第7話
東の方向にある小さな池のまわりを、サーブルたちは住処にしていた。
独特でなまりのある声に、はやくも心地よく感じた。孤立している島からできた、独自の色だ。
東の小さな池のさらに奥に森があり、ちらりと木の頂上あたりに人間の住処の屋根がみえる。
「孤立した空間で、人間と住む場所も近いのかい?」
「思ったよりもここの島は広いのです。湖を渡るとき、苦労しませんでしたか?」
ブランはサーブルの問いに納得してうなずいた。
「東の池の近くに人間の住処はひとつしかないけれど、敵の群れのなわばりは何軒も立ち並んでいるの」
視界のはしで、カマキリが自分の武器を頭上でもち上げていた。敵のカマキリにふりまわしている。不毛な戦いにみえた。カマキリが怪我を負って、もだえ苦しんでいる。
ブランは不安を振り払うかのように、身体をふった。まだ残っていた水滴がとぶ。
「ぼくの戦法がうまく行くかはわからない。けれど、クマを撃退するために、やれるだけのことはやってみせる」
ルックが信用した面持ちでブランをみた。
「陸続き出身の腕をみせてもらおう。ロックがお前たちを認めたくらいだから。我々では、もう知恵を絞れない」
洞穴はずっとこの群れに暮らしている者の分しかなかった。
ブランたちには、巣穴を用意された。貧弱な巣穴の代わりに、高級なコケがしかれた。
秋の冷たい風が身にしみる。ブランはシルヴァーと身体を引き寄せた。
「ロストアイは大丈夫かしら?」
「あいつなら故郷の群れのときに、じかで寝たことがあるから平気だ。心配なのは、代わりないけれど」
「感心しちゃうわ。わたしだったら、耐えられない」
「ぼくらは助け合って生きていくべきだと、ロストアイのおかれている状況をみて、ずっと思っていた」
「これからも、きっとできるわよ。助け合って、助けられることが、まだまだあるわ」
「母さん。見ず知らずのオオカミを迎えすぎだとは思いませんか?」
冷たい風にはこばれて、若い雄オオカミの不満な声がきこえた。
ブランとシルヴァーは、不思議に思いながら巣穴で顔を見合わせた。
「何事?」
ブランはシルヴァーの質問には、答えられなかった。
「でも、ぼくらのことだ__」
「いいじゃないですか、オータムリーフ。クマに苦しめられてきたわたしたちにとって、光ではないですか?」
「それはオオカミのプライドに反する気がする。なんだって醜い顔のやつらに助けられなきゃいけないんだ?」
ブランは驚いて、またシルヴァーと視線をかわした。オータムリーフが不愉快で極まりない。耳を塞いで、オータムリーフの声をきこえなくしたいくらいだ。
「わたしたちは、共存という言葉を知らなさすぎるわ。オータムリーフも、はやくそのことを覚えてちょうだい」
サーブルの長男が、不満げにうなる声がきこえた。
「わたしたちは狩りに行ってきます。でも、あなたは共存という言葉を理解するまで、しばらく参加させません」
「ひどいよ。昨日の敵の群れを、馬の骨ともわからないオオカミから、僕はちゃんと守ったじゃないか!」
オータムリーフが、講義するかのように声をあらげている。
「今でもあの群れに嫌がられているのに。これ以上この群れを汚すのか?」
彼に気がつかれないようにしながら、ブランは顔を出して様子をうかがった。
サーブルは、オータムリーフの言葉に耳を貸さない。そばにいたルックと低い声で何か喋った。サーブルたちは、数頭のオオカミを引き連れて狩りに行ってしまった。
オータムリーフが不機嫌な足取りで自分の洞穴に帰った。
ブランとシルヴァーは、巣穴に同時に顔を引っこめた。シルヴァーの銀色の首回りの毛と、ブランの毛が重なった。
「ぼくたちのこと、快く思っていないオオカミがいる」
「まるでロウラみたい」
噂話できいたロウラのことを想像したのか、シルヴァーが口をゆがめた。
「一匹くらい不満に思うオオカミはいるよ。全員に好かれるなんて、無理な話だ」
不愉快に感じていたシルヴァーに対して、ブランはなぐさめの言葉をかけた。
オータムリーフの気配がきえてから、ブランたちはようやく外へでた。
美しい毛並みの白い雄オオカミが、焦げ茶色の雄オオカミと遊んでいる。それを、マロンに似た雌オオカミが見ものしていた。
白い雄オオカミがブランたちに気がついた。美しい表情で彼の口元が微笑んだ。今までに見たことがない。澄んだ青い目が光っている。
「ようこそ、ぼくらの群れに」
焦げ茶色の雄オオカミが白い雄オオカミの尻尾でじゃれていたが、動きをとめた。
「おまえたちは、今度ムース狩りの方法を教えるんだってな」
口調や仕草はオータムリーフに似ている。
