第5話 初めての依頼
冒険者生活も慣れ、最近はダンジョン内で迷子になることもない。
「じゃあ掲示板見て依頼でも受けてみたらどうだ?」
「依頼か~」
これまではダンジョンで魔獣を狩り、それを買取所へ持っていくだけだった。
「そう言えば階級どうなってるんだろ!」
素材の納品数や難易度、種類によって功績が決まる。特にこの街は素材買取所とギルドの連携がしっかりできているので私が日々積み上げた魔獣の素材はきっちりポイントとしてついているはずだ。
少々緊張しながら、冒険者ギルドの階級確認窓口へと向かう。
「
という話は聞いていたので、冒険者の証である銀色のタグに、無事Dと刻まれていたのを確認して安心した。
「すっげぇ! もうDかよ!」
「毎日頑張ってるもんなぁ」
久しぶりに他人に努力を褒められて嬉しくなる。渾身の花嫁姿すら旦那様には褒めてもらえなかった。
「高レベルの魔獣も倒してるからなぁ。戦闘力だけならこの街でも上位にいるだろ、テンペストは」
戦闘力だけなら実力を認めてくれる冒険者は多い。だが冒険者の階級はそれだけでは上がらない。私はまだまだ経験が足りないのだ。ダンジョン内の魔獣狩りはそれなりに評価されてきたが、それ以外はまだまだということだろう。
「護衛の依頼はCからか~」
いつかどこかのお姫様をカッコよく護衛してみたい。
「依頼する側からするとそのくらいの階級は欲しいだろうな」
「確かにね」
と言うわけで、今回私が引き受けたのは討伐依頼だった。
「討伐っつーか駆除だな」
「そうねぇ」
同じ依頼を受けたのは、あらゆる武器を器用に使いこなすレイドと、おっとりしている斧戦士ミリア。3人とも歳が近く気も合う。レイドは武器職人の息子で、ミリアはこの中で1番階級が上のCだ。
「育ちすぎたマンドレイクって、あんな風に好き勝手動いちゃうんだ」
「あれは亜種ねぇ~普通はああはならないわ~」
「そういや色がちげぇな」
場所は隣街へ向かう街道近くにある森の中。討伐対象はすぐに見つかった、と言うよりアチラから攻撃しにわらわらと現れたのだ。
「アイデンティティの叫び声、失くしちゃってるじゃん!」
この世界のマンドレイクは植物型魔獣で、その叫び声を聞くと失神してしまう。だが小さな灰色のマンドレイクはガウガウと奇妙な鳴き声を出しているだけだ。
「そうでもないみたいよぉ~」
ミリアが斧を構え直した瞬間、マンドレイク達が大きく口を開く。
(弾丸!?)
小石のような沢山の球体が、私達めがけて発射された。
「ごめん!」
「大丈夫よぉ~」
カンカンカンカン! と金属音がぶつかる音が聞こえた。
ミリアが斧で弾いてくれたのだ。レイドの方も小さな盾で上手くさばききっていた。魔術師である私が味方全体に
(悔しい~! こういうところがまだまだってことよね!)
「じゃあいきましょ~」
ミリアの緩い掛け声に合わせて、3人でと飛び掛かる。数が多い。さっさと討伐しないと日が暮れてしまう。
「よいしょ~」
「オラァ!!!」
ーーパチンッ
「かた~い!」
「刃こぼれしちまった!」
「燃えないんだけど!?」
敵の最初の攻撃で気が付くべきだった。
「これ! 属性変わってない!?」
「そうみたいねぇ」
マンドレイクは熱に弱いはずだ。だから燃やしたのに少しもダメージを感じていない。
「どうするよ……」
レイドがため息をつくように呟いた。
「依頼料がいいはずだわぁ」
「情報隠してんじゃん!」
「これだけ増えてるってことはかなり放置してたってことだろ!?」
岩のように硬いが、岩程度であればミリアの斧で粉砕出来る。そうはならないということはよっぽど硬いのだ。さて、どうするか。
「私とレイドは関節狙いましょう~あそこなら切り離せそう~」
「じゃあ私は離れたとこで色々試しとく」
「それが良さそうねぇ」
「ええ!? 大丈夫かよ……!?」
レイドは少し慌てるが、マンドレイクの方へ向かっていったミリアを追いかけて行った。
「さて……」
とりあえず、沢山わいてくるあいつらの動きを止めよう。小粒弾をくらっても即死はないが、あれは痛そうだ。
「おりゃー!」
私は地面に足を叩きつけた。そこから急速に氷の柱がバリバリと音を立ててマンドレイク達へ向かっていき、一気に凍らせることに成功した。
「マンドレイクって結構買取金額いいよね? これはどうなのかな~?」
「さーな! とりあえず持って行ってみるか!」
レイドもミリアもうまくマンドレイク達の関節を切り落としていく。凶暴だが強くはない。
(あれでランクはCとDって言うんだから冒険者は層が厚いわね)
2人は1度も敵の攻撃を受けることなく、どんどん数を減らしていった。
「負けてらんない!」
結局1番効くのは氷魔法だとわかった。植物由来であることに変わりはなかったようだ。寒さに弱く、凍らせてしまえばあっという間に活動停止した。
「おーおーおー! よくこれだけ狩ったよなぁ」
夕方、道端にマンドレイクの山が出来上がっていた。
素材買取所もこの量とマンドレイクの亜種というこれまで見たことがない魔獣に驚いていた。
なかなか長い1日だった。空には星が輝き始めている。
「やば! 帰らないと!」
「え~今日くらい一緒に呑まねーのか?」
「御者を待たしてるから!」
じゃ、また! と走り去った後、
「テンペストのやつ、いつまで公爵夫人設定を続けるつもりなんだ?」
「夢のある設定よねぇ~」
という会話が背中から聞こえてきたのだった。
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