの小さい悪魔のくせに!!!!」


「ウルファいいよ、ステロンの好きにさせてあげて」


「しかし!!」


『黒魔女様がいいって言ってくれているんだし、よろしく頼みますぜ〜』


「お嬢様のご厚意に感謝しろよ悪魔」


『ステロンだ!!!ちゃんと名前で呼べやクソ騎士が!!!』


「何だと!!!!」


「喧嘩しないの!」


 公爵邸に戻ったリリアンは馬をウルファに任せて中に入ると、ガクドとハンスが何かを話し合っていたが、リリアンを見ると二人はリリアンのことを抱きしめる。突然のことにリリアンは戸惑いを隠せずに目を泳がせていると二人は不安そうな顔を見せる。


「なかなか帰ってこないからお兄ちゃん心配したぞ!」


「リリアンちゃんに何もなくてよかったよ〜!!!」


「どういうことなのですか???」


 二人はリリアンを連れて執務室に向かうとどうやら多くの貴族が行方がわからなくなっているらしい。


「先日会ったばっかりのウレフォン伯爵一家も、行方がわからないんだ。そう簡単に帝国を出ていくことは無い人たちだからさ、心配なんだ」


「最近はグリムオン伯爵一家が行方不明なんだ」


「カーラ嬢もですか??」


「あぁ、だけど屋敷の中を見ると少し前までいた形跡があるんだ。どう考えても家出したようには見えなくてね」


「魔塔主であるヒリリトンさんも、先日までカーラ嬢が出入りしていました。突然姿を眩ませるとは思いません!」


「リリアンちゃんもそう思うよね?それでこのままリリアンちゃんも居なくなっていたらと思ったら居ても立っても居られなくてね、二人で探しに行こうかと思っていたんだ」


「そう思っていたらリリィが帰ってきてくれたからさ」


「それで抱きつかれたのですね…」


 リリアンは理解すると突然の貴族の行方不明事件。そしてギルドマスターの死亡。これらの事件が何かが関係しているとしたら、封印された黒魔女が関係しているのではと感じる。


「そういえば、リリィはダンゲルのところに行っていたんだろ?ちゃんと会えたのか?」


「それが…」


 リリアンはダンゲルが何者かに殺されたことを話す。その話を聞いてハンスも悲しそうな顔を見せる。


「そうか、まさか精霊使いの彼が…」


「はい、とても残念です」


 すると執務室にボーマンが扉を勢いよく開けて入ってくる。彼は焦った表情をしており、ハンスたちにあることを伝える。


「公爵様、お話中失礼します!前皇帝が、死体で発見されました!そして前皇后、アーサー元皇太子は、行方を眩ませ脱獄をしたと思います!!!さらにアルフレッド公爵が死体で発見されました!!!!」


 突然の大きすぎるたくさんの事件にリリアンの脳内はパニックを起こす。この時、厄災の歯車が歯を合わせて回り出したことは、この時はまだ誰も知らない。

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