「サマーリーフ、楽しみだと思わない?」
「きいたところによると、オータムリーフは不満そうだった。そうだったよな、スプリングリーフ」
「わたしたちは、あなたたちのことを歓迎するわ」
ブランは新しい群れの仲間たちに、感謝をこめてまばたきをした。
「ウィンターリーフ、ブランたちを入れて遊びましょうよ」
スプリングリーフが可愛らしい瞳で、ウィンターリーフを見た。
ブランはシルヴァーと顔を見合わせて、笑いあった。
これだけぼくたちのことを受け入れてくれているのなら、オータムリーフのことは気にしなくていいだろう。
夜が深まった。ウィンターリーフの白くぼやけた姿が見えたかと思えば、こちらまで駆けてきた。
「ブラン、ルックとサーブルが言っていたんだ。今日はぼくの寝床で一緒に寝てみたらどうだろうって」
ブランは彼の言葉をきいて、首をかしげた。
「まだ仲間入りしたばかりだろう? おいでよ。これまでの冒険話をきかせてほしい」
ブランはこれほどまでに歓迎してくれるとは思いもしなかった。喉を鳴らして、感謝をしめした。
和気あいあいと肩を並べた。遠吠えのように、少しふざけた歌もうたった。
「ぼくは散々ロウラや心ともないオオカミたちに苦しんだよ。この顔で」
ぼくたちは歌を少し中断した。
「オータムリーフは、その顔を特に快く思っていないみたいだった。卑しい身分に何故ムース狩りを教えられなきゃいけないんだって」
ウィンターリーフの表情が曇ったが、それは一瞬のことだった。
「ロウラみたいな思考だ」
ブランは肩をすくめた。
「ぼくはもう、この顔のことで悩むつもりはないよ」
「君の意思は強いな。ロストアイもそうだ」
ブランは美しい表情をしているウィンターリーフをじっと見つめた。
相手が五体満足な身体をしていても、尻尾を後ろ足に挟んで俯くことはない。
東の池のなわばりを網羅しているわけではなかった。ルックとサーブルに連れられて、なわばりを何回も一周してきた。その間に、ほっそりとしたキツネに出くわした。
雪深い季節に出くわしたキツネをふと思い出した。
ブランはウィンターリーフと息がぴったりと合った。ウィンターリーフの誘導のおかげで、キツネを易々と追い払うことができた。
「やったな」
ウィンターリーフの美しい瞳が生き生きときらめいた。鼻面でわき腹にふれられた。ブランは悪い気にはならなかったので、口角をあげて、歯を見せておどけた。
なわばりの確認の際に、ネコ科の動物の糞が落ちていた。
「見て。でも、近づかないで」
サーブルの近くにいたスプリングリーフが、耳を寝かして糞を見た。
糞に群がっている小さな半透明の黄色い虫を見つけた。
「このプラズマ虫に近づかないでください。極度な怖いもの知らずになってしまうから」
サーブルが少し声を落とし、気の毒そうにスプリングリーフをちらりと見た。
「近づかないほうがいいくらい、恐ろしいのですか?」
ブランの問いに、スプリングリーフが重々しくうなずいた。
「自分よりもたうちできない、大きな相手に挑むようになってしまうの。度が行き過ぎて、命を落とすかもしれない……」
スプリングリーフの尻尾が垂れた。それを見たブランの首筋の毛が薄っすらと逆立った。
大型の動物の狩りの戦法を、実際に教えることになった。凍えるような風が吹く。クマが冬眠する季節に入った。湖も凍った。
「なんだってずっと魚とりをしてきた僕たちに、ムースなんかの戦法が必要なんだ」
オータムリーフが不愉快そうにブランをにらんだ。
サーブルとルックを先頭に、湖の凍った水面を慎重に歩いた。氷の上を歩くのは、骨の折れる作業だ。
足元を気にしていたが、オータムリーフの耳障りな声で集中できない。ブランは短い悲鳴をあげた。足が滑り、前方を歩いていたオータムリーフにぶつかる。前足が泳ぐように動いて、彼の後ろ足にあたった。オータムリーフもよろめき、他のオオカミたちにも被害がでた。
サマーリーフとウィンターリーフがぶつかり、スプリングリーフの悲鳴がきこえた。
ルックが持ち前の筋力で何匹かのオオカミを受け止めた。
「大丈夫か?」
「おかげで、歩かずにすみました」
ブランはオータムリーフを睨みながら、皮肉をこめて言った。
湖を渡る道中で、オータムリーフはブランの顔のことを非難している。
陸に上がると、シルヴァーがブランをなぐさめた。それが春の陽気のように心地いい。
「ブランは大人なのに、毎回なぐさめるなんて。わたしが子育てをしているみたいよ」
遠まわしに何か気がついてほしそうに、むっとした口調で言った。冬が深まるにつれて、シルヴァーはブランの近くでそわそわしている。ブランも、身体がむずむずしていた。
