【19ヶ条の折檻状】を受け取らないために~佐久間信盛は働いてんだよ!~

信仙夜祭

第1話

 今、私の目の前では、寺が燃えていた。京の都を守るはずの比叡山だ。

 足元には、僧兵が倒れている……。


「何してんのかな~。天誅が落ちそうだな~」


 比叡山焼き討ち……。

 お館様やかたさまの命令だったけど、この後が怖かった。

 だけど、理解もできる。森可成もりよしなり殿を討たれてるしな~。

 浅井・朝倉軍の陣にもなっている。

 こうなると、邪魔としか言えなかった。お館様も2年くらい我慢してたし。


 とりあえず、下山して皆と合流する。


「光秀さんに、秀吉さん……。勝鬨を挙げてるよ。お館様やかたさまの命令なら、本当に何でもしそうだな」


 お館様やかたさまは、裏切られて生きて来た。

 その反動か、絶対的な忠誠を求めて来る。

 だけど……、寺を焼くのは、どうかと思う。

 もう10年以上仕えて来てるんだけど、どんどん危ない方向に進んでんだよな~。

 以前の姉川なんて、川が血で染まったし。明らかにやり過ぎだ。


「佐久間様。どうかなされましたか?」


 秀吉さんからだった。


「ちょっと、疲れたので、休みます。事後処理をお願いしてもいいかな?」


「任せてちょう」


 麓の坂本の町に入って、家を一軒借りた。今日は、本当に疲れたよ。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「川角太閤記……。信長公記……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。

 まだ、朝日が昇った時間なので、静かだな。


「俺……、佐久間信盛さくまのぶもりなんだよな。織田信長に、【19ヶ条の折檻状】を叩きつけられて、全てを失い、高野山で死去する。ヤバくね?」


 ここで、光秀さんが来た。


「佐久間様。体調は如何かな?」


「問題ないっす。一晩寝て、回復したっす」


「それはなにより……」


 その後、お館様やかたさまへの報告へ向かった。





「比叡山延暦寺、ことごとく灰燼に帰しましてございまする」


「……ご苦労。まあ、船作ったの俺だし、楽な仕事だったよね。感謝しろよ」


「「「はは~」」」


 お館様やかたさま――織田信長は、ご満悦みたいだ。今回は、乱れた動きがなかったからだな~。

 まあ、作戦は見事だった。

 この後の結果が怖いけどね。歴史を知っている俺だからこそ、背中が冷える。


 この後は、信長包囲網か~。正念場だよね……。

 だけど、気になることがある。


「松永さんが、いんじゃん……」


 松永久秀……。

 こいつは、裏切ったり、織田陣営に戻ったりを繰り返すんだよな~。

 裏で、足利将軍や石山本願寺、甲斐の武田と繋がっているとの噂もある。

 最後には、火薬詰め込んだ茶器で、自殺って話もある。創作だったかな?


 【戦国三大梟雄きょうゆう】とか呼ばれるけど、転生先がこいつでなくて良かったとも思える。そして、この後の行動を俺は知っている……。



「ちょっと、試してみようかな」

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