氷の大地II
光が私のアストラル体を包んだ次の瞬間には私は派手なカーテンを切り取って作られたかのようなスーツに身を包んでいた。柄は銀色、服の色は赤みの強い黒色でかなり独特かつ奇抜なスーツであった。
「東雲さん、魔法少女だったんですか?それにしてもそのスーツ、成金趣味すぎでしょ…、東雲さんにはお似合いですけどね。」
「おい、日出!お前も同じように変身するんだぞ、いま言われた言葉そっくりそのまま返してやるからな。」
日出は恥ずかしそうに自分のループタイを叩いた。私と同じように全身が光に包まれ、スーツを身にまとった。
日出のスーツは私のスーツとは違い柄こそ入っていなかったものの、ド派手な紫色で光を反射するように表面が光り輝くスーツであった。
「日出…。お前どこの大御所俳優だよ。」
「くぅ…東雲さんにそれを言われるとは。」
「次は私ですね。なんだかランウェイみたいで楽しいですね。」
そういうと、千暁はカメオを軽くたたき、衣服をまとった。
千暁の服はいたって普通…かと思ったが、スパンコールがドレスをびっしりと覆いつくし、一歩歩くごとに光の反射角が変わり色が変化する、そんな奇抜なドレスであった。
そして、私たちが何も反応しなかったことに対して千暁は少しむすっとしていた。
露出している部分があるにもかかわらず、服を着込んだことにより消耗されるアストラル体がかなり減ったことがわかる。
本当にこの世界はわからないことだらけだ…。こちらの世界で作られたアストラル体の服ということならまだ理解できるが、現世から持ち込むことができるアストラル体の服というのはどういう理屈なのか…。
「準備はできたか?早速お城に行こうと思うが。」
「ここからはどれくらいかかるんだ?」
その質問に対してなまはげは誰かを探すかのように辺りをきょろきょろと見渡し始めた。
「霜男いるのはわかっているんだぞ。出てこい。」
私たちもきょろきょろとあたりを見渡したが、この吹雪の中ではその姿を視認することができない。
しかし、先ほどと打って変わり、この吹雪がどんどんと止んできていることが目に見えてわかる。
「おーい、霜男。いたずらはやめて出てこい…。」
なまはげがどこにいるかもわからない霜男とよぶ住人に声をかけ始めたところから吹雪がぴたっと止んだ。
そして…。少しずつこの凍れる台地の全貌が明らかとなった。
まるで現世でいう北極を思わせるような台地、空は虹色のオーロラのような光に覆われ氷の結晶同士がぶつかり合い音を鳴らして、歌い踊っているように見える。
氷も純粋な透明のものだけではなく、中には青く燃え上がる炎に似たような形状の氷や巨大な氷や霜に体中を覆われたような動物の姿も見受けられる。
そして、ひょっこりと顔をのぞかせたその老人はまるで真っ白なサンタクロースのような姿をしている。服には大量のつららがついており服を着ているのかつららを着ているのかがわからない。
いや、それよりどういうメカニズムで吹雪を起こしていたのだ…、アストラル体をここに積もる雪に作用させて天候を操ったのか?氷の結晶とこの霜男は共存関係にあるのか?…こちらに来てからというもの、好奇心が暴れまわっているのがわかる。
「霜男、客人をからかうのも大概にしないと…。王に怒られるぞ?」
「わははははは、わしからいたずらを取ったら何が残るんじゃ?」
霜男と呼ばれた男は、霜でできた長いひげを揺らしながら大笑いしている。
それに対して、なまはげはやれやれといった雰囲気を出しているが、はたから見ている私たちは置いてけぼりになっていた。
「王から頼まれていた、凍馬の準備はできているか?」
「あぁわかっているよ、4頭だろ、ここに準備しているよ。」
霜男が口笛を吹くと4頭の馬が私たちの前に姿を現した。
その馬は、私たちの知っている馬との違いはそんなになかったが、蹄が氷スパイクの様にとがっている。また、美しくたなびくその鬣は霜でできており、オーロラの光を反射し虹色にきらめいている。極めつけに額にある大きなツララ状の角である。
現世の各地で残るユニコーンなどの幻想生物を思わせるその姿に神秘性を感じた。
「霜男、ありがとうで。うん、いい凍馬だ。やっぱり、霜男のところの凍馬は一味も二味も違うな。城に早くやとわれてくれないか、霜男よ。」
「わははははは、こっちは凍馬もわしもびのびしとているからな。城の中じゃ凍馬ものびのび走れんだろ、そんなところのお勤めなんざごめんだね。」
なまはげは一体の凍馬にまたがり、その感触を確かめた。
「なまはげさん、霜男さん、話しているところ申し訳ないのですが、私たち馬に乗ったことが一度もなくて…。」
「わはははは、なんだそんなことかい。大丈夫だ、わしの育てた凍馬だ誰でも乗れるわい。」
霜男はそういうと、凍馬の横に立ち、凍馬に乗りやすいように氷柱で階段を作ってくれた。
「ほら乗ってみなさい。」
私はいわれるがまま、恐る恐る凍馬にまたがった。
凍馬は鞍などが付いていなかったので、しっかりと座れないと思っていたのだが、私のアストラル体に合わせて、その背中の形状を変えてくれたのだ。
凍馬の背中の一部の氷が解けるように私の臀部を包み込む。
「すごい…。これが凍馬…。」
「そんなことはわかってる、あとはこいつらに身を任せておけば城まではあっちゅうまだ。」
「霜男さん、ありがとうございます。」
「礼なら王様に言ってくれ。わしのとこの凍馬は高いんだぞ。」
霜男は私以外の日出と千暁も凍馬に乗せると、プレゼントを配り終えたサンタクロースの様にひと段落した雰囲気を醸し出し、手を振りどこかに行ってしまった。
「さぁ、行きましょうか、王もまっております。」
「よろしくおねがいします。」
「危険のない道を通っていきますので、景色を楽しみながら凍馬に身を預けていてください。」
そういうと、なまはげは凍馬のお尻を軽くたたき、発信の合図をした。
その凍馬が歩き始めるとそれにつられるように私たちの凍馬も歩み始めた。
鞍のない馬は揺れるイメージがあったが全くそんな揺れは感じられなかった、アストラル体ということもあるのかもしれないが、それ以上に凍馬が氷上をスムーズに蹴り上げ、まるでスケートを滑っているように疾走している。
そして、アストラル体ということで舌を噛む心配もないので、悠々と王城までの道すがらいろいろな話をなまはげ聞くことができた。
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