「ぼくたちは、愛にとってぴったりな冬を逃している。けれど近い将来、絶対にこどもたちの顔が見られていると思うよ。それも、健康で綺麗な子が」
誰にもきこえないようにささやいた。シルヴァーが少し照れたように視線をそらす。
「まさか、氷の上を歩くことになるなんて。陸続き出身のオオカミは、考えることが違うな!」
照れ合っているブランたちを、ルックが豪快にも笑いとばした。オータムリーフの鋭い視線も感じる。
ブランはオータムリーフの言動を気にしないように努めた。シルヴァーのぬくもりで、力がみなぎる。
北の山からおりた風が冷たい。ムースのにおいが鼻の孔にはいった。
湖の氷の上は不安定だった。しっかりとした雪に積もった地面に肉球がふれた。ブランはほっと息をついた。
ロストアイがブランたちの様子を控え気味に見守っていたが、こちらまでやってきた。
久しぶりのムースの狩りに、胸が躍る。胃袋も虫の音をたてて暴れ出した。
いつもより太陽は淡い光だ。冬眠中のため、クマはしばらくは出くわさない。太陽は空の低い位置にあった。それも、春になればもっと光は強くなるだろう。きっと、武器になる。
オータムリーフは、ブランたちの狩りの前触れの遠吠えに、見向きもしない。
それでも気にしなかった。シルヴァーとロストアイが隣にいるだけで、力が湧いた。
夜明けの空に、ムースの若い個体の毛色が溶けこんだ。悠々と群れで食べ物を探している。
ブランを先頭に、ムースを追いかけはじめた。あれだけ大きい図体をしているにも関わらず、ムースの走りは速い。それでも知恵をしぼる。ムースを疲れさせることは、至難の業だ。
サーブルとルックたちも、ブランの後を追うように走った。
何日間かムースを追跡した。ようやく、はみ出た個体を見つける。ブランは小躍りした。
太陽の位置を確認すると、そちらへ追いこむようにムースを誘導させた。
ムースは光に目をくらませ、いなないた。片方の前足を揺らしている。
ブランは喉元を噛んだ。毛深いものが歯に絡まっても気にしない。返り血をあびた。
ムースは死に対する恐怖を味わっている。シルヴァーが後ろ足をねらって、横ざまに倒れさせた。
嬉しくなって、三匹と視線をかわした。サーブルとルックが感心している。こちらまでやってきた。オータムリーフ以外、その場にいた誰もが尻尾をふっている。
「魚の味を教えてもらったお礼に。食べてみて」
ブランはサーブルと挨拶するかのように、鼻をふれあわした。
「僕は食べないからな!」
オータムリーフが威嚇するのをよそに、サーブルとルックたちは貪るように食べた。
「生きているって感じるわ。このムースも、生きていたんだって、わかる」
ブランはサーブルの言葉に共感し、尻尾をふった。
「今こうして生きているという喜びを、何よりも感じられる狩りだった」
ルックが感心した様子でブランをみた。
「そのムースのどこがいいのかわからない。何日もかけて追跡したんだろう?」
オータムリーフが小馬鹿にしたように言った。
「そのうち魚が捕れない事態になったら、どうやって過ごすというのですか? もっと寒くなって、今流れている川も凍るかもしれない。もしかしたら、人間の住処に近いから、汚染されるなんてこともあるのですから」
「起きるわけがないよ。母さんは迷信しすぎだ」
「とにかく、わたしたちは孤立していることを、忘れないように」
オータムリーフ以外の数名のオオカミは、サーブルの言葉を真剣に受け取った。
「満足だ。魚とりをブランたちが覚えられたように、ムース狩りもきっと覚えられる。できれば、冬のあいだに覚えたい」
「そうすれば、冬眠から目覚めたクマに対抗できますからね」
ルックの言葉を、サーブルが引き継いだ。
オータムリーフの不愉快な態度は続いた。その度に、シルヴァーからなぐさめてもらった。
ブランはひとりで魚とりに出かけた。顔を水面にのぞかせる。何も躊躇はしなかった。
凍りつくような川に、顔をつっこませる。勢いよく雫が散った。器用に魚を牙で引っかけた。
もう一度、ブランの顔が水面に映る。魚をくわえていたので、頭を高くあげた。川の水面を見て、動じることはない。
魚の独特なにおいに気をとられた。サーブルとルックが近くでブランを呼んでいる。
「あなたたちに話したいことがあるの。シルヴァーは?」
「巣穴にいます」
ブランは魚をくわえていたため、口ごもったような声になった。
「ごめんなさいね。まだ洞穴を用意できなくて」
「お前たちに大事な話があるんだ。シルヴァーを呼んでくれないか? 森で待っている」
