第20話

 光の届かない暗い、暗い洞窟。

 王都の真下に存在する洞窟が一角で。


「ちっ。予想以上に強いわね。こんなにも早くあの子がやられるとは。同じ貴族として情けないったらあらしないわね。そんなことより私もさっさと退散しないと……」


「やぁ、お姉さん。どこに行くんですか?」


いそいそとここから離れる準備をしていたお姉さんへと僕は話しかける。


「なっ!なぜ!」


「そんなに慌ててどうしたの?」


 僕が話しかけたお姉さんが着ている服装はとある教団のものと一致していた。

 長年異端審問官と戦い続けている巨大組織ムンド教団のものと。


「どうしてここが!」


「この程度のことも出来ずにノーネームの名は背負ないよ」

 

 まぁ、見つけるのには苦労したが。

 一体いつ作ったのか。

 僕も、教皇も、この国の国王ですら知らない謎の巨大な洞窟がこの王都の下に出来上がっていたのだ……まさか、こんなところで蠢ているなど予想外。

 爺ちゃんも見つけられないわけだ。


「ちっ」


 お姉さんはすぐさま逃亡のための魔法を発動させる。


「無駄」


 しかし、すでに僕が逃亡系の魔法を封じてある。


「クソが!『貫け』」


 お姉さんが魔法を発動させる。

 お姉さんが使ったのは雷属性を持つ人御用達の軍用魔法。

 発動が早く、殺傷能力が高い魔法だ。

 しかし、お姉さん程度の魔法じゃ僕をどうこうすルことなど出来ない。

 黒魔法を使って無効にするまでもなく僕の身を守る結界によってあっさりと散らされる。


「正義を執行する」


 僕は断罪の大鎌を振り回しながらお姉さんの方に近づいていく。


「くそっ」


 それに対して、おねえさんは迷うことなく反転し、全速力で逃げ出す。

 

「『転移』」 

  

 だがしかし、僕は転移を使ってそんなお姉さんを先回りする。


「っ!」


 お姉さんは慌てて動きを止めようとするが間に合わない。

 僕が動かずとも勝手にお姉さんの方から近づいてきてくれる。


「さようなら」


 僕が首を落とすべく振るった大鎌をお姉さんはなんとかうまく腕を使い軌道をそらしてくる。


「……ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!」


 腕を斬り落とされ、無様に転がるように逃げるお姉さんを僕は容赦なく足払いでお姉さんを転ばせ、そのまま大鎌で両足を切り落とす。


「いや、いや……やだ。死にたくない。いやだいやだ!助けて!助けてください!女皇様!」

 

 それに対して無様に転がるお姉さんは泣き叫びながら命乞いを口にする。


「さようなら」


 僕はそんなお姉さんの首を切り落とした。


「女皇?」


 僕は初めて聞く名前に首を傾げる。

 ムンド教団の新しい幹部か何かが?


「まぁいいや」


 今、考えることではないだろう。

 サーシャの背教者か否かの確認と上への報告を行うため、僕がお姉さんに背を向けて帰ろうとする。


「は?っ!」


 だがしかし、それを止めるかのように突如として既に死体となっているお姉さんから魔力が膨れ上がり、大量の魔力が溢れてくる。


「……」

 

 その魔力は一つの爆弾のように爆発し、僕を襲ってくる。


「無駄」

 

 そんな爆発も僕の結界を貫通するほどの威力はない。

 僕が黒魔法を使うまでもなかった。


「あら、駄目だったのね。ふふっ、リンクが順調に強くなっていて嬉しいわ」


 突如として、後ろから聞こえてくる一つの声。

 僕はその声に聞き覚えがあった。


「……お姉ちゃん」




 ─────あの子のお姉ちゃんなのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る