第123話 ~~エピローグ~~ そうだ、帰ろう・・・いくらここに居たところで馬券の数字が変わるわけはない。いくら探したところで、当り券が落ちているわけもない。さぁ、皆で帰ろう・・・健康のために徒歩で




「どけええええええええええええええっ!!」

「ひいいいいいいいいいいいいっ!!!」

「あくまだああああああああああああっ!!!」

 裏霊界の荒野を一匹の悪魔?が悪霊達を追い立てていた。

 悪霊達はその少女という皮を被った悪魔から必死に逃げて、裏霊界の地平線へと消えていく。




「冥さんっ?」

「えっ?」

 悪霊に悪魔とまでいわれたその少女は聞き知った男の声に名を呼ばれて動きをピタリと止めた。




「善朗っ!!」

 冥の後方から菊の助が善朗の姿を見つけて、大慌てでかけ寄って来た。


「殿ッ!」

 善朗は久々に見る元気な菊の助の姿に思わず笑みを零した。






 全てが落ち着いた頃、裏霊界にいた霊界の関係者全員が赤門の前に集う。

「わざわざ迎えに来ていただき、本当にありがとうございます。」

 曹兵衛が菊の助達に向かって、深く深く頭を下げる。

 その後方では、一緒に戦っていた猛者達も一斉に頭を下げた。


「いやいや・・・俺はたいしたことはしてねぇよ・・・全部、この嬢ちゃんのおかげさっ。」

 菊の助は少し恥ずかしさを零しながら、正直に今回の功労者を曹兵衛達に伝えて頭をかく。


 曹兵衛は菊の助に導かれると素直にそちらに視線を移す。

「そうでしたか・・・確か、冥さんとおっしゃいましたね・・・今回は裏霊界まで助けに来ていただき・・・霊界一同代表者として、本当に感謝のしようもありません。」

 曹兵衛は菊の助から紹介を受けた冥に改めて、姿勢をちゃんと正して、再び深々と頭を下げた。


「あはははっ・・・お礼だなんて・・・それに、私が来なくても大丈夫だった・・・みたいだし・・・。」

 冥は頬を人差し指でかきながら、頬を赤らめつつ、善朗に苦笑いを向ける。


「そんなっ・・・俺は冥さんに言われたようにしただけです・・・約束を果たせてよかったですっ。」

 善朗はすっかり元の調子に戻って、謙遜して冥に軽く会釈をした。


「善朗君っ、謙遜なんてやめてくれっ・・・本当に君のおかげだよっ・・・ありがとうっ。」

 そう言って、秦右衛門が善朗の肩を抱いて、にこやかにお礼を告げる。


「善坊っ・・・お前はもう俺たちじゃ、どうやっても届かねぇやっ・・・すげぇやつだよっ。」

 金太は秦右衛門に捕まった善朗の頭を無造作に右手で掴んでゴシゴシと乱暴に撫でる。


「イテテッ、やめてくださいよっ、金太さんっ。」

 善朗は苦笑いをしながらも、全てを受け入れて晴れ晴れな気持ちを前面に出した。




「・・・乃華さん・・・貴方も助けてくれて、ありがとうね・・・。」

 善朗達を静かにジッと眺めていた乃華に優しくそう告げたのは、サユミだった。




「・・・いえっ・・・私なんてまだまだ・・・。」

 乃華はゆっくりと善朗達から視線をサユミに移して、優しく微笑みを返す。


「・・・あれほどの結界・・・そう簡単に成し遂げられるものではありません・・・祭りだと浮かれていた我々が恥ずかしいほどの努力を感じましたわ。」

 サユミの少し後ろから顔を出したのはユウキ太夫だった。


「・・・私は力になりたかっただけなんです。」

 乃華はそういうとサユミ達から善朗へと視線を戻す。


「大した少年ですね・・・霊界に来て間もないというのに・・・ただ、それだからこそ・・・。」

 ユウキ太夫も乃華に促されるように視線を善朗に移して、歯切れの悪い言葉を発する。


「・・・いったい私たちは何のために、ここにいて・・・何のために強くなるのかしら・・・。」

 サユミがそう言いながら、悲しく善朗を見詰めた。






 サユミの言葉が届くとは思えない距離で善朗達を見て居た者がいた。

「・・・・・・。」

 黒いライダースーツに身を包んだ武城は苛立ちに歯を食いしばり、拳に力を込めて、ただただ黙って善朗の姿を見ていた。


「・・・・・・。」

 武城の傍で腕組みをして、黙ってそれを静観していたのは、親友であるノムラ。


 ノムラは親友のある種の決意を覚悟して目を閉じて、ただ傍にいることだけを望む。






「・・・流さん・・・。」

 ネヤが黙って善朗を見ている流の名を呼ぶ。


「・・・・・・。」

 流もまた、静かなる怒りを腕に込めて、その場にジッとしていた。

(・・・俺はいったい何のために戦っているんだ・・・。)

