第2話 霊界に導かれて来たけれど、そこは天国極楽地獄と言うよりは余りにも現代風じゃ・・・


「・・・突然のことじゃろうから・・・すぐに全てを飲み込まんでええからな、善朗。」

吾朗はそう善朗に優しく声をかける。


「・・・ありがとう、ひいじいちゃん・・・。」

善朗はそんな吾朗に笑顔で答えてお礼を言った。


善朗はあれから、全てを順序良く年配の男性、名を『吾朗(ごろう)』に聞いた。


善朗は確かに死んでおり、ここは死んだ魂が最初に行きつく霊界だという。

善朗は子猫を助けようと川で溺れて亡くなり、ここに行きついたと聞く。

その時に、善朗の守護霊である年配の女性、名を『のぶえ』、吾朗の奥さんが善朗が死なないように護ろうとしたが、力及ばず、死なせてしまったことにのぶえが大きく責任を感じ、善朗が勝手に極楽や地獄に連れて行かれないように案内人の乃華の邪魔をしたようだった。




「・・・まったく・・・良い迷惑ですよっ。」

善朗の隣でご立腹の乃華が腕組みをしている。


「・・・本当にもうしわけありまっせん・・・。」

のぶえが乃華に深々と頭を下げる。



乃華曰く、確かに魂の案内人は霊界に来た魂を迷わないように導くのが仕事ではある。しかし、魂の強制的な導きは制限されていて、善朗の場合もちゃんと説明してから選ばせるようにすることになっていた。善良な魂は善良なまま極楽に導くのが、乃華達の大事な仕事だそうだ。



「・・・私達はそんな強引なことはしませんっ!そんなことをしたら、魂がけがれてしまうかもしれませんからっ。」

怒りが収まらない乃華が頬を膨らませながら自分の言い分を3人、特にノブエに向かって言う。


「・・・というわけで、善朗さんっ・・・今なら親ガチャ500連無料で出来ますから、ここは素直に極楽に行って頂けませんか?」

乃華は怒っていたかと思ったが、素早く立場を変えて、手でゴマをすりながら上目遣いで善朗に不思議なお導きを説く。


「・・・おっ、親ガチャ?」

聞きなれた言葉を霊界で聞いて、思わず聞きなおす善朗。


「・・・昨今の霊界問題・・・なかなか霊界から離れない魂が多いんですよ・・・ですから、私達も善良な魂の方々には特別な待遇を用意いたしておりまして・・・。」

乃華は今までとはうって変わって、腰の低い営業マンのようなスタイルで善朗に迫ってきた。


「・・・善朗・・・案内人さんが言うようにここに留まる事に文句は言えんさかいに・・・のんびりしたらええんや。」

「・・・ぐっ!?」

乃華の出過ぎた口を叩く様に吾朗が善朗を優しく連れ戻す。



乃華曰く、

案内人はよほどの事がない限り、魂を強制的に導く事ができない。

そのため、霊界には今、魂が史上最高に溢れかえっていた。

別にそこで霊界のキャパシティーが持たないという事ではないのだが、昨今の少子化問題はここが原因だと力説する。人間になれる魂の数量は大体国ごとに都度都度決まっており、死んだ人間がちゃんと転生しなければ、その国に生まれる人も制限されてしまうのだそうだ。このことにより、霊界に魂が留まれば留まるほど、現世では子供が生まれなくなる現象が発生するという。先進国の中でも、日本は特に酷いという。




「・・・おのれぇ・・・渋井 栄三(しぶい えいぞう)・・・・・・。」

乃華は血の涙を流しながら右手に力を込めて、拳を握り込み、にっくき名前を口にした。



ネオ大江戸。

善朗達が居る霊界の一部の都市の名前で、渋井 栄三はそこを治める人物だそうだ。

生前、渋井は色々な事業を手掛けて財を成した人物で、それは死後でも留まる事はなかったようだ。


渋井は霊界に次々と事業展開をして、銀行から商店、流通と様々な分野を霊界に広げ、死んで霊界に来た有望な魂を案内人とは別の方向に導き活用して、霊界を現世に迫る。ある意味では超越させた大人物だった。しかし、それは魂にとって極楽以上に霊界が住み易い、過ごし易い空間となってしまったため、案内人が次の転生を促しても、転生を望む者が激減してしまい、乃華達は困り果てることになり、それが乃華達にとっての渋井に向けられる恨みの原因になっていると言う不思議なものだった。



「・・・しかし、死んだ後も生きてる時とこんなに変わらないなんて・・・。」

善朗は吾朗から渡された霊界版スマホを見ながらどこか呆れていた。


「いやはや、便利な世の中になったもんじゃろ?そのスマホとかいうのも最近流行っとるもんでな・・・電話も出来るし、ゲームも出来るし・・・すごい世の中じゃ・・・。」

吾朗も自分のスマホをいじりながら善朗に文明の発展?を語った。


「・・・善朗さん・・・貴方には特別にLR『ヒ○キン』の隠し子のチャンスが・・・。」

「乃華さんっ・・・申し訳ないけど、善朗にはここの世界をちゃんと知ってもらってから選ばせたいんよぉ・・・あんたの仕事も分かるけんど、こらえてくれんか?」

乃華の誘惑を優しい口調ではあるが、どこか棘があるような言い方でのぶえが遮る。


「・・・ううううううっ・・・霊界の誘惑で善朗さんの魂がけがれてもいいんですか?!今なら、善朗さんの破格のエンで人が羨む待遇で生まれ変われるんですよ!」

今まで我慢していたのか乃華が口調を強めて、のぶえに詰め寄る。



霊界では、物々交換ではなく、通貨がちゃんと流行していて、『エン』という単位がちゃんとあった。


エンは、人々の縁によるもので、その人の生前の行いや生きている親族の供養やその行いで霊界の銀行から個々人に配られるような仕組みになっていた。

(これもシステムを作ったのは渋井 栄三)

したがって、生前から徳が高いものは霊界では居るだけで、毎月銀行に大量のエンが振り込まれる。それが霊界で過ごす元手になり、善良な魂が転生しない理由でもあった。


「乃華さん、それは重々わかっとるから・・・。」

怒る乃華を押さえ込むように吾朗が優しく声をかける。


「・・・これじゃぁ、辛い人生なら死んだ方がマシだよね・・・。」

善朗が使い慣れたスマホをニコニコと操作しながら、霊界の現状を知れば知るほど、自然と出る言葉をこぼす。




「自殺では、残念ながら霊界には来れませんよ。」

乃華が今まで見せた事のない冷たい表情でスッパリとそう言いきった。




予想外の乃華の返答に善朗は乃華の顔を凝視せざるを得なかった。





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