第3章 クレソンとカルミアともう一人

第1話 了得が半可

 『ソレ』が気付くと、ソレは暗い場所にいた。正確には倒れる様にして寝て起きた。

 起き上がると、辺りを見渡すが、暗い為に良く見えず、困惑した。

 ここはどこか、知る為に立ち上がり目線を高くした。

 高くも低くもない目線で辺りに目を凝らして見る。すると、一か所だけ光に線が伸びているのが見えた。アレは何かを知る為に歩いて近づいた。

 どこか覚束おぼつかない足取りで少しずつ光の方へと歩き近寄った。そして光が伸びる先に辿り着くとそこは壁だった。その壁の至る所を触ると、出っ張りに手が当たった。これはドアノブという物なのだろうか。では今触っている壁が扉という事か。触ると確かに動く事が分かる。早速ソレはドアノブを掴み、動く方へと動かし回した。すると扉が開き、光が視界いっぱいになり思わず目を閉じた。

 次に視界が戻り見えたのは、箱だった。木製の大きな四角い箱が積まれ、それがその空間に同じような箱が沢山置いてあった。どうやらここは箱を置く為の物置部屋なのだろうと、ソレは理解した。

 最初に見たのは大きな箱で気付かなかったが、よく見れば小さい箱も置かれているのを見つけた。 それに、この部屋は何かは分かったがしても一体ここはどこか分からないでいた。外に出る為にはさっきの様に扉を見つけなくてはいけない。しかし現状、ソレは箱によって視界を埋め尽くされ、壁さえも辿り着けずにいた。


 場所は変わり、ソレがいた部屋と似て非なる長い場所。そこに誰かが歩いて、いや走って来た。逆の方向からも誰かが走って来る。走って来たその二つは鉢合わせとなり二つとも止まった。


「クレソン隊員!こちらは異常ありません!」


 クレソンと口にしたのは、ヒト型ではあるがその頭には大きな三角の耳が生えていた。これは獣人と呼ばれる種族なのだろう。いろの髪に大きな手足、背中の腰辺りからも長い尾が伸びている。


「こちらも異常無し!ではカルミア隊員、引き続き警備を続けたまえ!」


 獣人をカルミアと呼んだこちらは、獣人とは違い動物も生えておらず、特筆すべき特徴の無いヒト型だ。こうちゃ色の髪は肩に届くか届かない位長く、細い一束だけ癖毛の様に跳ねている。

 目の前に立つ獣人よりも背は高く体格を大きい。どちらも似た硬い生地の服を着ている事から、何らかの同じ役目を持った立場の二人なのだろう。隊員とも呼んでいる事からそれは確かだ。

 そんな二人に近づく者がいた。その人物も二人に似た衣装を着ているが、こちらの方が幾分か立派に見える事から、二人より上の立場なのだと思えた。


「…お前ら、声がでかいぞ。」


 二人の様子を見て、呆れたように溜息を吐いて二人に向かって言った。

 二人よりも少し背が高い。錫色すずいろの長めに短髪をしており、着ている衣装はどこかの制服といった感じの固く、格式高そうな衣装だが、その衣装を正しく着ておらず着崩している状態だ。

 錫色のヒトが言った事を聞いた二人は、急に動いて立ち位置を変えて二人揃って錫色のヒトに向き合う形になった。


「隊長、こちら異常がありません!ひまです!」

「隊長、何も無くて他に見るもの無いです!どうせなので隊長が何か起こして下さい!そこを俺らが取り押さえるんで!」

「しねぇよ!取り押さえるな!」


 二人が言った事に怒りの表情を見せた隊長と呼ばれた錫色のヒト。一体三人で何を話しているのか一見しても分からない。とにかく、二人が何かを言い合い、騒いでいた。


「隊長!隊長が見せたいって言うものって、この先にあるってホント―ですか?」


 言うと、自分らが立っていた場所の背後を指さした。三人が立つのは壁が長く続く空間。一方の壁には小さな丸い穴が開いており光が差していた。もう一方の壁には等間隔で扉が付いている。ここは廊下と呼ばれる空間だと見て分かる。

