第57話 シフォンの町へ向けて
カインとラックは、フロリダの町を離れてシフォンの町へと向かっていた。フロリダの町を出る時は、ギルドの受付のシルや仲良くなった冒険者が見送りに来てくれた。
特に、一緒に依頼を受けた事もある冒険者のダンは、ラックの事を気に入っていたので泣きながらラックに別れを告げていた。ラックとシルは抱き合って、再会を誓い合っていた。
(フロリダに来てよかったな。俺の祝福の事を誰も知らないから、先入観なく接してくれたし、ラックが愛されキャラだから雰囲気もすぐに良くなる。たしかに別れはつらいけど、俺が転移魔法を手に入れればいつでも来る事ができる。いつ開放されるかはわからないけど、転移魔法は異世界の定番だし、アルファベットの中には入ってるはずだ。)
「そういえば今回は護衛依頼を受けなくてよかったのにゃ?シフォンは領都って言ってたし護衛依頼は普通にある気がしたにゃ?」
「たしかにシフォンへと行く商人はいるから護衛依頼は普通に出てたよ。だけど今回は依頼を受けずに向かう事にしたんだ。」
「どうしてにゃ?」
「理由はいくつかあるんだけど、まずは俺達は2人だから護衛依頼に不向きって言う点だね。商人と馬車を守る為に夜は見張りをしないといけない。オルスタインからフロリダに向かう時に護衛依頼をはじめて受けたけど、2人がきつい。最低でも4人ぐらいのパーティじゃないと夜が厳しいかなって。4人いれば2人ずつ交代で見張りができるだろ?一人で見張りは寝てしまったりする可能性もあるしな。」
「たしかに夜一人で見張りをするのは寂しかったにゃ。」
「だろ?だから護衛依頼は受けない方がいいかなって思ったんだ。後は俺とラックなら移動のスピードも自由にできるだろ?二人で行動してたって夜は魔物が来ないか見張らないといけない。だけど、毎日村まで走って行けばその日は安全に泊まる事ができる。まあ毎日そう都合よくは行かないだろうけど、やっぱり夜はベットで寝たいよな。」
「そう言う事ならわかったにゃ。たしかにアタシも晩はゆっくりベットで寝たいのにゃ。体力には自信があるからまかせるにゃ。早速走るにゃ。どっちにいけばいいにゃ?」
「今日は走らなくても大丈夫だよ。リスボンから歩いて1日ぐらいの距離に村があるらしいから、今日はその村で休むつもりだ。村だからベットとかは無いかもしれないけど、魔物や盗賊を気にせず休めるのは大きいからね。」
「そういう事は早く言ってほしかったにゃ。急がないと今日の夜は一人で見張りと思って焦ったにゃ。」
今日中に次の村につけると知ったラックは、鼻歌を歌いながら歩き出した。野道を散歩するように拾った枝をブンブンと振りながら・・・
(随分楽しそうだな。天気も良いしピクニックには持ってこいだな。気配察知で魔物の動きがあれば先にわかるし、こういうのも良いな。まあ次の村に行った後は、すぐに着くような村がないみたいだから走る事になるけど・・・楽しめる時は楽しまないとな。)
前をルンルンで歩くラックを眺めながらカインは、その後をついて行った。
(今考えたら、前世ってかなり恵まれてたんだな。移動が歩きか馬車しかないってこの世界ヤバすぎだろ・・・まあ日本だって江戸時代とかまではそんな感じだっただろうけど、現世を生きる人達が、目的地までの移動は徒歩一日です。なんて言われたらクレームの嵐だろうな。長時間番組のマラソンイベントじゃないんだからってネットにも突っ込まれそうだな。)
「ラック。そろそろお昼にしよう。宿の人に頼んで弁当を用意してもらったんだ。パンに肉と野菜を挟んだサンドイッチだぞ。」
「カインは準備が良いにゃ。あそこはどうにゃ?見晴らしが良さそうにゃ。」
カインとラックはサンドイッチを食べながらのんびりと風景を楽しんだ。
「このままいけば今日中には次の村に着くにゃ?」
「その予定だよ。ラックは大丈夫か?疲れてないか?猫型になるなら肩に乗ってもいいぞ?」
「ありがとうにゃ。でも大丈夫にゃ。天気も良いし歩くのは嫌いじゃないにゃ。」
「わかった。だけどしんどくなったら言ってくれよ。いつでも肩を貸すから。」
(俺の方もそれほど疲れてない。前世じゃ考えられないな。移動は主に自転車だったけど、体力には自信がなかったのに、今じゃ一日ぐらいなら走り続けられそうだ。レベルのお陰かな。体力はたしか能力Bだったよな。ラックでCか・・・いつの間にか俺って強者の部類に入ってるような気がするな。でもまださすがにあの時ダンジョンで出会ったゴブリンには勝てそうにはないけど・・・シフォンにはダンジョンがあるみたいだし、又そういうのもあるんだろうか?怖くもあり楽しみでもあるって感じだな。)
休憩を終えるとカインとラックは、目的地に向かって歩き出した。道中でカインの気配察知に反応があって、近くにゴブリンがいた事もあったが、特に問題なかった。基本的に町と町の間には、申し訳なさ程度ではあるが、道ができている。
今までに多くの人が行き来してきた証だ。これのお陰で道に迷う事なくカイン達は、目的の村まで辿り着くのだった。
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