第8話

 テスト当日。

 デルタクラスは実に殺気立っていた。

 皆が皆教科書と睨み合っている。


「こんなに真剣に勉強しているクラスは初めて見るぞ……」


 レイン先生が一心不乱に勉強するクラスメートたちを見て若干引き気味に呟く。

 まぁ、レイン先生の親が原因だけどね。


「よし、ではテストを始めるぞ」


 クラスのみんなが血眼になりながら勉強をしている間にテスト時間になったことを確認したレイン先生が声を張り上げる。


「今から答案用紙を配る。配られた用紙はすぐに裏向きにして机の上に置いておくこと。何か怪しげな動きを見せたら不正したとみなし、退場してもらうからな」


 レイン先生が前列の生徒に答案用紙を配り、リレー形式で後列の人に渡していき、クラス全体へと行き渡らせる。

 普通に魔法使ったほうが早くない?


「よし!全員に渡ったかな?それでは試験を開始する。始め!」


 レイン先生の号令と共に答案用紙をめくる音が教室中に響き、カリカリとペンを走らせる音だけが響く。

 うーん。

 テストの内容は……っと。

 うん。まぁ、問題ないかな。

 僕はさらさらとテストの問題を解いていった。

 

 ■■■■■

 

 中間試験から早いことでもう三日目。

 いよいよ今日は中間試験発表の日であった。

 サーシャから聞いて今日初めて知ったのだが、どうやらこの学園では全員の成績が  校舎前の掲示板に大々的に張り出されるそうだ。


「すごい人ですね……」


「だね」


 サーシャの言う通り掲示板前にはたくさんの生徒たちが押しかけていて混沌とした感じになってしまっていた。

 よほど自分の成績が気になるのだろう。


「厳粛に!


 学園長が大きな紙を持って僕たちの前までやってくる。

 わざわざ学園長自ら告知するのか……。これくらいの雑事他の先生にやらせておけばいいのに。

 君には僕らが頼んでいる膨大な仕事だってあるのに。


「それではこれより全校生徒の成績発表を行う!」


 学園長がそう宣言し、巨大な紙をうまく無属性魔法である念力の魔法を使って広げた。

 試験結果とはというと、こんな感じになっていた。

 

 一位 ノーン        500点 

 一位 リリス・ダブルン   500点

 三位 リナーシャ・アクウァ 356点

 四位 ウェーズ・レクス   314点

 五位 ガクト・フランマ   306点


 僕とリリスは上位三人に圧倒的な差をつけ、満点で一位を取っていた。

 ちなみにだが、ウェーズ・レクスがこの国の第二王子で、リナーシャとガクトは四代公爵家の子供だ。

 まぁす、ごいエリートたちだね。

 神童とまで呼ばれていた公爵家のご令嬢であるリナーシャに大差をつけ、満点を取っている僕たちの名前に周りの生徒達はざわめいていた……というか、リリスってば頭良すぎない?

 僕が教えるときってばそんな際立って頭良くなかったよね?手を抜いていたのかな……リリスの口数じゃ教える側に回れないし、頭良いってわかったら孤立することになりそうだし。


 デルタクラスのみんなもかなり高得点を取っている。

 この学園に現在在籍している一年生の数は122人。

 キースが24位、サーシャが36位、デルタクラスの中で一番順位が低かったバースが64位なので、かなり善戦したほうだろう。

 そして、サザンドラの順位が25位。

 僅差ではあるが、キースにすら負けている。

 

「僕の勝ちだね?」

 

 唖然とした表情で試験結果を見ていたサザンドラに声をかける。


「約束、覚えているよな?」


「嘘だ……」


 サザンドラがポツリと呟く。


「嘘だ!嘘だ!嘘だ!満点なんかおかしい!ありえるわけがなぇだろうが!イカサマに決まってら!」


 ここに来てサザンドラがわめき出す。

 それに周りの生徒達が納得したような表情を浮かべ、口々に僕を罵り始める。


「平民が努力したところで無駄なんだよ!」


 僕の視界に悲しげな表情を浮かべたサーシャが目に入る……一生懸命毎日努力しているサーシャの顔が。

「負けるはずがねぇんだ!貴族が!平民なんかに!」


「サザンドラ」


 僕はわめき続けるサザンドラの名を呼ぶ。


「あ……なんだ?」


 ここでようやく自分の口調が乱れていたことに気づいたのか、まともな口調へと切り替える。


「負けたからってわめき出すのはあまりにもダサすぎんじゃねぇか?」


「ふん!イカサマしたやつが偉そうに」


「そのセリフはこの学園全体への侮辱になる。この学園はたかが一人の平民の、それもスラムの人間のイカサマを防げなかったことになるのかい?」


「……ぐっ。それは」


「周りを見たらどうだい?周りの先生方の視線を」

 

 テストにおいてイカサマを許すなど学園としての沽券にかかわる。

 ここでは決して不正が内容最大限の取り組みが行われており、イカサマだの騒ぐのは学園に対する侮辱に他ならない。


「選べよ。スラムの人間がイカサマをして満点を取ったのか、それとも数多の王侯貴族が関わり、多くの貴族のエリートが勤める学園がスラムの人間のイカサマを見抜けないほどの無能なのかを」


「……ぐ、ぬぅ」


「二度と俺らに関わるんじゃねぇぞ、負け犬が」


 沈黙を屈服としてとらえた僕はサザンドラに向けてそう吐き捨てたのだった。

 

 

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