輪環のリンカネーション

ドロップ

第一涙 やっと死ねたと思ったら……

 輪環りんかは、一糸まとわぬ姿で、光のトンネルをくぐっていた。

 リアル世界での散々な人生を終えて、次の世界に転生される最中だった。

 目を閉じると、リアル世界の記憶が断片的に蘇った。

 母の声「お前は悪い子だッ!」

 父の声「人様に迷惑をかけるなッ!」

 小学校の先生「競争社会で勝てる人間になれッ!」

 テレビのアーティスト「夢は見るだけじゃダメ。叶えなきゃ意味がない」

 

 一生懸命に、良い子になろうとした。

 一生懸命に、迷惑をかけないように頑張った。

 一生懸命に、競争に勝とうとしたし、夢を追いかけた。

 だけど、良い子になろうとしたら、みんなから良い子ぶりっ子だと否定された。

 迷惑をかけないようにしようにしてたら、お前の気持ちが見えてこないと退屈がられた。

 競争しようとしたら、弱いものいじめをするなと軽蔑され、夢を追いかけてたら、あっという間に歳をとってしまった。

 教えられた通りに生きたら地獄だった。

 地獄の中で私は死んだ。


 光の中で、神様の声が聞こえた。

「ごめんなさい。あなたにはもう一度、地上に戻って頂くことにしました」

「ああ神様。どうして私にそんな残酷なことをするのです。わたしはもう、人として生きるのはまっぴらなんです。一刻も早く、この魂を消滅させてください」

「ふふふ。まぁまぁそう言わず、ちょっと落ち着いてください」

 光の中から、美しい女神さまが形になって現れた。

輪環りんかさん。胸とお腹をご覧になって」

 輪環りんかは、女神さまの言ったとおりに、自分の胸とお腹を見た。

「アレッ!」

 輪環りんかはびっくりして目を見開いた。

 彼女の乳房とお腹には、癌の手術跡があるのだが、その傷がなくなっていて、代わりに可憐なハートのマークが浮かんでいた。

 女神さまが言った。 

「頭にハートを思い浮かべて、LOVERY PAIN RINCARNATIONと叫んで」

 輪環りんかは、よくわからなかったが、素直に女神さまに従った。

「LOVERY PAIN RINCARNATION!」

 叫ぶと、輪環りんかの体のハートマークが、眩しく光りはじめた。

 光ったハートは、面積を大きくしていって、やがて輪環りんかの全身を包み込んだ。

 大きな薔薇の花飾り。

 ミステリアスなベール。

 二の腕と太ももを大胆に露出した赤のウエディングドレス。

 一輪の薔薇とおぼしき魔法のステッキ。

 輪環りんかは、魔法少女に変身した。

 しかし、けっして、可憐な風貌ではなかった。

 ドレスの赤は、静脈血管を流れる血潮のようにドス黒く、ステッキのグリップには、いばらが毒々しく光っていて、唇の左端からは、血が滴ったような赤い筋が走っている。

 天使の羽根よりも、コウモリの羽根が似合いそうな出で立ちだ。

 輪環りんかは、自身のダークでちょっぴり破壊的なルックスを見て、意外にもお気に入りの様子だった。

「リアルがつらかった分、あなたには壊したいものがきっとあるはず。あなたは立派に傷付きました。その傷があなたの魔法のステッキです。さぁ、地上に戻ってください。そして、魔法少女に変身して、あなたが壊したいものを壊し、あなた自身と、あなたの本当の友達を救ってあげてください」

 女神さまは、そう言って、光の中に姿を消していった。

 

 私が壊したいもの……それってなんだろう。

 

 輪環りんかは、目を閉じた。

 光のトンネルの終点が姿を現した。

 終点は、真っ黒だった。光がなかった。なんだか明かりのない真夜中のような感じがした。

 輪環りんかは、その中へ、ダイブした。

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