第15話 本当の強さとは、心の強さだと豪語する人がいるけれど、実際問題折れない心は強いのかもしれない



「・・・・・・それでは、私は報告もありますので、これで失礼しますね・・・。」

 淡々とした口調で乃華がさっぱりとした別れの挨拶をして、そそくさと何処かへと飛んでいく。



「・・・なんか、機嫌悪かったね、あの子。」

 無自覚に佐乃がお酒を通い徳利で飲みながら、善朗の肩に手を回している。


「・・・最近の女子(おなご)は難しい物なのでしょうな・・・。」

 無自覚なナイスバディの大前が腕組みをして、胸を強調させながら乃華の後姿を眺める。


「・・・・・・。」

 苦笑いしながら、のぶえさんが困っていた。



「・・・・・・あの・・・これから、ボクはどうすれば?」

 片方の鼻の穴にティッシュを詰めながら善朗がドギマギして佐乃の顔を見る。



「・・・そうだねぇ~・・・酒も金もたんまり貰ったし・・・仕事をちゃんとしなくちゃね。」

 ニヤニヤしながら佐乃が顔を善朗に近づける。


「・・・おっ・・・お金・・・ですか?」

 酒臭いのを我慢しつつ、苦笑いで失礼の無いように佐乃に尋ねる。


「そうだよぉ・・・あんたを強くするために、菊の助がポンっと払ってくれたからねぇ~。」

 通い徳利で勢いよく酒を飲む佐乃。


「・・・・・・。」

 佐乃の話を聞いて、なんだか申し訳なくなり、塞ぎ込む善朗。


「・・・あんたは期待されてる・・・あの菊の助が酒以外にこんなに景気良く金を払うのは珍しい・・・。」

 佐乃がどこか優しい微笑で善朗を見る。


「・・・・・・俺・・・不安なんです・・・本当に弟を助けられるか・・・。」

 今になって冷静に縄破螺の事を思い出して、善朗は不安で押し潰されそうになる。


「コラッ・・・お前は誰に弟子入りしたと思ってんだいっ。」

「イテテッ・・・すいませんっ。」

 弱気になる善朗を少し力を込めて自分の方に引き寄せる。

 善朗は抵抗する事無く、佐乃の力に従うが突然の引っ張りに少し痛がる。


「主は、本当に何も基礎が出来てないのでしょうな・・・。」

 ニヤリと笑いながら大前が善朗を見る。

 大前には、善朗の中の何かが見えているようだった。


「・・・安心しな・・・あんたには見込みは十分にある・・・あたしはこの仕事、おいしい仕事だと思ってるからね・・・。」

 佐乃はそう言いながら、善朗から離れてスタスタと前を歩き出した。


「・・・善朗・・・しっかりねっ。」

 胸の前で小さなガッツポーズを作って、善朗を応援するのぶえ。


「・・・うん・・・ひいおばあちゃん・・・行ってくるよ・・・。」

 右手を握り込み、それを見せるようにのぶえに向ける善朗。


「安心せい、のぶえ・・・この大前盛永がついている以上、悪霊の100や200・・・数に入らんっ。」

 胸を更に強調して大前が威張り散らす。



「・・・お~~い、愛弟子・・・さっさと行くよっ。」

 少し歩いた所で佐乃が振り返って、ついてきていない善朗達に声をかける。



「はいっ、今行きますっ!」

 善朗は最後にのぶえに笑顔を向けると、佐乃の方に勢い良く走り出す。






「・・・乃華ちゃん~~、大きな魚逃したんだって?」

「・・・クッ。」

 案内人事務所の自分の机の上で、今回の善朗についての報告を書いている乃華に事情を聞きつけた同僚が悪戯に声を掛ける。


 同僚の外見は、乃華と変わりなく、黒革のベストに白のタンクトップ。

 下には黒革のホットスカートが魅力的だった。

 髪はピンク色のサラサラオカッパ頭で目がクリクリしていて明るいボーイッシュな雰囲気が見てて伝わる。


「・・・見たよ見たよ・・・この子すごいよね・・・もったいないなぁ~・・・。」

 机で報告書を書いている乃華の頭の上で頬杖をつきながら善朗の資料を見ている同僚。


「・・・伊予ちゃん・・・まだ、決まったわけじゃないから・・・。」

 伊予の重さに耐え、歯を食いしばりながら返答する乃華。


「ええええええっ・・・どうするの、乃華ちゃん?」

 頬杖をやめて、乃華の顔を覗きこむ体勢に移行する伊予。


「パッ・・・んっ・・・ナナシ長官に頼んで配置換えしてもらう・・・。」

 報告書を書いていた鉛筆をへし折ってそう答える乃華。


「・・・まさか・・・乃華ちゃん・・・ほれっ・・・。」

「惚れてませんッ!はったほれたよりも重要な事があるんですッ!」

 伊予の勘ぐりに食い気味で圧倒的圧力を持って押し返す乃華。


「・・・そっ・・・そうなんだ・・・。」

 さすがの圧力にドン引きする伊予。


「・・・フフフフッ・・・何も転生させるだけが我々がポイントを稼ぐ方法じゃありませんから・・・。」

 スラリと席から立ち上がって、腕組みをしながら不敵に笑う乃華。


「・・・区担当の管理官になるってこと?」

 伊予が乃華の考えを先読みして、言葉を出してみる。


「・・・見てなさい・・・私はこれを気に長官も狙って見せますからっ。」

 ニヤリと伊予を見て、乃華はどこかへと歩き出す。




「・・・というわけで、こちらが今回から辰区担当の管理官候補になられた・・・。」

 ちょっと小太りなバーコードの汗かきメガネおじさんが右手で視線を誘導させるように横に並んでいる少女達を紹介する。

 おじさんの胸ポケットには長官命令書の手紙が突っ込まれている。




「初めまして、今回、案内人から辰区担当になりました乃華と申しますッ!分からない事だらけですが、ご迷惑にならないように頑張りますのでよろしくお願いしますっ!」

「同じく、伊予ですぅ~~。」

「なんで、あんたまでいんのよッ!!!」

 きっちりと凛々しく挨拶をする乃華の隣でダブルピースでいたのは伊予だった。

 その伊予の存在に思わず、ガニマタで大声で突っ込まずにはいられなかったのは乃華・・・。








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