永久にトモに_とある異世界譚

humiya。

第1章 アサガオとシュロ

第1話 ナワバリで溜息

 朝から嫌な予感はしていた。


 目覚めは毎朝絶不調だし、元から整っているとは言えない長めの短髪頭が触っていなくても更にボサボサになっているのがわかった。

 オレは妖精種であり、妖精種は元来鮮やかな髪色をしているはずだが、オレ自身の髪色はくすんださびに近い緑色をしている。寝起きのせいか、普段から悪いと言われてる目つきも眉間にシワが寄って一層悪くなっているのが自分でも自覚出来る。

 だからか、毎朝起きて目にしても慣れる事無く溜息を吐きだすくらいには見ていて憂鬱になる。だが今感じるのはそんな習慣の様なものだけではないだろう。

 そんな事を考えを頭の隅に置いてから朝食を済まし、上着として民族衣装と呼ばれる青色で上着のわきに切れ込みの入った衣服に着替えてから同居人の支度を手伝ってやった。そして立てかけてあった鞘に納まった片手剣を腰に下げて外に出かけた。同居人もオレの後に続いて歩き、その姿を視界の端に入れつつ歩みを進めた。


 オレと同居人が住んでいるのは農業が盛んな村の南側の郊外、橋が架けられた小さな川を挟んだ木々に囲まれた場所にある。それ故自然に近く動物、特に鳥の声が村にいる時より耳に響いて聞こえる。今日も家の近くで鳥共が噂話していたの聞こえた。 どこかで聞いたであろうヒトの噂話に、空を飛んで見てきた光景なんかを仲間に打ち明け騒いでいた。

 こういう時、他種族の標準的な聴覚が羨ましくなる。 オレら妖精種の長く尖った耳は、動物の鳴き声や遠吠えも理解できる言語として聴き取れてしまう。 理解できる分頭に刷り込まれて余計喧しく聞こえて厄介だ。 内容が悪いものであれば尚更だ。 聞く気が無いのに聞こえて朝した頭痛がぶり返してきて再び溜息を吐いた。


 そして朝の嫌な予感の原因はすぐにわかった。 村に入って目に入った住民達のあからさまに浮かない表情や雰囲気に、鳥共と同様に噂話をし合う声が朝の時同様に聞こえてきた。 村の中で何か遭ったのが明白だった。

 そう考えていた時、頭の中から声が響く感覚がした。これは交信の魔法を使われた時の合図だ。魔法の発信下は感覚でわかり、それがオレの上司とも呼べる存在であるカナイからだと気づけた。土地の守護者であり森を守護する者とも言われる『土地とちがみ』のカナイは普段森の中で駐在しているのだが今はいち早く村に着いているらしい。

 交信魔法で呼ばれ指定された場所に行けばそこは村の中心から大きく離れた民家で、その家の前にカナイがいた。村人であり家の住民であろう人物2人の姿も見える。 男と女が1人ずつ、どちらも若く同居人か夫婦だろうか。

 よく見ると2人の住んでいる家であろう民家の壁の一部が壊され、穴が開いているのが見えた。家だけではなく、その壊れた家の壁の面した方向にある木の何本かが大きな刃物で滅多切りされたかの様に滅多切りされ無残な姿になり、周囲の草むらや簡素な作りの柵は最早原型が残されていなかった。

 それらを見てオレの頭の中で今日の自分の仕事は果たして開けられた穴を塞ぐための修繕の手伝いか。もしくは穴を開けた犯人を捜すのか、この2択のどちらかだろうと察した。 ひとまず事情を聞こうとカナイ達の下へと歩いた。

 自分の気配を既に察していたカナイは、オレの姿が見えた事で今日初めて目をこちらに向けた。 カナイは人ではなく見た目は完全な狐だ。 狐故に目線が下がりよく見降ろされているみたいで不快だと文句を言われるが、今そんな事を考えている場合ではなかった。


「シュロ、やっと来たか。 話は聞いたか?」


 来たばかりのオレにカナイはそう話を切り出した。 どうやらカナイの中ではオレは相当な地獄耳らしい。 それを否定するためにワザと強めに否定の言葉を口にした。 やれやれと口にしなくても思っているのがわかる表情を浮かべてからこちらに向き直し、オレに事情を話し出した。