 そんな廊下の真ん中で、先ほどと変わらず妙な会話を三人は続けていた。


「しかし、目的地がどこかもまだ言わないなんて、隊長ジラしますねぇ。」

「そうですなぁ。…もしや、隊長ってそんな趣向が!?」


 二人が勝手に騒ぎだし、その様子を隊長なる人物は頭を抱えながら先ほどよりも大きく溜息を吐いた。


「趣向とかどうでも良いから、目的地は今は言えない。とにかく、港に着いたらお前らは『あれ』を」


 隊長が何かを言い切る前に、突如大きな揺れが起きた。まるで何かが弾け飛んだ、そんな音がどこかから響き廊下が大きく傾いた。傾いたせいで三人はまともに立つ事が出来ず、三者三様で揺れに傾きに堪えようとしていた。


「何何何何何何何っ!?何が…ってうぎゃあ!めっちゃカタムくー!」

「あっはははは!やべぇ!」


 どうも二人からは焦りが感じられず、状況と噛みあわない様子が見られるが、そんな二人を無視して隊長は周りの様子を伺いつつ、音がした方へと走る姿勢になった。


「俺が様子を見て来る!お前らはこの先の倉庫に行け!『ブツ』は奥の部屋の中にある!見れば一発で判るから!

 見つけたら上の『陣部屋』で合流!」


 二人の返事を聞く事無く、隊長は走りどこかへと行ってしまった。


「…行ってしまわれた。」

「まぁ行けって言われたし、行くか、奥地へと。」


 りょうかい!と返事を交わす。緊迫感が感じられない雰囲気を出しつつ、二人は隊長に言われた通りに廊下の奥へと進み、倉庫なる場所へと向かった。


     2


 一方、箱が沢山置かれた部屋からようやく出られた『ソレ』もまた長い空間、廊下であろう場所に出た。丁度出た所で突如揺れが起き、廊下が傾いた為に立てなくなり転倒してしまった。

 『ソレ』は未だに状況が掴めず辺りを見渡していた。すると廊下の奥、そこで何かが動くのが見えた。動いた何かが気になった『ソレ』は、目を凝らしつつ動いたものに近づいた。

 近づいて分かった、動いたそれは液体だ。そしてその液体らしきものは動き、盛り上がると球体に羽に様なものが付いた生き物とは呼べない、不思議な物体が形を成した。

 中央には目らしき大きな模様があり、それが『ソレ』を睨むように動いた。その動きにどう対応すれば分からず立ち往生していると足がもつれ、再び転倒してしまった。

 膝を付いた『ソレ』に向かって不定形の物体は動き出し、明らかに接近して何かをする気だ。しかし、相変わらずまともに動けずに『ソレ』は不定形の物体を見るだけだった。

 そんな一見すれば泥沼にも似た状況の中、更にこちらに近づいて来る気配が音と共にきた。見ればそれは二人のヒト型で、一方はもう一方よりも速くこちらに近づいて来る。そして一番速いヒト型がこちらに向かって跳び上がった。


「センテ、ヒッショー!ソコ動くなー!」


 跳んでそのまま不定形の物体に向かい、その大きな手に指先から伸びた爪で物体を引き裂いた。何が起こったのか頭に入るのに時間が掛かった『ソレ』は跳んできた獣人を見た。


「フゥ!思ったよりカンタンに倒せたなぁ…あっ、ヨッス!アタシ、カルミアだよ!」


 見られてい事に気付いた獣人は自己紹介をし、よろしくと言いながら膝を付いていた『ソレ』に近付く。『ソレ』は先程のの事もあり少し後退あとずさりをした。

 その直後に、獣人の声とは別の声が獣人の後ろから聞こえて来た。


「カルミアも動くなよ?」


 声の主が言うと、同時に大きな破裂音がした。破裂音がした先、『ソレ』の背後に先程バラバラにしたものと同じ形容した物体がおり、それに大きな穴が開いて崩れた。

 先程の破裂音は、もう一つの声の主である人物の手に持った『物』から発せられたのが分かる。その物は不可思議な形状をしており、硬い鉄の塊が直角に曲がり、先の方には穴が開いていてその穴から細い煙が立っていた。俗に言われるそれは『銃』というヒトの武器だと思われる。

