トライヤルチャンネル
そうざ
Triyal Channel
「イェーイ!! ど〜も〜っ、俺達三人揃ってトライヤルっで〜〜〜すっ!!」
歓声、拍手の
「さぁ、本日も頑張って行きまっしょーっ!」
「行きまっしょーっ!」
『無駄に元気溌剌』と太文字の字幕。
「お前等ぁ。うっせぇ、うっせぇ、うっせぇか?」
『謎の疑問形?』の字幕。
「という事で、今回は僕、ナカンダカリからのお題です!」
ジャカジャン♪
「真夏の納涼フルーーーツッ、君達はどう集めるか〜選手け〜〜〜んっ!」
冒頭と同じ歓声、拍手のSE。
「来たーっ、来るーっ」
「来るーっ、来たーっ」
字幕で『どっち?』のツッコミ。
「こちらのタブレットに白地図が表示されてますっ」
「されてますなっ」
「されてますか?」
『しつこいw』
「この直径1キロの円の内側でフルーツを確保して貰います!」
「はい、質問です。いつも思うんだけどどうして俺等がそんな事をしなくちゃいけないんですかーっ?」
「はい、質問却下」
「却下、承りました!」
背筋を伸ばして敬礼。
『素直www』
ここでマーチ調の精悍なBGMに乗せてナカンダカリのナレーション。
「詳しく説明しよう! サルワタ、ドウキメの両名にはこのようなビンゴカードが配布される」
縦横5列ずつ(ど真ん中は『フリー』)のマスにフルーツが描かれたカードが画面に映し出される。
「マスの絵と同じフルーツを入手し、先に1列開けた方がウィナーという単純明快且つ過酷なゲームなのである!」
字幕でも説明を表示。
「使えるお金は1人3千円! 制限時間は2時間! 移動手段は足のみ! 尚、
『正午ジャスト、ゲームスタート!』
同時に反対方向へ散るサルワタ、ドウキメの両名。
「白地図だから道くらいしか分かんないじゃん」
早くも愚痴モードのサルワタ。
自分の位置を示す赤い点だけが地図上を動いて行く。
ここは、と或るオフィス街を中心としたエリア。アスファルトに夏の日差しが容赦なく降り注ぐ。
『一方その頃ドウキメは……』
「先ずはコンビニっしょ。あっ、あったっ、よっしゃ〜っ」
『早くもファ◯マ、発見!』
タラタラタラ〜ン、タラタラタ〜ン♪
モザイク加工が入った店内映像。
「冷凍フルーツ、種類あり過ぎっ!」
キンコーン♪
『ちなみに代金は自腹です!』
店外に出て大声を上げるドウキメ。
「一気に白桃、マンゴー、苺、パイナップルをゲットしましたーっ!」
歓声、拍手の使い回し。
「でも、もう千円くらい使っちゃったよ。効率良く使わないと直ぐに予算オーバーだな」
ビンゴカードのドアップ。まだてんでばらばらな4マスが開いたに過ぎない。
『12時32分』
ポッポ、ポッポ♪
オフィス街の公園を彷徨くサルワタ。
「こういうちょっとした草叢に何かフルーツ的なものがあるんじゃね? 木苺とかさ」
『なかった……』
チーン♪
『12時45分』
ポッポ、ポッポ♪
「あれあれっ! 大型スーパーッ! めっちゃフルーツあんじゃん!」
国道の向かい側を指差すドウキメ。大型施設に『イオ◯』の大きな表示。
「えっ……駄目だ」
タブレットの白地図が大写しになる。
「円の外側じゃん。行けないわ、くっそ〜っ!」
『13時16分』
ポッポ、ポッポ♪
顎から汗を滴らせるサルワタと、まだ一マスも開いていないビンゴカードの映像。
「やべぇよ、もう1時間超えた……あ、コンビニじゃん」
いそいそと店内へ駆け込もうとした瞬間、スマホに着信。
「もしもしっ?」
「ナカンダカリです〜、さっき言い忘れたんだけどぉ」
キンコーン♪
『ここで補足説明しよう! 対戦者が先にフルーツを入手した場所は立ち入り禁止! 鬼司令官ナカンダカリが2人の移動データを逐一チェックし、親切にも知らせてやるのであるっ!』
「お前、それって今決めたルールじゃねっ?」
「プーッ、プーッ、プーッ」
『13時23分』
ポッポ、ポッポ♪
雑居ビル街を徘徊する汗だくのドウキメ。足取りが重い。
「この辺、飲食店だらけだけど、料理の中のフルーツはNGらしい」
キンコーン♪
『料理はその場で食べちゃうのでダメ〜w』
「あっ、あれってコンビニッ?!」
猛ダッシュのドウキメ。
「……って、調剤薬局かぁーっ!!」
チーン♪
崩れ落ちるドウキメ。
『13時34分』
ポッポ、ポッポ♪
はぁはぁとアスファルトを疾走するサルワタの映像。
「やった〜っ、こんな所に!」
テッテレー♪
『裏路地に小さな青果店を発見!』
「選び放題じゃんかっ!」
歓声と拍手。
「パプリカはフルーツじゃない。トマトも野菜だよな。胡瓜ダメ、茄子ダメ、人参ダメ!」
しかし、バナナ、蜜柑、キウイを次々にゲット。嬉しさ余って西瓜を丸々1個、購入。
「あーっ、ドラゴンフルーツがあれば列が揃ったのに〜っ、売ってな〜い!」
ドラゴンフルーツの画像が挿入される。
