第3話
その後の試験である魔法並びに物理の試験においても僕は単独で学園長と共に試験を受けさせられた……まぁ、僕の使える魔法はどれも軍用魔法と呼ばれる殺傷能力が高すぎるがゆえに一般的には公開されていない魔法ばかり。
みんなと共に試験を受けるのも困難だった気がするし、これはこれでよかったのかもしれない。
「……あっ、サーシャ」
魔法試験として遠く離れた五つの的に魔法をぶち当てて的を破壊し、物理試験として魔法禁止のルールで神殿騎士団の隊長格である男を模擬戦を行い、しっかりと勝利を収め、僕の入学試験は終わった。
そのあとは学園長からの軽い接待を受け、軽く目的の探りを入れられ、なんとなくでその目的をはぐらかし続け、夕方くらいに僕は解放されることになった。
「待っていましたよ!ノーム君!」
王立国教騎士学園から出る正門を出た僕を迎えたのは先に試験を終えた様子であるサーシャであった。
「わざわざ待っててくれたんだ……ありがと」
「えっ……あ、その……一人で帰るのが心理的にも肉体的にも不安で待っていただけなので。ということで一緒に帰りましょう?」
「なるほど。確かにそうかもね……じゃあ、帰ろうか。あっ、せっかくだし夕飯も食べていかない?ここの学園長からお駄賃貰ったから夕食くらいであれば奢れるよ」
「何があったんです!?」
僕はサーシュと並び立ち、帰路へと着くのであった。
■■■■■■
なぜだ!
なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなだ!
なぜあの方がここにいる!
ノーン……否。
世界に覇をかける世界宗教であり、テンデゥス王国の国教でもあるブレノア教の秘部にして最高戦力が揃う屈指の怪物集団。
異端審問会。
ブレノア教より異端と定められた万物に裁きを、死を与える僅か九名ばかりで構成されるその組織。
個人個人が国を落とすほどの実力者が揃うその組織の中における序列一位。
最強の名を冠する一人の少年。
ブレノア教異端審問会序列一位『死神』ノーネーム。
それこそがノーンと名乗る一人の少年の正体であった。
異端審問官の中で……否。
ブレノア教の中で……否。
世界の中で最も強いと言ってもなんら過言でもない怪物が国立国教騎士学園に降り立ったという事実に対し、学園の頂点に立つ男である学園長は内心動揺でパニック状態となっていた。
入学希望者の試験結果を見て合否を決めている周りの人の声など入ってこなくなるほどに。
「(何故、あの方は……あの方がなんでこんな辺鄙な学園の入学を希望するのだ。あの方がこんな学園に入学したところで学べるものなんてないだろう。むしろ、儂らが教えを請う立場になるはずじゃろう!?)」
学園長の困惑と動揺は止まらない。
「(……誰か。誰かこの学園内に背教の疑いがある人でもいるのか。いや、だとしても何故あの方なのだ)」
学園は最高の教育機関であるが、それでも所詮は子供たちの集まりでしかない。
一人で世界を相手に出来るような怪物を出動させなくてはならないほどの背教者がいるなどとは思えない。
教師陣とて本物のエリートと比べれば一段階劣る実力しか持っていない。
「(ど、どうすればいいのじゃ)」
あぁ、今思い出すだけでも学園長は震え出してくる。
ほんの少し。ほんのわずかな時間だけ、あの方を見る機会が学園長にはあっただけ。
たった一瞬。
それでも忘れられない。
あの方の冷たい視線を。
まるで人を殺すためだけに生まれてきたかのようなお方であると学園長はノーネームを評する。
世界最強。
史上最強。
神の子とすら呼ばれる最強の異端審問官にして、姿なき一族の生き残り。
「(何が、正解なのじゃ……目的を聞くにしてもそもそも聞くことすら許されない可能性がある。あのお方が動かざるを得ないほどの事態など、尋常ではない)」
何故、学園にノーネームが訪れたのか。
その理由もわからぬ学園長はこの事態にしてどう動くべきか、迷い続けるのだった。
■■■
学園長が頭を抱えている場所はここ、国立国教騎士学園の職員室。
例年通り職員全員が集まって受験生の合否などを話し合っている最中であった。
「にしても、この少年は何なのだ?」
職員の一人が目の前の資料を見て首をかしげる。
そこには記されているのはとある少年の試験結果。
そして、それに付随される形でその少年を必ず合格するようにという旨が記されている謎の書類があった。
それらの書類に書かれる少年の名前。
記名欄にはきれいな字でノーンと書かれている。
「さぁ?でもこの子スラム出身の子でしょ?貴族ですら裏口入学は認められていないというのに、なんでこの子の書類だけにこんな書類が付随されているのかしら?」
「わからぬが、すべてを公平に見るべき我らにとってそれは考慮に入れるべきではないだろう」
たまに貴族の方から自分の子供を入学させるようなことを言われることもあるがすべて断り、書類もすべて丁重に送り返している。
実力で判断する。
それを信条としている国立国教騎士学園としてはたとえ、どのような経緯で紛れ込んだのかわからぬ書類であったとしてもそれを考慮に入れるわけにはいかない。
「それで、だけど……この子の魔法試験、物理試験ともに高水準というか、よくわからないことになっているけど、筆記のほうがあまりにも悲惨ね」
魔法試験と物理試験の結果は共に満点。
王宮より派遣される試験管からのコメントが何もないことには気になるが、それでも満点は満点である。
しかし、筆記試験の方はズタボロであった。
「あぁ、この点数なら落としざる負えない」
国立国教騎士学園では実技だけでなく勉学の方もそこまで割合は大きくないものの、しっかりと見ている。
ノーンの点数は本当にズタボロだった。
教科によっては零点さえもあるのだ……流石にこの点数で合格を出すわけにはいかなかった。
「まぁ、順当に行けば不合格だな」
学園長もいつも通り沈黙を保っている。
何か問題があれば止めるだろうし、このまま不合格としても問題ないだろう。
「当たり前だ。スラム出身の貧民が栄光あるこの学園に入れるわけ無いだろ」
実力主義を掲げているこの学園の教師ですら血統主義の考えを持った教師は一定数存在する。
実績でもってしっかりと判断することには変わらないが、一部の教師からの印象はマイナススタートであり、このような場においてその印象はマイナスに物事を進めさせる。
「まぁ、そうなるわよね。それじゃあ、この子は不合格と言うことで」
職員たちは規定に基づき少年を不合格として処理し、また別の子へと議論を移し、頭からノーンのことを追い出す。
国立国教騎士学園の教師陣が下したその判断は普段であれば何の問題もないことだ。
むしろ正しい判断だったといえる。
しかし、今回はその判断がとんでもない自体を引き起こすことになるなど、この時は誰も知らなかった。
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