ブランとシルヴァーは、サーブルたちが待っている森で落ち合った。秋の時期のクマの痕跡がまだ残っている。緊張感で空気が張り詰めた。
「オータムリーフに、どうしてもきかれたくない内容なの」
「何かあったのですか?」
サーブルは決意したように少し深呼吸をした。目を開いた彼女の輝きは、優しいものだった。
「あなたたちにこの群れを引っ張ってほしい」
ブランは度肝を抜かした。シルヴァーと驚きで目を丸くし、視線をかわした。
「そんな。ぼくらはクマを撃退したら出ていく約束でしたよね?」
「嫌なら全然断っても大丈夫。けれど、オータムリーフがこの群れを引き継いだらと思うと、不安で」
「他のオオカミたちに頼めばいいじゃないですか?」シルヴァーがやんわりと指摘した。
「あなたのようなリーダーのある素質を、わたしたちは今まで見たことがありません」
「ムース狩りでブランの行動に目星をつけた。俺たちは本気だ」
ブランは言葉がでなかった。さっき喉を癒したばかりなのに、もう口の中が乾ききった。
「お褒めいただくのは恐縮です。でも、血も繋がっていない部外者を、他の仲間たちは受け入れてくれるでしょうか?」
空気が重々しく震えたことに、ブランたちは気がついた。会話を中断した。首の毛の周りが逆立った。
「クマだ」
ルックはそう言った後、警告をこめた遠吠えを響かせた。
「あなたの魚のにおいに反応したんだわ」
クマが木立の間から姿を現した。オータムリーフを含めた仲間も、すぐに駆けつけた。
太陽の光は弱い。幾重にも空に広がる葉と枝でさえぎられている。
それでもブランは望みをかけて、日の光のある方へ誘導させた。
クマは狂乱している。獲物を求めている。ブランは恐怖がこみあげた。
ブランはひるんで、足がくじいた。クマの荒い息遣いが耳元でする。
サーブルがブランを庇うかのように前へでると、悲鳴があがった。
ブランはクマの攻撃の衝動で後方にあった木の幹に背中を打ちつけた。
ぶつかった衝撃で、一瞬意識がとんだ。サーブルの苦しげな呼吸の音がきこえる。
ブランはたじろいだが、どうにか起き上がった。
群れのオオカミたちが、サーブルを守ろうとクマを誘導させはじめた。オータムリーフは怖気づいているのか、その場から動かない。
ブランはそんなオータムリーフの怒りに任せて、また戦いに身を投じた。
父の死に対する念の靄のようなものが感じる。身体がチクチクと刺す。
クマはブランの身体についた魚のにおいを求めて、うなっている。
ブランは脳死したままクマを群れの仲間たちから引き離した。
怯えるシルヴァーの顔が見えた。ロストアイも、やめるように声をあげた。
ブランは走った。東の池まで誘いこむ。太陽の光が池の水面に反射した。
クマが目をくらませた。ブランの脳裏に、父の無残な死の光景が見えた。
ブランは胸筋に向かって牙をたてた。仲間たちも後に続く。勇猛果敢に立ち向かった。
激しいしぶきがあがる。クマは横向きに倒れた。クマが池に溺れるように頭をうった。
悶えるような声がした。森の空気が激しく震える。クマの身体がよじる。そのたびに、血の混じった水を、ブランは浴びた。
静かになった。島の森に住み着いた一頭のクマは、息絶えた。
「愛しているわ。ルック……」
苦しい息の下から、サーブルがつぶやいた。ルックを見上げた目に、輝きはない。
ブランは息をつめて見守った。母のブルームが父のストームにしたように、サーブルもルックに対して愛をしめした。
ずっと足元にまとわりついていた、父の死に対する念の靄が消えた。
サーブルも息を引きとった。ルックが自分の表情は誰にもわからないように俯き、サーブルを偲んでいた。
シルヴァーが顔に影を落としながら、近くまでやってきた。
「あなたも、サーブルもとても勇敢だった。わたしがこどもをもつときが来たら、サーブルのようになりたいわ」
ルックが物悲し気に、だが少し誇らしげにシルヴァーに視線をうつした。
「そう言ってもらえて光栄だ。お前たちは今日からこの群れを引き継ぐのだから」
ルックの声は弱弱しい。オータムリーフが信じられない思いで発言した。
「待ってよ。僕は母さんと父さんのこどもで、長男だ。いつも年下のオオカミたちの面倒を見ていたじゃないか」
ルックがよろよろと立ち上がった。オータムリーフに一言も返さない。
ブランは急いでルックを支えた。番を亡くした悲しみに、ルックは暮れている。
ブランの様子を見て、オータムリーフが威嚇した。
「僕の父さんに気安く触れるな!」
「自分の序列のことを気にするなら、今のルックの容態を気にしてやったらどうだ?」