 話はオレが想定したものの後者だったようだ。 犯人は予測しているらしく、オレが呼ばれた理由は要約すると相手をらしめてほしいという事らしい。


「開けられた穴は見ての通りの状態だ。 壁自体木製ではあるがヒト1人が事故で開けてしまったとは言えない惨状だな。」

「見たカンジ、大きな刃物おもっきし壁を殴った…って見えるな。」

「あぁ、一応村の中を一通り見て回ったが被害はこの家だけ。 目的は不明で犯人は一応の目星はついている。」


 てっきりこれから犯人の捜索でも始めるのかと思ったが、そうではないらしい。 話題が犯人云々になると、近くで黙って聞いていた家の住民が口を開いた。


「はっ…犯人は小鬼です! 絶対に!」

「大きな…風の音が聞こえたその後に、足音の様…な音がたくさんとギャアギャアという小鬼の声が外から聞こえて!」


 住民らは興奮気味か 自分らが見聞きした事を思い出す限り吐き出し怒りを露わにしていた。 自分の家を壊されたのだから当然か。 カナイがなだめる様に話し掛けている最中だが、オレは気にせず壊された家の周辺を見て回った。

 彼らは小鬼が犯人と言っているが、そう判断したのは壊された箇所の近くにあからさまに踏み抜いてつけたであろう足跡だろう。 記憶が確かであれば間違いなく小鬼の足跡だ。たくさんあるソレは全てが大きさにそれ程違いも無く形も皆一緒だ。結構な数の小鬼がここを踏み荒していったらしい。

 小鬼は川で隔てられた向こう岸の森の中にナワバリを張っているのを村人全員が知っている。小鬼による被害は各地で襲撃事件が起きる話を度々聞く程有名な話だ。 他の土地の被害と比べるとこの村での被害は最近では少なくなった方だが、それでも昔小鬼がこの地に流れ着いた当初は相当な被害だったと聞く。

 そういった事例があるため、村人は皆小鬼に対する強い警戒心が残っている。 今現在小鬼共はナワバリの中でのみの活動を土地守であるカナイと約束の様なものを交わし許可されているが、そんな中でのこの事態だ。 村人の困惑や怒りは最もだ。


「とは言え相手は言葉を発せど大人しく話し合い出来るとは言えんし、相手によってはナワバリに一歩でも踏み入れようもんなら問答無用で喧嘩になる事もあるしなぁ。」


 亜人種に属される小鬼族は気性が荒く、言葉を発するものの他者、特に他種族との対話を進んでやる事は無く暴力をもって物事を積極的に行う種族である事でも有名だ。 説得が難しいのは目に見えていた。


「しかし、被害が出てる以上ほっておく訳にはいかん。 シュロ、土地守カナイとして命ずる。 小鬼族のナワバリへ赴き小鬼達の所業を解決しろ。」


 見た目は動物のイヌ科、狐ではあるが中身はヒトと自然を結びつけ調和を図る守護者だ。 その守護者直々に命を下し、下した先である妖精種のシュロはそんな土地守に仕える『かみ』として話し出しから変わらない姿勢、表情で返事をした。


「いや自分で行けよ。」


 話をした者、その話を聞いていた者から発せられる深刻な雰囲気に反する様に返事をしたシュロの表情は、どこか呆れと面倒くささが感じられた。 ほんの少し、体感では永く間を開けてカナイは焦り顔を見せた。


「いやいやいや! ここは颯爽と引き受けて勇猛果敢に小鬼のナワバリに向かうって場面だろ! 悩んだ様子も無く即答するなよ!」

「オレにそんな大衆向けの英雄みたいな人物像を期待すんな。 つうか期待出来ると思うか?」

「出来ないな!」

「自分から言っといて自分から力いっぱい否定しやがった。」


 話していて意味が無い漫才を1人と1匹が繰り広げている様を、被害者である村人らはただ唖然と見守るしか出来ずにいた。 押し問答を数分ほど続けて肩で息をするに至った時点で区切りをつけ、カナイが口を開いた。