 引き裂かれバラバラになった不定形の物体は暫くの間バラバラになった状態で残り、時間が立つと蒸発するの様にしてその場で消えた。


「うわぁ…まださっきのいたんだ。クレソン、よくやったゼ!」

「はっはっはっ!もっと褒めろ!…さて?」


 二人が盛り上がった後に、襲われる直前だったであろう『ソレ』に二人は目を向けた。

 『ソレ』はカルミアと呼ばれた獣人よりも小柄だ。手足も細くそんな華奢な身体を覆う服は涅色くりいろの布一枚とかなり質素だ。しかしそんな服装とは反対に髪の色は桜色で一番目を引き、目の色も青紫と金糸雀かなりあ色の混じった不思議な色をしていた。

 二人は前から後ろ、横と『ソレ』をよく見た後に『ソレ』の正面へと戻りしゃがみ込んだ。


「キミ、どっから来たのかな?ってかマイゴかな?」

「十中八九迷子だろうけど、大事な事が一つある。」


 先程よりも固くなった表情に鋭い目つき、低い声でクレソンはカルミアに話し掛けた。


「…なに?」

「あのな、カルミア。…ここは関係者以外の一般人は入れない。」


 カルミアの表情が頭か強い衝撃を喰らった様な険しい表情になり、クレソンへと詰め寄った。


「えっえっ!?つまり、この子ってアレ!?…ミッコク者って事!?」

「うん、正確には密航者な。でも、それにしたって装備が無いよなぁ。」


 カルミアも言われて改めて『ソレ』をもう一度見た。確かに忍び込む為にはあまり物を持たず、身軽であるのが最適だが、それにしても物を持たな過ぎる。


「でもどうする?この子。ってか、シノび込んだヒトって、見つかったらどうなるの?」

「そりゃあ、捕らえられて、元居た場所に強制的に帰されるか、もしくは、牢屋行き。」


 牢屋行きと聞いたヒトも言った本人も、何故か再び衝撃を受けた表情になったり非常に落ち込んだ様子を見せたり、落ち着きの無い態度でいたが、少しして二人一緒に『ソレ』へと向き直り、『ソレ』の手を二人一緒に握った。


「大丈夫だ!俺らが君を安全な場所に送り届ける!」

「ナニがあったかは聞かないよ!でも、あたしたちはキミの味方だからね!」


 一体あの間に何を想像したかは定かではないが、二人は『ソレ』を捕らえたりする気は無いらしい。

 そうして、二人は『ソレ』を連れた状態で廊下奥の倉庫へと向かう事にした様だ。


「そういやなんでソウコに行くんだっけ?」

「…そういや、なんでだっけ?」


 向かって到着した後に目的を思い出した二人は、特に意味も無く力一杯に扉を開けた。


「オラー出てこいやー!」

「出て来られるもんなら来いやぁ!」


 大声で騒ぎながら倉庫内を物色、箱が多いだの、部屋の中が薄暗いだのわめきつつ奥へと進んだ。そして奥の壁際に扉があるのを発見した。


「ハイっ見っけ!それではヒラけ―!」


 意味も無く声を上げながら扉を開けた先、そこには何も無かった。

 あるにはあるが、横向けに倒れた大きな空箱に、少しひしゃげた小さな細い格子の籠と、見えるのはどれもヒトがガラクタと呼ぶものばかりが転がっているだけの殺風景な部屋の光景が広がっていた。


