束の間の休息

 慌てて扉に戻り、三人一緒に常世に戻った。


 私と日出は幽世ベッドを出てすぐに顔を合わした。しかし、千暁だけはなかなか起きてこなかったので、心配になり日出とともに声をかけた。


 やはりかという表情を二人ともに緊張が走った。


 「千暁さん、千暁さん、大丈夫か?」

 「千暁ちゃん、起きれそう?意識はある?」


 そう声をかけても千暁は一向に起きてはこなかった。


 これはやばいと二人で顔を見合わせ千暁の入っている幽世ベッドの中を確認した。


 「東雲さん、日出さん、見てないで、起こしてください!鎧が邪魔で立ち上がれないんです。」


 千暁はベッドの中で必死で立ち上がろうと鎧と戦っていた。自分が着込んだ鎧であったので、私たちに立ち上がれない姿など見せたくなかったのであろう…。


 どうやって着込んだんだと疑問にも思ったが、無事だと分かったとたんに面白くなってしまい、大笑いしてしまった。当の本人はむすっとした表情でこちらを軽くにらんでいた。


 「千暁ちゃん、本当に心配したよ。俺と東雲さんなんて初めてあっちに行った時はかなり寝込んだからね。」

 「わかります…。すごい体がだるいです…、鎧のせいかと思いましたが、脱いだ今わかります…。」

 「そりゃそうだ、あれだけあっちの世界ではちゃめちゃしたんだから。シャワー浴びて今日はゆっくりするのがいいよ。」

 「あぁ、日出言う通りだ。あれだけできるならあとは大人の自制を覚えれば大丈夫だ。」

 「東雲さん、そんな皮肉言わないでくださいよ。」


 千暁は少し凹んだ様子で、シャワーを浴びに行った。


 日出と私は目を合わせて今日はお開きだなという雰囲気を醸し出して、各々やりたい事を始めた。


 そして次の日、案の定、千暁は寝込んでしまった。


 それもそうだ、いかにアストラル体、エーテル体が優れていたとしても、蛇口全開で水を出していた様な物なのだ。


 しかし、千暁が寝込んでしまったが、あの部屋を持っていた住人と会う日が時々刻々と迫っている。


 とはいっても、すべてコンシェルジュ任せなので特に自分でやることもなく、軽い運動やテレビ鑑賞、時折千暁の様子を見ながら一日を過ごした。

 

 その時、一瞬テレビで気になったのは、「原因不明の意識不明者が続出…新たなる病気か」といったようなニュースであったが、すぐにバラエティ番組にチャンネルを変えた。


 千暁が一日寝込んだ次の日、朝からガラナ飲料を飲みながらご来光を眺め、「明日から海外旅行か…英語いけるかな…」と考えていた時、日出が起きてきた。


 「おはよう。もう明日に迫ってきたな。旅行の準備はできているか?」

 「おはようございます。夏服と冬服どっちがいいんですかね。とりあえず全部詰めときましたが。」

 「どっちなんだろうな。コンシェルジュさんも最近少し忙しい様で…、食事の手配とかも別の人が対応しているしな…少し寂しさも覚えるよ。」

 「いゃー。飛行機の手配やなんやらは結構しんどいですからね。しかも、紛争地帯となるとなかなか直通便も無いでしょうし…。」

 「だろうな…。安全用の装備とか結構無茶なお願いもしているからなぁ。」


 お互いコンシェルジュさんに頼りっぱなしの生活をしていた事が仇となり、自分では何もできない体になっている事を身に沁みて感じた。


 そんな話をしていると千暁も起きてきたようで、ふらふらとリビングを歩いている。


 「千暁ちゃん、もう立って平気なのか?」

 「日出さん、東雲さん…。おはようございます、完全復活です。」


 千暁は寝ぼけ眼ながらも机の上に置いてあったサンドイッチを頬張り、元気アピールをした。


 「千暁ちゃんはもう明日の旅行の準備は終わったかい?」

 「ぇ、もう明日でしたっけ?やばい、やばい!何にもして無いです。」

 「急いでやった方がいいね。多分長旅になるだろうし、それなりの準備が必要になるよ。」

 「日出さん、結局場所ってどこなんですか?」


 先程私と日出が話していて、わからないと言っていた事をそっくりそのまま質問され、日出は右往左往している。


 その光景をみて、千暁も察した様で、とりあえず全部積めときますと私たちと同じ答えに辿り着いた。


 「いつものコンシェルジュさんいないと少し寂しいですね。」


 そして、私が口に出したかった事をこの子はしっかりと言ってくれる。私は大きく何度も頷いた。


 「よし、明日からは海外だ、今日は日本食を飽きるまで食べるぞ!」


 私がそう言うと、待っていましたと言わんばかりに、二人とも携帯電話で日本食の出前を探し出し、勝手に出前をお願いしていた。


 千暁は一日ぶりの食事だと言わんばかりに…皿を積み上げていく。そして、日出は飯には目もくれずに酒ばかりをあおっている。


 私はその日常的な光景に満足していた。


 もう日本食はいいなと思うほどの量を平らげ、日本酒でちょうど気持ちよくなったところでみんな就寝した。

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