ブランはこれまでにないほど酷な口調で、吐き捨てるように言った。
オータムリーフが、一瞬愕然とした顔になった。すぐに気持ちを切り替えて、鋭くブランをにらんだ。
「どう思う? 僕の立場を一瞬にして奪ったんだ」
オータムリーフが悔しそうに目をぐっと細め、近くにいた兄弟に声をかけた。
ブランは動じなかった。シルヴァーとロストアイについてくるよう、尻尾をふった。
「帰ろう。このような空気では、ルックの身体がもたない」
「ぼくは、ブランとシルヴァーがリーダーになるべきだと思う。クマを命がけで追い払ったのは、彼だ」
オータムリーフに問いを投げかけられ、ウィンターリーフの冷静に答える声が、後ろできこえた。
夕暮れ時になった。ルックのために、栄養のあるムースを狩る仲間を引き連れた。まだ湖は凍っている。湖の後ろにそびえたつ山は、雲におおわれて見えない。
ブランとシルヴァーを先頭に、積もった雪の道を進んだ。オータムリーフの古いにおいもする。新しい雪で足跡はわからなかった。
「あいつはこの群れから出て行った」
オータムリーフに対して、反論していた弟のウィンターリーフが、白い息をはいた。小柄なオオカミで、ブランたちが踏みならしてできた雪の道を歩いた。
シルヴァーとロストアイが顔をしかめた。
「もうあのオオカミのことは考えないようにしましょう、ウィンターリーフ。実の両親が大変なときに、自分のことしか考えられない。ただのちっぽけなオオカミよ」
ウィンターリーフが身体をかがめてゆすった。歩きながらの服従の姿勢だ。
ムースは残り少ない針葉樹の幹の皮を、ゆっくり食んでいる。冬になると、ムースはオオカミのように群れで行動した。
ブランたちは何日もムースを追跡した。群れからはみ出し者がでるまで粘った。
浅く積もっていた近くの雪が深くなった。足を動かすたびに、筋力をつかう。
空気も冷えこんで薄い。ブランはじっとそのときが来るまで伏せていた。
翌朝の夜明け前になった。ようやく変化があった。若い個体のムースが、群れからそれる。
ブランは眠気と闘っていた。目がしょぼしょぼする。それでもどうにか起き上がった。仲間と一緒にムースを追いかけようとした。
ムースの筋肉質な身体をみて、ブランは諦めがついた。尻尾をふって、仲間に合図を送る。
「ダメだ」
「仕方がないわ。ルックのことで気が滅入ってしまっているから」
シルヴァーがまばたきをした。その声は、後ろめたく感じる。
「後の群れの仲間たちが、魚を捕ってくれているといいけど……」
ブランは不安になって短く鳴いた。死が忍び歩きで、影のように迫ってきている気がする。
幸いなことに、古びたキツネの死骸が近くでみつかった。ルックとサーブルになわばり案内をしてもらったときに出くわしたキツネだ。赤黒い血が雪に沁みついている。
ブランはその血をみて、身体が震えた。これまで死をまじかに感じたことがいくつもあった。
ここにいては、いつ死が迫ってきてもおかしくはない。ブランは恐怖を覚えた。
東の池のなわばりにもどってきた。キツネの死骸を口でくわえた。キツネに苦戦したあの日のことを思い出す。
なわばりの拠点で、気重な空気がただよう。ブランは嫌な予感がした。胸がちくりと刺す。
ブランたちは駆け足で拠点へ急いだ。ルックの死臭が鼻の孔に入りこんだ。殴られたときのようなショックを受けた。
「ルック!」
ブランはかすれた声をあげた。洞穴に横たわるルックに近づく。白目を向いていていた。もう瞳の輝きはなかった。その顔は何か言いたげだ。オータムリーフのにおいも遺体についている。
ブランは激しい憤りを感じた。呼吸が苦しくなった。狭い洞穴で、圧迫感がある。
「ウィンターリーフ。仲間を連れて、オータムリーフを追跡してほしい。けれど、無茶はしないように」
ブランのかぎ爪がうずいた。思わず顔が険しくなる。
仲間に指示を出す横で、ロストアイがそっとブランを見上げた。
「落ち着いて。まだ彼が殺した証拠はないと思う」
「あいつのにおいがルックの遺体についていても?」
「様子を見ただけじゃないか?」
ブランは愕然とロストアイをみた。
「きみは、オータムリーフを庇うのか?」
「そういうことじゃないな。ぼくは、ただ視野が狭くなっていることを、警告したかっただけ」
威勢よく尻尾をふっていたが、草をかすめて止まった。
「わかった。きみの意見を尊重する。ぼくは頭に血がのぼっていた。ぼくは、仲間の死をみるのが辛いんだ……」
「わかるよ」
ロストアイが静かに認めた。
父の念の靄は消えた。なのに、心にまだあの光景がこびりつく。どれだけ鋭いかぎ爪で剝がしても、とれそうにはない。