「別に小鬼らを殲滅して来いとは言っていない。 あいつらも一度戦って負ければ大人しくなり少しは話を聞く気になるだろう。」

「そうだろうが、解決方法が結局野蛮なんだよなぁ。」


 カナイの提案にねんを示すが既に決定らしく、オレの意見は無視された。 毎度の事ながら遺憾だ。森の守護をする土地守であるカナイは、事ある毎に自身ではなくオレに仕事を押し付けてくるから困る。

 確かに土地守は結界を張ったり、近隣の村々の様子を伺うなど、やる事は多い。しかし、他種族や亜人族とのいざこざは下手をすれば森や村そのものの治安に繋がる。それを土地守の仕えてはいるが、剣や魔法を使い慣れているだけの一般人とあまり変わりないオレという下っ端にやらせるとは、正気の沙汰じゃないと思うが、結局は上司命令と言うワケだ。世知辛い。


「まったく、お前ももう少し積極的に動くところを見せてくれたって良いだろうに。」


 そもそもオレが守仕になったのも、カナイらに村で過ごすなら仕事をしてもらうと役目押し付ける体で役目を与えられたのが守仕になった経緯だ。要はオレの積極性を育てるために役目を与えたのだろう。


「結局アンタが命を出してやってるんじゃ、オレ自身の積極性も何も無いんじゃ?」

「ええい固い事を言うな! 私の言葉は切っ掛けとでも思っておけば良い。」


 無茶苦茶である。 するとカナイが何か言いたそうにオレの、特にオレの足元に視線を送っていた。 オレにもカナイが何が言いたいかは目線を送られる前から察していた。

 朝から出掛け村に入り、カナイと話す最中にもその感覚はずっと離すまいと服の裾に強くも無い握力でしがみつく同居人の存在。

 目を力が働く方へと下げるとすぐに目に入った、クリーム色とも言える淡い黄色の髪がせた桃花色のリボンで結い上げられ、頭に光の輪がかかっている。白いエプロンを着けた薄いぐさ色のワンピースからのぞく足は、今も動きたそうに小刻みに震えて見えた。 自分が見られている事に気づいたソレは顔を上げオレと目が合った。

 オレの臙脂えんじ色の目と、長い前髪から覗くアサガオの翡翠色の目が互いを映して一瞬間が生まれた気がした。 瞬間ソレはオレの顔の様子を見てから日に照らされた花の様に笑った。


「アサ、あんま服引っ張られると動けねぇんだが。」


 オレに笑みを向けた人間の幼子、アサガオはオレの言った事を聞いて少し考えた後、遠慮がちに手をオレの服の裾から離した。だがオレのそばを離れる事はなく楽しげに笑ってオレの周りをくるくると走り回り、結局オレが動きづらいままだ。


「やれやれ、そんな不服そうな顔をしておいて強く言わんのだから。 はっきりとアサガオを叱れば良かろうに。」


 カナイにまるでアサガオ対してに甘いと指摘された様だが、正直オレはアサガオに甘いと思っていない。 今だって離れる様に遠回しにではあるが促したし、優しくしている事も無いはず。

 今はそんな事よりも、アサガオがオレから離れないという事はこのままでは小鬼共のナワバリにまでアサガオが着いて来てしまう事だ。 アサガオは基本的には無邪気かつ素直な性質なのだが、変なところで頑固になりなかなか首を縦に振らない事もしばしばある。 今がその状態だ。


「で? 結局アサガオも連れて行くのか。」

「そりゃそうすっしかねぇっしょ。 置いて行ったって結局勝手に後着いてきちまうから、ソレなら最初っから連れてく方が安全だろ。」


 事実そういった事は今までに何度もあった。 留守番してろと家に置いていった結果、後ろからコッソリ後を着けてきてソレにオレが気づいて結局一緒に行くのが定番といった光景だ。 実の所見えない所に置いていくよりは見える所にいる方が安全というのも本音だ。

 つまりはいつも通りアサガオを同行させる他ないという事だ。 カナイにはそうなる事が分かり切っていたはず。 分かって聞いてきた辺り本当に意地が悪い。 ソレもオレは分かっていたが。