 流はただただそう自問自答を繰り返し、静かな自分への怒りを溜めていく。


「・・・・・・。」

 ネヤは流のその心中をソッと自分の中に流し込み、ただただ大事な人の横顔を見守っていた。






 暗い暗い闇の中、大の字になった賢太がゆっくりと目を開けて、暗い天を見詰めていた。

(賢太よ・・・オヌシはこのままどこへすすむというのだ?)

 賢太の頭の中に聞き覚えのある声が鳴り響く。




(なんや太郎っ・・・いきなり何言いだすんや・・・)

 大の字に寝ていた賢太が隣でチョコンと座っている太郎にそう尋ねる。


(これ以上進めば、美々子と別れる事になるぞ。)

 太郎は真剣な目で賢太を見て、淡々とした口調でそう告げる。


(どういうことや?)

 要領を得ない賢太はもっともな事をそう太郎に尋ねる。


(・・・余りある力は秩序を乱す・・・善朗という少年が神に目をつけられているのは、平和という均衡を保つ為に、排除しようとしているからだ・・・。)

 太郎が冷静に静かな口調で、そう賢太に善朗の現状を教える。


(・・・秩序やと?・・・平和?・・・善朗はそのために戦っとるんちゃうんかっ・・・なんで、そんな善朗を邪魔者扱いみたいにしとんねんっ。)

 賢太は上体を起こして、太郎をギラリと睨んだ。


(人事みたいだな・・・賢太よ、妖怪と対等に戦う事のできたオヌシもまた、例外ではないのだぞ?)

 太郎が自分に迫る賢太に一歩も引かず、それどころか自ら歩み寄るように顔を近付けてそう賢太に言い返した。


(・・・ほほぉ~~・・・上等やないかっ・・・俺は前から気に食わんかったんやっ・・・人様の頭の上でなんもせんで、踏ん反り返っとる神様っちゅぅ~連中がっ)

 賢太は最早太郎に喧嘩を売っているようで、その後ろに見える神々を睨み付けていた。


(フッ、なるほどな・・・拙僧はとんでもない男と契約をしてしまったようだ・・・。)

 太郎はそう鼻で笑うと、目線を少し下げて、地面に向かって言葉を零す。


(なんや・・・今更、契約解除するんか?)

 賢太は悪戯にニヤリと笑って、太郎を試すようにそう言った。


(・・・そうできれば、そうしたいものだが、そうもいかん・・・ただ、美々子殿を悲しませるようなことはするなよ。)

 太郎は賢太を再び見ると、鋭い眼光を向けて、そう釘を刺す。


(・・・誰にゆうとんねんっ・・・。)

 賢太はそう言うと太郎から視線を外し、再び大の字に寝転がって、暗いくらい意識の闇に目を向ける。そうすると、賢太の意識は次第に薄れて、その意識の行方を眠りへと導いていった。






「さぁっ、帰るとするかっ!」

 菊の助が赤門を背に、そう元気良く目の前にいる善朗達に声をかける。


「はいっ!」

 善朗は全てを終えて、家路に帰る少年のように菊の助に対して、そう元気良く返事をした。


 善朗がそう声を上げると、

「おうっ!!!!!」

 それを待っていたかのように、善朗の背後にいた霊界の関係者達が一斉に声を上げた。



〔ギギギギィ~~~~~~ッ〕

 その場にいる者達の声に答えるように重く佇んでいた赤門はその重い扉をゆっくりと開けて、裏霊界と現世を繋げる道の姿を善朗達の前にあらわにさらけ出した。


 赤門が曝け出した道に向けて、皆が思い思いに周りと談笑しながら歩いていく中、

「・・・・・・。」

 善朗は現世へと繋がる光を目にする中で、ふと視線を下に流す。


 そこには、あの日から自分の前にすら、全く姿を現さなくなった大前の刀としての姿だけがあった。



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