「せめてオータムリーフに、もうなわばりに侵入しないようにだけ、警告させてほしい」
群れの仲間たちは、重々しくブランの言葉を受け止めた。
ブランは肺がつぶれるような思いになりながら、警告をこめた遠吠えをした。
ロックの悲哀な遠吠えが返ってきた。しばらくふたりはサーブルとルックの思い出にひたった。
それを邪魔するかのように、オータムリーフの蔑む遠吠えが、西の湖からきこえてきた。
「オータムリーフがぼくたちのなわばりにいたときは、執拗に追い払ってくれ」
つんざくような悲鳴がきこえた。ルックのお通夜を最後まで通していたブランは、目をあけた。
近くにいたシルヴァーも頭をあげた。
「間違いないわ。オータムリーフよ」
「見に行こう」
ブランはルックにもう一度鼻をふれあわせた。ルックが心残りのないようにするのが、ぼくの今の務めだ。それを成し遂げて、リーダーにはなれない。
ブランはかぎ爪がまたうずいた。ロストアイに一度は指摘された。けれど、ルックの靄を感じた。
ブランは眼光を鋭く暗闇のなかでひからせた。声のした方角を頼りに突き進む。
ウィンターリーフの銀色と白の混ざった毛皮がみえた。誰かを押さえつけている。
「お前はどうしてここに戻って来た?」
穏やかな雰囲気に見えたウィンターリーフの顔は険しい。ブランは身震いした。
「知ったことか」
オータムリーフが苦し紛れに息をはいた。
「お前を絶対殺してやる。ブランという輩もな」
オータムリーフは勢いに任せて、ウィンターリーフを跳ねとばした。
ウィンターリーフは足をくじいたのか、なかなか起き上がらない。
オータムリーフが西の池のある方向へと逃げ去った。赤黒い血が地面にしたたっている。
「しそびれた」
ウィンターリーフは厳しい目つきでつぶやいていた。
ブランは控えめに彼の名前を呼んだ。ウィンターリーフは、何かに取りつかれている。
ロウラが群れのなかで低い地位になることを恐れているときのようだ。
「僕は大切な両親を殺したあいつが許せない」
「いつも美しい顔をしているのに。もったいないわ」
シルヴァーがなぐさめるように、ウィンターリーフの頬をなめた。
ウィンターリーフはそれには応じず、ブランを見上げた。
「誰かに殺意を覚えたことって、あるか?」
「ないよ」ブランは彼の剣幕に驚き、一歩後ずさった。
「ぼくは悲惨な死をたくさん見てきたから。でも、オータムリーフは罰せられるべきだ」
「わたしはふたりが怖いわ」シルヴァーがかすれた声でつぶやいた。
「ごめん。脅すつもりはないよ」ブランは愛情をこめてまばたきを送った。
「ただ、ぼくの父が死んだときのように、怒りや焦りをルックから感じた。みんな、死に対してはそういう感情をいだくんじゃないかな」
「やめて。もう怖い話はしないで」
シルヴァーが訴えるように目をうるめた。
ブランはシルヴァーの怯えた顔を見て、後ろめたくなった。
「悪かった。もうこの話はしない。ウィンターリーフも、お願いだ」
少し落ち着いたのか、彼はいつもの美しい顔にもどていった。
ロックに送る遠吠えをした。クマに立ち向かったサーブルの勇士を話した。ルックの惨い死に方も、遠吠えにのせた。悲哀に暮れた遠吠えだった。胃が押しつぶされそうだ。
月が三回登った。ロックの遠吠えは、返ってこない。なわばり主張をしているときの遠吠えでも、返してくるのに。
ムース狩りの途中で、ロックが息絶えているのがわかった。クマにやられた跡ではない。少し細くて曲がった丈夫なかぎ爪の跡は、オオカミのものだ。
ブランは疲労していた。いくつもの重なった死に、耐えられない。
「許せない」
ブランはつぶやいた。ここの湖の案内人だったロック。過ごした時間は短かった。それでも、ロックのことがだんだん好きになった。
「もしかして、オータムリーフ?」
「それはない。僕はあいつのにおいがわかったら、すぐに反応するから。本当だ」
ウィンターリーフが憎々し気にうなった。苦悩に満ちた顔をしている。
「西の湖のオオカミなのかも。だって、はじめて衝突したとき、『あのおいぼれがどうした!』って言っていたわ」
気重な空気感に、狩りもまた失敗に終わった。ブランたちはムース狩りを中止した。
川でとれた魚をつかんだ。不思議なことに、舌触りの触感が気持ち悪く感じた。ブランは吐き出した。胃がむかむかする。気分も悪い。
ブランは自然と呼吸が荒くなった。頭もぼうっとする。死がそこに迫ってきている。
怖かった。怒りと焦りもある。ふっと目の前が暗くなった。
孤独と闘っている気分だ。薄っすらと目を覚ます。シルヴァーの緊張のとける息遣いがする。