「もう喉がカラカラ。西瓜で水分補給だ……あ、食べたらカウントされないって奴か?」
『西瓜を抱えながらゲーム続行のサルワタ選手www そもそも西瓜はフルーツか?』
『13時41分』
ポッポ、ポッポ♪
「おっ、2人が接近しています。盛り上がって参りました〜っ」
ビル街の一角に待機したナカンダカリ。そのタブレットに表示される2つの光点。
「あっ!」
「おっ!」
サルワタとドウキメが互いの姿に気付く。それぞれにフルーツの入った袋を重そうに提げている。
そこに、麦藁帽子にランニングシャツ、半パンに草履履き、口の周りをぐるりと黒く塗った髭面のナカンダカリがリアカーを引いて登場。
「ちょ、何してんだぁ?」
「何だよ、その格好は!」
「フルーツ屋でござい。フルーツは要らんかね〜っ」
リアカーには色んなフルーツのダンボール箱が積まれている。
同時に駆け付ける2人。
「俺が先だっ!」
「俺こそ先だっ!」
我先にとダンボールを開けて回る。
「全部、空っぽじゃねーかっ!」
「何だよ、この余計なトラップはっ!」
「実は1箱だけフルーツが入ってま〜す」
それを聞いてまた血眼になる2人。
「あったーっ!!」
大きな実を発見する2人。
「痛っ!」
「掴めねぇ!」
「ここに軍手がありまーす」
ナカンダカリから軍手を引っ手繰り、改めて実を奪い合う2人。
道行く会社員達が3人を遠巻きにして眺めている。モザイク加工されているので表情は判らない。
「うわっ」
お手玉をした実がアスファルトに落ちるが、割れずに転がり続ける。追い掛ける2人。同時に掴んで天に掲げる格好になる。
「臭っ!」
「これってまさか」
「フルーツの女王でーす」
真夏の昼下がり、オフィス街にドリアン臭が立ち昇る。
「もう……ゲホッ、お前にやる、ゲホッ」
「お前こそ……オエッ、持ってけ泥棒」
汗みどろでへたり込む2人に、ナカンダカリが一言。
「税込み3,980円でーす」
「予算オーバーするじゃんかっ!」
「そもそも買えねぇじゃんかっ!」
『14時ジャスト、タイムアップ!』
室内映像に切り替わる。入手した全ての品がテープルに並べられている。
「お疲れ様でした〜っ」
何回目かの歓声と拍手。
「めちゃくちゃ疲れた……真夏にやる企画じゃねぇって」
「ドラゴンフルーツとかドリアンとかレアな奴を入れんなよ」
「それから、アテモヤ? ピタンガ? マボーケ? 実在すんのかよ」
資料画像と共に『実在します!』の字幕。
「特にこのカニステルって何っ?! 蟹が捨てられてる絵しか浮かばんわっ」
ボンッ♪
蟹が捨てられている手描きの絵が大写しになる。
「ところで肝心のビンゴカードは?」
ナカンダカリが2枚のカードを突き合わす。
『1列も開いてねー(笑)』
チーン♪
「もうしょうがないんで、今からフルーツの早食い競争に切り替えま〜す」
「はぁ?!」
「マジでか?!」
「よーい、スタート!」
「ちょちょちょっ!」
「待て待て待って!」
納得しないままフルーツを頬張る様子が早回し映像で流れる。
「冷凍フルーツ、まだ硬いよっ!」
「西瓜丸々1個はキッツいわっ!」
キンコーン♪
『フルーツは全て美味しく頂きましたw』
画面が暗転。
『――しかし、この後、とんでもない事態に……』と、おどろおどろしい字体とBGM。
『某日、某所――』
「体調はどうですか?」
撮影者のサルワタがベッドのナカンダカリに問い掛ける。
「やっと落ち着いた……昨夜とかマジで死ぬかと思ったわ」
「俺等は何ともなかったのになぁ」
ドウキメとサルワタが顔を見合わせる。
ここで映像がモノクロになり、ナカンダカリのナレーションが被さる。
「説明しよう! 先日のフルーツ企画の後、不肖ナカンダカリは強烈な腹痛を起こし、緊急搬送、緊急入院となったのである。実は撮影中は事前に用意しておいた軽食で腹拵えをしていたのだが、どうもそれが傷んでいた可能性大であるっ、以上!」
「直接の原因は何だったの?」
「黄色ブドウ球菌の仕業って言われた」
画面に1文字ずつ爆発のSE付きで『黄』『色』『ブ』『ド』『ウ』『球』『菌』と極太の表示。
「あれ? 葡萄? あ、ちょ、もしかしてっ」
サルワタがビンゴカードを取り出す。釣られてドウキメも取り出す。
「葡萄で1マス開くと……やったっ! 1列揃ったーっ!!」
「待て待てっ、俺も葡萄があれば揃うぞっ!!」
ナカンダカリの眼前に2枚のビンゴカードが突き付けられる。
「あのさ……食べちゃったらNGって言ったよね? て言うか、菌はフルーツじゃねーーーっ!」
チーン♪
『良い子の皆、夏を甘く見ると痛い目に遭うぞっ!』
「チャンネル登録を宜しく! また次回の動画でお会いしましょうっ、トライヤルでしたっ!!」
トライヤルチャンネル そうざ @so-za
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