 目的は既に定まった事だし、カナイとの話も区切りを付けてサッサと小鬼のナワバリに向かう事にする。 当然だがオレが動くと同時にアサガオも動き、小走りでオレの後を着いて来る。 さっきまで声に出して楽しそうに笑っていたのも今は鳴りを潜め何かを探す様に周りをキョロキョロと見渡していた。 危ない。

 カナイは尻尾を一振り動かし、相変わらず危なっかしいヤツだと言う独り言をつぶやいて見送った。

 その後壁の修理に来たであろう小柄のヒゲ面な男が大工道具を持ってやって来て、待機していたカナイと家の住人らが話始めた。


「ところで土地守さんよぉ?この前の修理代のツケ、いつ支払うんだぁ?」

「まぁまぁまぁ、この間手に入ったこの酒でなんとか。」


 何気なく耳を傾けていたら、幼い子どもに絶対聞かせてはダメな大人の汚いものを耳にしてしまった。アサガオの耳にも届いたが、意味はわかってなく首を傾げていたから、気にするなと言っておいた。

 一部始終を見ていた村人は、知ってはいたが毎度心配になる土地守と守仕のやり取りなどを見てしまい更に一抹の不安を募らせ顔が曇った。 オレは知らない。


     2


 村の南側に流れる川、その川に架けられた橋を渡ればオレらが住む家があり、更に奥に進めば目的のナワバリが張られた森がある。 動物達が棲息している森と小鬼共がナワバリを張っている森とは隣接している。

 そもそも小鬼のナワバリに行くには動物達が棲む森を抜けなければ行けない。 そんな森の状況では動物に被害が出るのではと思うが、そこは土地守カナイの力である。

 森と森との間には結界が張っているから動物達は無事なのだとカナイ自身が言っている。 ならば村にも被害が出ないよう村側にも結界を張れば良いのでは? と言ったが土地守の力にも限界があり、広範囲に結界を張る事は難しいとの事。 それに小鬼のナワバリと村の間には川が流れており、カナイ曰く川が一応は防壁の役割にはなっているらしい。 正直疑いはしたが被害は確かに少なくはなっているし、そこは納得するほかなかった。

 土地守の力も、目には見えないし正直使い勝手が良いのか詳細の知れないものだ。 知らない事が多い土地守やカナイらの事をオレは詮索はしない。 そういう約束だし、オレも詮索されるのはキライだから今はソレで良い。

 森の入り口、通り道であるそこに思う所があり少し寄り道をした。 アサガオは変わらず小走りを続ける。 途中くたびれはしなかと思うが、案外アサガオは体力があるらしくそういった様子は今まで見た事無い。 そうであるのは助かるが、逸れた時探すのに苦労するから場合によっては困る。複雑だ。

 森に入れば遠くから聞こえた村での雑多な音はまったく聞こえなくなり、代わりに自然特有の微かな生き物の声が耳に入ってきた。 朝に聞いた鳥達のウワサ話とかハラがすいたという文句やケンカによる言い合い。 それがの耳に入ってしばらく経つと微かだった音は雑音になった。 知っていた、森に入る度にこうなるのだから。ウワサをすれば音をたてて森の動物達が集まってきた。


「シュロダー! 何カ持ッテナイカー?」

「キタゾキタゾ!今日ハ何スルンダ?」

「オイオ前、何カ面白イ事シロ。」


 草むらから何羽も跳ぶ出して来て本当に鬱陶しい! ウサギやシカ共が顔を出して不用心に近寄ってきた途端にまくし立てて来た。 こちらが顔を見せたらすぐこうなる。 中には服に噛みついてくるヤツもいて心底止めてほしい。

 この森の動物らは皆草食か雑食動物で、天敵となる動物がいないためか、森に入ってきたヒトに対してものすごく慣れ慣れしいと言うか図々しく接して来る。

 しかもこっちが妖精族で言葉がわかっていると動物共も理解しているから要求ばかりして来る。極稀に動物同士でも喧嘩や粗相が起こるが、そういう時はカナイが仲介と呼称しつつ武力行使をするため互いに争う事はあまり無い、らしい。 オレ自身は現場をみていないため何とも言えないが、仲介の意味をカナイは忘れている様に思える。