視界の端で、白い息がみえた。そのことに、安堵を覚えた。
「大丈夫? 獲物もしばらく食べられていないから、苦しそうだったわ」
「何故か、食欲がわかない。でも、このままでいるのも怖い」
ブランは身震いした。
「ぼくは死ぬのかな」
そう発言したあと、恐怖で顔が引きつった。
「わたしが死なせないから安心して。これから楽しいことがたくさん待っているわよ」
シルヴァーの川のせせらぎのような声に、ブランは息をはいた。
「すまない。こんな弱気になってしまって」
「誰も、身近に死が重なったらそうなってしまうわ。自分を責めないでちょうだい」
ブランはしばらく両前足のあいだに顔をつっこんだ。シルヴァーと、次の春でこどもが生まれることを想像した。いくらか気持ちが落ち着いてきた。
ブランの身体がむずむずした。凍えるような寒さは、いつまでつづくのだろう。
「ほら、もう生きる楽しみがあるじゃない?」
シルヴァーが茶目っ気にウィンクをした。
「ぼくは死ぬのが怖いだけだ」
「そんなことを考えるのは老後のときにしましょうよ。今考えても、仕方がないわ」
近くで小さな虫が、寒さで力つきている。細い足の先を、微かに動かしているだけだ。
ブランは洞穴から少し顔をのぞかせた。夜中にみぞれのようなものが降って、水たまりがいくつかある。洞穴に近い場所で、小さな虫はそれにおぼれている。
ブランはショックを受けた。背中にそって、毛が逆立った。もっと大きいものに立ち向かうことになったとき、ぼくもそうなるかもしれない。
西の池の方向から、大きな音がした。人工的な音だ。針葉樹の先端から、煙がのぞいている。
風にのって、遠くから微かに悲鳴がきこえた。きっと、西の池のオオカミの悲鳴だ。
はじめてきいた、大きな音だった。クマのうなり声よりも身体にひびく。黒いオオカミの群れのときのように、炎の焦げ臭いにおいはしない。
ロストアイが苦悩に満ちた顔で、魚の残骸をくわえてやってきた。
「これだけしか捕れなかった」
「ありがとう。例えごくわずかでも、腹持ちはするわ。大きな力になるの」
シルヴァーがロストアイから魚を受けとった。
ブランはしぶしぶ魚の残骸を食べた。小さな骨が引っかかって、食べにくい。
秋に見た魚より、小さい。それでも落ち着くことはできた。
「あまり無理はしないで、ブラン。ぼくらはずっと見守っているから」
ロストアイが親愛の目をブランに向けた。少し力が湧いた。ブランはロストアイと鼻面をふれあわせた。
何の前触れもなく、ロウラとマロンの遠吠えがきこえた。ブランの首筋の毛が逆立った。思いもよらない声に、気が動転した。東の池のように丸い月が、空にうかぶ。少し寒さが和らいだ空気がふるえた。
ブランとシルヴァーのあいだに、沈黙がしばらくながれた。シルヴァーの目が、不安げに動いた。
「ロウラとマロンがこの湖の島にいるのよ」
シルヴァーの声はいつも安心できるのに、このときばかりは不安になった。
ロウラたちの遠吠えは、勝ち誇った声にきこえる。お互いに不安を和らげようと、身体を引き寄せた。
「ブラン!」
スプリングリーフの慌ただしい足音がきこえてきた。
「西の池のオオカミたちのリーダーが変わったの!」
「ロウラだろう?」
ブランは苦いものがこみあげてきて、吐き捨てるようにいった。
「そうかはわからないけれど__サマーリーフが小競り合いで怪我をしたわ」
シルヴァーの目に怒りの色がうつった。
「案内して。わたしたちも加勢するわ」
ブランは気を引きしめた。リーダーになったからには、この群れをまとめなければ。
まだロウラとマロンの遠吠えがきこえる。ロウラは最初から何とも感じていない。マロンには期待外れだ。ブランの身体は震えた。
灌木と茂みの混ざった獣道を駆けぬけた。血のにおいがする。サマーリーフのものだ。
舌にくるピリッとした血のにおいがした。
サマーリーフが後ろ足を引きずって、勇敢にも立ち上がろうとしている。ウィンターリーフがロウラとマロン、オータムリーフの攻撃を受け続けていた。
ブランは勇気をふりしぼった。雄たけびをあげ、ロウラとマロンを追い払おうとした。
「お前か!」
ロウラがあざけるように笑い、攻撃をかわした。故郷にいたときとは比べものにならないくらい、冷酷な表情だ。
「ぼくで悪かったな」
ブランはうなったが、マロンに横腹を殴られた。
シルヴァーとロストアイが冷静にマロンを遠ざけた。そのあいだにブランは息を整えた。
勝ち目がないと判断したロウラが、マロンとオータムリーフを引き連れて西の池のほうへと逃げ去った。
「信じられない」