「エっこの中から隊長の言ってた『ブツ』見つけろって!?」

「これ、難易度高いぞ隊長!」


 隊長の言っていた『見れば一発で判るブツ』と言っていた目的のものが見つけられずに荒れる二人。しかし、そんな二人に待ったを掛ける様に廊下から大きな音が鳴る。


「なんだ?…まさか、さっきの変な生き物でも出たか?」

「んーどうだろ。ちょっくら見てくるー。」


 言ってから先程から探索していた小部屋を出て、廊下へと出る扉を開けたカルミア。廊下を見ると、そこには先ほど見たのと同じ不定形の物体がいた。それも何体も。

 それを見たカルミアは、開ける前と同じ表情のままゆっくりと扉を閉めてからクレソンの方へと振り返る。


「クレソーン!ロウカにさっきの粘体生物スライムがいっぱいいたー。」


 カルミアの様子を離れて見ていたクレソンも、遠目だが廊下の外も、見えていた為カルミアに同意した。


「うん、俺にも少しだけ見えたなぁ。まさか言った事が現実化するとはなぁ、はっはっはっ。」


 言ってはいるが目が笑っていない。直後に外から扉を叩く音。しかもただ叩くのでなく明らかに攻撃している様な衝撃に咄嗟に二人は扉に駆け寄り両手で扉を押さえた。押さえてもなお廊下側から力が掛かり、両手で押さえても時間の問題だった。


「なっななナニ、アイツらー!なんであんなにたくさんいるのー!?」

「ぐっ!…やばいな、あんなに数いたらさばけるか判んないぞ!?」


 さすがにこの緊迫した状況では、さっきの様な奇妙なやり取りを行えず、この状況へと対抗策を考えざる負えない。


「ってか、隊長の言ってたのケッキョク見つかんなかったどうしよう!隊長にお前らはお使いできないダメな大人だって言われちゃうー!」

「もうあれだ!適当に物色して『お求めの物です』って言って渡すしかない!金目の者渡せば隊長も許すと思うぞ!」


 そんな事は無かった。何やら言い訳を考えている余裕はある様でそうではない、変な会話をしていた。特に意味を成さない会話を続けた後、二人は限界を迎えるであろう扉に目を配せ、その後にお互いに目配せをして頷いた。

 直後に扉を開けた。瞬間『ソレ』の脇から互いに腕を通して『ソレ』を持ち上げて走り出した。


「強行突破だー!」


 最早作戦も何も無い状態のまま、二人は走って不定形の物体が群れを成す中に向かって行く。当然不定形の物体は襲い掛かって来るが、カルミアが空いた手の爪を伸ばし攻撃。次々に引き裂いていく。

 反対のクレソンも先ほど使ったのと同じ銃という道具で反対側の不定形の物体を撃ち倒す。そうして互いが互いを補い、廊下に溢れる不定形の物体らを倒して廊下を進んだ。


「このまま隊長の所まで行くぞ!多分隊長、もう合流場所にいるだろう!」

「じゃあ行くしかないね!何て部屋だっけー!」

「忘れた!走ってれば思い出すだろ!」


 無計画で戦いながら目的の場所がどこにあるか分からないまま突き進む二人に不安を感じる。しかし何故か二人がここであの不定形の物体に倒される想像が出来ない。

 とても危うく、今も間違えば攻撃があたっていたところだった。だがそれをかわす前から既にその攻撃は中らないという確信があった。

 何故確信があったのかは分からない。それを知る権利がある。


     3


 場所は変わり、さっきまでいた場所より上の階層。その廊下を今は知っている最中だ。走っている途中で本当に目的の場所がどこかを思い出し、そこに向かい移動している。

 その時、また廊下が少し傾き二人の体はよろめいた。


「おぉっと…今日波大きいかったけか?」

「うーんどうだっけ?天気よいって聞いたけど?」


 波、という言葉に『ソレ』は反応した。波とはどういう事か、未だに分かっておらず首を傾げているのに二人が気付いた。


「うん?どったのかな?」

「…もしかして、ここがどこか分かってないのか?」


 首を傾げた『ソレ』が次には辺りを落ち着かない様子で見渡す姿を見て、今居る場所が理解出来ていないと察したクレソンは、さも当然の様に答える。


「あぁ、やっぱり。廊下が傾いたりするのが不思議って感じしてたから、今ここがどこにあるのかも分かんない感じかな?

