第2話

結局、その行動は間違いだった。あの人、千円とか言っときながら、「いやこれは当たる」とか「もうちょいなんよ」とか言いながら打ち続けて、とうとう全額もっていってしまった。そしてそんな稲葉さんは、店の外の喫煙所でプカプカたばこを美味しそうに吹かしている。罪悪感とか無いのかこの人は。

「なあタク」

 そんで何故か既にタク呼びになってるし。なんて人だ。

「お前、もう少し人を疑った方がいいぞ」

「一番言って欲しくない人が言わないでください」

 俺がそう言うと、稲葉さんは「そりゃそうだ」とケラケラ笑う。本当に笑顔がもの凄く綺麗だ。だが他がなあ。あと一万円の恨みの方が大きい。

「一万円、返してくださいよ」

「分かってるって。けど今日は無理だぞ、金ないし。あ、そうだ。連絡先交換しとこう。そうすれば金で来たときに返しに行けるだろ。あ、でもそうすると催促の電話とかきそうでめんどいな」

「交換しましょう」

 俺は食い気味に返す。絶対一万円返して貰う、そのままサヨナラでは逃がさん。

「お、おう。交換するか。絶対返すからよ、早くしろとか連絡そんなしてくんなよ?」

 稲葉さんはスマホを取り出し、連絡を取り合えるアプリを起動させる。

 こうして俺は、人生で初めて親親族以外の女性の連絡先を手に入れた。借金の取り立て用だけど。

 だがまあ、多分返ってこないだろうな。こういうのって大体そんな気がする。こんな変な人が世の中にはいるという経験への授業料だと思えば、少しは気が楽か。

うーん。俺が思っているより、大人というのは危険で厳しいものなのかもしれない。

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