ブランはまだこの状況が理解できずに、愕然と肩をおとした。
サマーリーフとウィンターリーフが怪我を負っている。それでもウィンターリーフは鋭い目つきでロウラたちが逃げた方向に走りだそうとした。ロストアイがそれを止めた。
「今は勝ち目がないな。そう思わないか?」
この場にいる誰よりも、ロストアイが一番冷静だ。ブランはロウラたちが結託した経緯がどうしても知りたかった。
「薄汚い西の池の敵に寝返りやがって……!」
ウィンターリーフの口調がいつもより荒い。
ブランはどっと疲れを覚えた。ウィンターリーフの目は、殺意で鋭く光っている。
今のウィンターリーフの相手をすることに、恐怖を感じる。
「落ち着いて。一度拠点に戻ろう。ロストアイ、きみは怪我の手当をお願いしてもいいか?」
ブランはどうにか気持ちを落ち着かせた。ロストアイはブランの恐怖を汲み取った。ロストアイは頼もしくうなずいた。狂乱気味のウィンターリーフとサマーリーフを引き連れて、拠点へ戻りはじめた。
ブランは本来のなわばりの境界線の木に、おしっこを引っかけた。
ブランは警告をこめた遠吠えを、シルヴァーと共にロウラたちに送った。
「ロウラたちの遠吠えからすると、西の湖はあいつらに独占されたんだ……」
「前のリーダーはどうしたのかしら」
「わからない。ロックのようにかなり高齢だったし、群れから追い出されてしまったのかも」
前方にリスが見えたが、木の枝に積もった雪にかぶった。苦しい、息のこもった呼吸の音がきこえる。
ブランは恐怖で震えた。クマと戦うよりも、長期戦で、厄介なことになるのかもしれない。
冬の厳しさと相まって、緊迫した空気がただよった。ロウラのこれまでの行いを事細かに群れの仲間に説明した。
大きな生き物に狙われているみたいに、心臓が早鐘を打つ。
それでもどうにか自分を駆り立てて歩いた。
ロストアイがサマーリーフを看病している。ウィンターリーフが冷静な表情で話をきいてくれたので、とりあえずほっとした。
「湖に住むオオカミたちの環境も変わってしまったわ」
スプリングリーフが、両親の死を悼むような表情で口をひらいた。
「話にきいたところによると、そのロウラっていうオオカミはかなり厄介だ。すでにオータムリーフと結託しているのだから」
ウィンターリーフの瞳の奥が復讐の炎で燃えていた。
「何か手を打つべきだ」
ウィンターリーフの意見に、ブランはうなずいた。お互いにロウラとオータムリーフを裁いてやる意思が一致したように思えられた。
「けれど、どうやって手を打つべきか……」
ブランは眉をひそめた。先のことを考えると、どっと疲れを覚える。クマとの戦いでも厄介だったのに。できれば、血を一滴たりとも落とさずに決着をつけたい。
次にどう行動に出るか、苦悶した。
仲間に告げた言葉はかすれていた。
「ウィンターリーフ、あとで一緒に考えよう。一晩で意見が出るものでもない」
「嘘だろう?」
突然、サマーリーフの看病をしていたロストアイの短い悲鳴がきこえた。
ブランは心のなかでため息をついて、ロストアイに近づいた。平然をよそおって彼のそばに行く。少し干からびたネコ科の糞が、サマーリーフの足の裏についている。
「相変わらずネコ科の糞は臭いな」
ブランは不愉快になって短くうなった。
「それだけじゃない」
いつも冷静なロストアイの表情が、曇っている。
「プラズマ虫が彼の肉球の傷口から入りこんだのを確認したんだ。引っ張り出そうと試みたけれど……」
ロウラが現れてから、不運な出来事ばかり起こっている。未来は前途多難なように思えた。
声をひそめてブランに知らせた。
「今はロウラのことで精一杯なはずだ。ウィンターリーフたちを、これ以上不安にはさせたくないな」
「わかった」
黄色い半透明な小さな生き物が体内に忍び寄る想像をして、少し吐き気がした。
風にのって、サマーリーフの少し荒い息遣いがきこえてくる。
「プラズマ虫が体内に入ったことで、身体に異常はないんだろう?」
「スプリングリーフに少し教えてもらったことだから、確かなことはわからない。極度に怖いもの知らずになって、命の危険の察知ができなくなるかもしれない」
「シルヴァーだけにこのことを報告して、サマーリーフを遠くから見張ってもらおう」
顔をしかめてしまうような出来事が重なるたびに、嫌気がさす。働かない頭を必死にひねり出した。
シルヴァーにサマーリーフの容態を説明し、仲間に悟られないような見張りを快く受け入れてくれた。
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