 ここは海の上、貨物船の中だ。」


 船。ヒトが多く乗る乗り物で、カモツセンという事は荷物を運ぶことを目的している。という事になる。何故その船に二人が乗っているのか、という疑問があるだろうが今は聞く暇は無い様だ。二人が進んだ先を睨みつけている。何かがいるらしい。

 二人はそれぞれの戦闘態勢になり、合図も無く、だが同じ瞬間に動き出し進む先の角から出てきたものを攻撃しようとする。出て来たのは二人よりも長身で錫色をしたヒトで、二人が隊長と呼んできた者だ。


「あっお前ら!無事」


 か、と言い終える前にカルミアの拳とクレソンの蹴りが命中。隊長は攻撃された勢いでぶっ飛び、壁に激突した。

 あっと二人が揃って口にし、隊長の下へと走り寄った。


「隊長、危ないですよ?無防備に姿を見せるなんて。」

「そうですよ!あたしとクレソンだったからタスかったけど、ヘタしたらケガしただけじゃすまないかもよ!」

「…いや、お前ら。絶対俺だって気付いてたろ。気付いてて攻撃止めなかっただろ絶対。」


 二人の容赦無い攻撃を受け、ふらつきながら立ち上がり二人に詰め寄る。二人は目線を明らかに隊長の方には向けず知らん顔をしていた。隊長の言った事は本当らしい。何故攻撃を止めなかったのかは知らないが、お互い分かっていての行動でこれ以上問い詰める事はしない様だ。


「とにかく!二人とも無事なんだな?」

「あぁ待って!ブジではあるんだけど…実は。」


 二人は隊長に伝えなければならない事があると呼びかけ足を止める。伝えたい事とは、隊長の言った『ブツ』を見つけれずに来てしまった事だ。あれだけふざけた事を言っていながら、素直に謝罪している様だ。

 そんな二人の様子を見ていた隊長だが、ふと二人の間、少し下がった所に立つ『ソレ』に目がいった。


「あぁ問題無い。そいつが俺の言ったのだ。」


 言われて二人は音が鳴る勢いで後ろを振り返る。そして自分らが連れていた『ソレ』が目的のものなのだと知るや否や、『ソレ』と体調を交互に見てから二人向き合い、互いの両手を合わせて喜び合った。