「お前ら、ここ最近森で何か変わった事を見たり聞いたりしたか?」


 俺の問いに動物共からの返事は直ぐに返って来た。


「見タ!」

「オッカナイノ見タ!」

「オッカナイカラ隠レタ!」


 動物共が言った事を要約すると、恐ろしいものを森の中で見たから隠れて様子を伺った、という話らしい。聞こえてくるのは今の話と同じものばかりで、他に何か遭った様子は見られない。

 こちらの用件は済んだからもう良い、と言ってもコイツらはずっと纏わりついて来る。こっちは動物共を払うもに苦労しているのに、アサガオは俺の状態とは裏腹に動物共と楽しそうに遊んでいた。動き回る動物の尻尾をアサガオが触ろうと追いかけたり、互いに触り合ってじゃれ合ったりと目にすると気が抜ける。

 無理矢理に払い除けてカタマリ状態となった動物共から抜け出し、大声でアサガオを呼ぶとすぐに反応して、アサガオは遊び相手となっていた動物共に別れを告げてオレの傍に戻って来た。

 なんでもない所で時間をくってしまったがナワバリは目と鼻の先だ。早く用事を済ましてゆっくり休む時間が欲しい。そんな答えに反して足を休みなく動かしてる最中、アサガオは首だけを動物共の方に向けて袖をはためかる様に手を振り続けていた。ちゃんと前を見ないと転ぶぞ、と注意だけはしといた。


 ナワバリに中に足を踏み入れ、先ほどの動物共の棲みかとはまったく異なる空気を肌に感じた。 アサガオも動物と遊んでいた様な浮ついた様子を潜ませオレの足にしがみつき辺りを警戒する様に首を動かし見て回っていた。さすがに足にしがみつかれると動けないので離れる様に言いオレの背後に立つ様言い聞かせた。遠くから微かに聞こえる動物の鳴き声を背景にナワバリの奥へと進んだ。

 動物共の棲みかとも同様に基本的にヒトがあまり出入りしないため草は生え放題伸び放題で、歩く度に草を払い除ける音や踏みしめる音が大きく動きも緩慢かんまんになる。アサガオに至っては下半身は完全に草むらに埋まり両腕を横に伸ばし振りながら一生懸命歩きオレの後ろを保ちつつ着いて来ていた。


 少しして開けた場所に出た。だが辺りは暗い、このナワバリに入った時からずっと感じていたが今日は雲の少ない晴れ空だ。 木々が密集しているとは言え森の中のこの暗さは異常だ。何かナワバリ特有の空気が暗く見せているのか、木陰が異様に濃く見えるのか。そのせいで物陰や自身の死角への警戒が怠れない。 前にも来た事ある場所でもそれは変わらない。

 ザワっという音があちらこちらから聞こえてきた。 腰から下げた剣の柄に手を添えて音がする方に目を向けた。草むらからやっと体を出したアサガオは咄嗟にオレの足に隠れる様にしがみついて来た。

 そうして身構えていると草むらから次々に草に触れて揺れる音が増えて聞こえてくる。 同時にオレら2人を囲う様に草むらから影が見えてきた。音が大きくなりにつれて影は次第に輪郭をはっきりさせ、小鬼が姿を見せつけて出て来た。

 把握してはいたが、やはりスゴイ数だ。 姿も相変わらず良い印象の言葉が思い浮かばない恐ろしい容姿をしている。

 オレのとは異なる大きく尖った耳に突き出た鼻、背丈はどれも人間の子どもくらいの大きさだが肌の色は人間のものとは明らかに違う灰色がかった緑色をしている。手は大きく爪も伸びてしかも尖っている。目はトカゲやヘビの瞳の様で鋭く大きい。身に着けているのは動物の皮だろうか、腰みのの様な防具を腰に巻いている。聞こえてくるのは出てきたコイツらの威嚇の声だろう。

 聞いていて気持ちの良い響きでは無い、ヒドくしゃがれた声を出し絶え間なくナワバリの侵入者であるオレら2人に向ける。


「出ヤガッタナ守仕!」

「今度ハ何ガ目的デ来ヤガッタ! 強奪カ、略奪カ!」

「オレラノ食イ物ヲ蹴ッ飛バシテ仲間フン縛ッテイジメルノカ!」


 本来であれば小鬼の言葉を完全に聞き取るには、専門の言語学を学ぶ必要があるが妖精族の耳は亜人に分類される彼らの言葉も多少は聞き取れる。それでも小鬼共の言葉はほとんどが片言に聞こえ、聞き取りづらくはある。

 所で毎回思うが、何でオレの方が悪さしに来てる様な言い方を毎回されにゃあならんのだ。 後、強奪と略奪はほぼ同じ意味じゃないのか? 違ったか?

