宝さがし
ツーチ
宝ものをさがして
「え~~っと……あった! うん? ブドウを地図に食わせろ? なんだ、これ?」
「どういう意味だろうね?」
「はぁ……やっと追いついた」
俺の名は武藤。小学校の教員だ。武藤という名前のせいか、子どもたちにはよくカードバトルを挑まれていた。その度に俺は子供たちのカードを没収したものだが、最近の子供たちはそうした物では遊ばないらしい。
昨今のトレカの買い占めだけが原因ではない。今どきの子供たちは皆、スマホやタブレットでゲームをしている。授業でもタブレットを使用しているし今どきの子はデジタルネイティブなのだろう。
今日はそんなデジタルネイティブな児童たちと学校行事の一環で宝さがしをしている。校長が隠した宝ものをもらった地図を頼りに児童チームと教員チームで探す勝負をしているのだ。
そして子供たちはタブレットに備わっている目的地案内機能や方位磁石を駆使し、俺たち教員よりもさっさか最後のヒントが書かれている場所までやってきていた。
「ブドウを地図に食べさせって、地図がブドウなんて食うわけないよ」
「よく分かんない~~!!」
が、どうやら子供たちは最後のヒントの意味を理解できずにとどまっていた。圧倒的なビハインドからの逆転、俺の頭の中にあのメロディーが流れてくる。
「む、武藤先生……だ、大丈夫ですか?」
「え? あっ、すみません大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけです」
「……はぁ、そうですか」
おっと、いけない。俺の気味の悪い笑みに後輩の先生が心配そうに顔を覗いて来た。
「安心してください。ヒントの意味が分かりました」
「ほ、本当ですか!?」
「え~~、先生分かったの!?」
「マジかよ~~!」
俺たちの会話を聞いた子供たちが俺たち教員の周囲に集まって来た。
「答えは……これだぁ!!」
『バシュ!!』
俺はその場においてあったブドウを1粒とると、それを地図に押しつけ、ぐるぐると塗りたくった。すると地図の色がみるみるうちに赤く染まり、そこから何かが浮き上がる。
「これって……?」
「化学反応ですよ。ブドウに含まれるアントシアニンの成分が地図と反応したんです」
「え~~、何それ~~!」
「そんなのタブレットじゃできないじゃんか!!」
俺の行動に周囲の子供たちは不満そうだ。が、これは仕方のないことだ。校長はそれぞれのチームに紙の地図を与えてくれたのに子供たちはそれをタブレットのカメラで撮ってさっさと地図を捨ててしまったのだから。
「おっ、あったあった!!」
「先生~~、宝ものって何、何?」
「早く見せてよぉ」
最後のヒントに印されていた場所は山の頂上の木の根元だった。俺たち教員はその場所をスコップで掘り進めるとブリキの缶が見つかったのだ。
「じゃあ開けるぞぉ」
『かちゃ』
「……何、これ?」
「きったなぁい……」
子供たちはいっせいに缶の中を見て落胆の声をあげた。その缶の中には昔懐かしいベーゴマやビー玉、おはじきなんかが入っていた。
「これはなぁ、昔の子供が遊んでたおもちゃなんだぞ?」
「え? そうなの?」
「どうやって遊ぶの?」
缶の中の物がおもちゃだと分かるや否や子供たちは目を輝かせて俺に遊び方を聞いてくる。
「これはベーゴマ。鉄のこまだ。こーやって糸をまいて投げる……と。ほらっ、回っただろ?」
「うわぁ、すっげー!!」
「俺もやりたい!」
「先生、このおはじきっていうのはどうやって遊ぶの~~?」
ベーゴマが回ると子供たちは一斉に缶の中のおもちゃにむらがり皆一様におもちゃを手に取る。
「慌てるな、慌てるな。よしっじゃあ順番に遊んでいくか!」
この宝ものは校長の子供の頃の宝ものなのだろうか。分からないがきっとそうなのだと思う。そして俺は子どもたちとそんな宝ものを手に取りながら大笑いしながら遊ぶ。
今日のこの日が大人になった時にこの子たちの宝ものになることを願いながら……
宝さがし ツーチ @tsu-chi
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