18 四人
テスト期間が終わって、冬休みになった。けれども僕は大学図書館に通った。公務員試験の勉強をするのだ。雅司と椿も一緒だった。時々休憩に喫煙所に行った。
「あかん。おれ、数的できる気がせえへん」
雅司が弱音を吐いた。椿が言った。
「まあ、講座始まったら戦略的な解き方とか教えてもらえるっぽいしさ? 頑張ろうよ」
「あー! あかん! 酒飲みたい!
アオちゃんち行こうなぁ」
僕は肩をすくめて言った。
「たまには雅司の家に行くのはどうなの?」
「えー、だっておれ、アオちゃんの作ったつまみ食べたいもん」
七瀬さんと付き合って以来、何も言わなくても仕事帰りに彼が直接僕の家に来るのが恒例になっていた。なので二人に言った。
「彼氏が仕事終わったらうち来ると思うけど、それで良ければ」
「七瀬さんよね? あたし、またあの人には会いたい!」
「おれもええよ。彼氏見てみたいわぁ!」
僕は七瀬さんに、友達を呼ぶと連絡しておいた。そして、三人でスーパーに行ってから、僕の部屋に着いた。
「じゃあ、僕作るから。二人とも変なことしないでよ?」
「せえへん、せえへん」
「あたしまだ途中の本あったんだー」
キッチンに立ち、鶏もも肉をハサミで切っていった。皮の部分は分けて、湯通しして、氷水でしめた。それから、ポン酢をかけて冷蔵庫にしまった。肉の部分は、塩コショウで焼いた。
「お待たせ」
僕たちは缶ビールで乾杯した。鶏皮ポン酢が好評だった。このぐにゅぐにゅした食感を楽しめてこそだと僕は思う。椿が言った。
「七瀬さん、まだー?」
「えっと……仕事終わったとは連絡きてる。もうすぐじゃないかな」
缶ビールが一つ空く頃、インターホンが鳴った。僕は玄関に行った。
「七瀬さん、お帰り」
「おう、ただいま。友達来てるんだって?」
「はい。先に一杯やってます」
七瀬さんは僕の隣に座った。それぞれ自己紹介をした。
「おれ、岩岡雅司です」
「あたしは丸塚椿です」
「俺は樫野七瀬。よろしくね」
椿が目をキラキラ輝かせて言った。
「七瀬さん、カッコいいですね。アオちゃんのどこが好きなんですか?」
「ええ? 素直で可愛いとこ」
「キャー!」
「っていうか、葵ってアオちゃんって呼ばれてるんだ」
「雅司が勝手に言い出したんですよ」
最初はアオちゃんと呼ばれるのがくすぐったくて仕方がなかった。二人ともが言い続けるので、僕も観念した次第だ。それから、全員公務員試験を受けるつもりであることを話した。
「俺も受けたの十年以上前だからなぁ。今のことはよくわからないよ? 今は国家も総合職一般職って言うんだろ?」
椿が言った。
「あたし、まだ情報仕入れ始めたばっかりなんで、色々わかんないんですよね。国税ってやっぱり難しいですか?」
「一次さえ受かれば、二次の面接と身体検査しかないから楽だよ。やっぱり数的かなぁ。教養はともかく、あそこの配点がデカい」
続けて椿が聞いた。
「国税って、産休育休取りやすい感じですか?」
「そこはばっちりだね。時短で働いてるママさんたちいっぱい居るよ。男性育休取る人も居るよ」
「うーん、悩ましいなぁ」
しばらくは、七瀬さんの話を聞いた。国税には、埼玉県の和光市に研修所があり、まずはそこで基礎研修を受けるらしい。寮があり、全国からそこに集まってくるのだとか。
「研修は楽しかったよ。毎晩飲み会してたな。コロナがあってからかなり少なくなったけど、昔は週五で飲み会があるような職場だったみたいだね」
「うわっ、えぐいですね。おれは何とか地元の市役所受かりたいですわ」
酒が進んできた。椿は口元を歪めて笑いながら聞いてきた。
「で、お二人は、やるときってどっちがどっちなんですかー?」
困った僕が七瀬さんの方を見ると、彼はあっけらかんと言った。
「俺が抱かれる方」
「キャー! アオちゃんってば、このイケメンに突っ込んでるの!? やらしー!」
ケタケタと笑う椿。僕は缶ビールの残りを一気に飲んだ。椿は実家に帰るのが面倒になったと言い、雅司の家に行くことになった。
二人が行ってしまってから、僕は七瀬さんに言った。
「もう、あんなに正直に言わなくてもいいじゃないですか」
「まあ、ハッキリ言っちゃった方が後で楽だよ? あははっ」
「それもそうかもしれないですけど」
僕は七瀬さんをベッドに押し倒し、キスをした。
「葵。したいの?」
「はい」
今ごろ雅司と椿もそうしているだろう。僕は七瀬さんの身体をまさぐった。もう彼の温もりがないと生きていけない。この短期間のうちに、僕の身体はそう書き換えられていた。
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