 さすが自分!と自身の賞賛を贈っていた二人だったが、少ししてから件のものが『ソレ』だという事に疑問が浮かんだ。


「えっ待って!?隊長が言ってたのが『今回の件で重要な要素』ってその子!?」

「その子どう見ても一般人だけど、一体何なの?」


 どう見ても何の変哲も無い、質素ななりをしたヒトにしか見えない。そんな人物が二人の、そして隊長にとって重要な人物である事にただ驚いていた。

 その最中、自分らの周囲に異様な気配が集まってきている事に気付く。その気配が今さっきまで見て来た不定形の物体であるのは明らかだ。


「うわっどうしよう!めっちゃ囲まれてるっぽいよ!?隊長!」

「隊長!乗組員の避難は!?」


 焦り気味ではあるが、優先すべき事を優先して確認を取る。隊長からは既に乗組員の避難誘導は済ませいているとの事。


「後この船に乗っているのは、俺らと一部の乗組員だけだ。結果としてこの船で目的の場所に向かう事が出来なくなった。だからお前らだけ…来い!」


 話し終える前に不定形の物体が集まり出し、説明する暇が無くなったと悟った隊長は直ぐ傍にあった扉を開け、カルミアとクレソン、『ソレ』を扉の先に強引に突っ込み入れた。

 隊長が続いて扉に入り、すぐさま扉が閉められた。中は殺風景で、床に円形の模様が描かれている事以外に何も無い光景が見えた。


「これ、魔法陣…物を移動させる型のものですか?」

「あぁ。本来は荷物専用の転生魔法陣だが、生き物もやろうと思えば飛ばせられる筈だ。危険だからやった事は無いが。」


 へぇと相槌を打って話を聞いていた二人。少し間が空いた後に、この魔法陣で何かを別の場所に飛ばす事、そしてその飛ばす『もの』が自分らである事を察した。


「いやいや!隊長今自分で生き物にこれ使うのキケンって言ったよね!?そのキケンな事をあたしたちにさせるの!?」

「隊長!なんで俺らだけでこれで脱出するって事ですか!?なんでそんな事!」


 大騒ぎをする二人を後目に、隊長は話を続けた。


「船に残った乗組員、そいつらは今部屋に閉じ込められて自力で出られない状況だ。だから俺は残ってそっちの救助をする。お前らは先に『目的地』に行け。案内は『そいつ』がする。」


 隊長が『そいつ』と言って指したのは、二人が連れて来た『ソレ』だった。隊長の言う『重要な要素』がどういう意味かはまだ定かではないが、カルミアとクレソン、そして隊長の三人の『目的』に必要な人物だというのが今の台詞から判る。


「良いか?何が遭っても『そいつ』を守れ!」


 言ってカルミアとクレソン、そして『ソレ』の三人を部屋の床の真ん中へと押して立たせた。瞬間床に掛かれた魔法陣が発光。カルミアとクレソンは転送の魔法が発動する事を察して隊長の方へと見る。


「隊長!?」

「…後は任せた。」

「あっそれ、一回は言ってみたいセリフ!隊長が先に言うなんてずっこい!」

「そうだそうだ!隊長のくせに決めるな笑える!」

「黙って立ってろ!後なんだその俺への評価は!」


 そう言って隊長は三人が立ち魔法陣から線が引かれた先にある小さな魔法陣に触れ、連動させて魔法陣の転送の魔法を発動させた。

 されるがままに、三人は魔法陣の魔法による光に包まれ、光が消えると同時に三人の姿も消えた。


「もう!ヒトのタメに残るとか、隊長カッコ良すぎでしょ!ダメでしょそんなカッコつけちゃ!」

「これは再会したら速攻で膝カックンの刑だな!」


 消える直前までこんな調子だった二人に一抹以上の不安を抱きつつも、隊長は目的の場所へと飛んだであろう三人を見送った。そして自分の得物を取り出し、自分を襲うもの達が集まる外へと向かった。



 そうして二人と詳細不明の『ソレ』は旅立った。互いに目的も判らぬままに、何が出来るのか解らぬまま。ただ流れのままにヒトは動いて行く。

 ソレが世界の為になると信じて―



 余談


 あなた達から見て、隊長はどんなヒトですか?


 とあるカワイイ(自称)猫耳の発言

「あのヒトはなぁ、見た目はやる気あるってカンじられないヒトなんだよね。それがオモシロいんだけど、あぁやってカッコつけちゃあオモシロさが少なくなっちゃと思うんですよね!」


 とあるイケメン(自称)の発言

「あーつまりは、あのヒトにとって『ツッコミ』は無くてはならないものだと、えー思うんですよ。だからぁ…あーあのヒトからツッコミを取ってしまったら…えー駄目なんですよねぇ。」


「何やってんのお前ら。」

「いつか来るであろう取材の答え考えてます!」

「イツでもそういうおシゴト受けてもダイジョーブだよ!」

「しねぇし!後、俺への評価突っ込みしか無いの!?」

「無い!」

「むしろあったっけ?」

「…泣くぞ?」

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