 一先ず話を聞いてもらうために釈明しゃくめいしようにも、姿を見せたヤツらは皆既に臨戦態勢になっている。こうなったらやる事は決まっているからどうしようもない。

 既に掴んでいた片手剣を鞘から抜き、剣を構え見据えていると早速相手方が動いた。 石と木で作られた斧や槌を振りかぶり四方八方から跳びかかってきた。

 連れのアサガオは丸腰の子どもで戦う事は当然無理だ。実質こちらは戦えるのがオレ自身ただ一人。一度に大勢で襲いかかって来られると確かに不利だが、正直小鬼自体の能力は低く弱い。オレは特に焦る事なく周りを見据えたまま自分から一番近い小鬼を見切って順に斬りかかった。

 斬った勢いのままに隣の下位置にいた2匹目の小鬼も斬り払った。更に次、その次と自分から近い順に剣で斬り払い時には蹴り飛ばしたりし襲い掛かる小鬼共を撃退していった。

 当然だが相手もそのままやられる気は無いらしく、直接攻撃以外にも木の上から弓矢を使った遠距離からの攻撃もしてきた。ただその矢も木で出来ており、質素な作りだ。オレも矢に当たるワケにはいかない、襲い掛かって来る小鬼からの猛襲を躱しつつ木の上の小鬼が放った矢を剣で斬って落としていった。躱したオレの後ろにいた小鬼が代わりに矢を受け苦痛の悲鳴を上げているのを横目に、そこらに落ちていた石を足で蹴り上げソレを手で受け止めて直ぐに投擲とうてきした。

 一方アサガオは基本オレから動かないが、勝手に離れて行かない様念のためにオレがアサガオの頭を軽く押さえた。


「クソー…ヤッパリ負ケチマッタ。」


 一通り小鬼共を撃破をすると、相手は降伏したのか戦闘の動きが治まり武器を下ろしへたり込んでいた。息も切らしていて力を出し切った事が伺える。自身らがこれ以上戦えないと負けを自ら口にし、悔しそうに歯を食いしばる。

 撃破したと言ってが剣で斬りつけたのは全て小鬼共が持つ武器だけ。小鬼自身には峰打ちで済ませた。怪我の治療くらいなら許せるがそれ以外で血を見るのは勘弁だ。それに話をしなくていかんし、口が聞けなくては意味がない。

 ちなみに小鬼と戦うのは今回だけではない、以前訪れた時にも力試しの名目で小鬼共から挑まれた。結果は自分で言うのもアレだが今回同様圧勝だった。その結果故か小鬼共はオレの姿を目にする度に喧嘩を売って来る。 最初にオレに対しての物言いもそういった経緯が原因かもしれんが、あくまで喧嘩を売ったのは小鬼共の方だ、やはり納得出来ない。


「戦う気無ぇっつうのに、話を聞かねぇヤツらだな。」

「言イナガラ、テメェダッテ思イッキリ攻撃シテキタジャネェか!」


 確かに、腹蹴ったり石投げたりと結構ダメージ負わせてたな。


「交渉のついでだ、気にすんな。」

「ツイデデ痛イ思イサレテタマルカ!」


 小鬼共が一斉に騒ぎ出し、オレに不満をぶちまけていくが気にしないでおいた。


「好い加減オレの話を聞いて欲しいんだが、落ち着いたか?」

「フン!話ナンゾ決マッテイル、村ヲ襲ッタ犯人トシテオレ達ヲ退治ニシ来タンダロ!?」


 正にオレが言おうと思っていた事を小鬼に先に言われ少し驚く。どうやら村での出来事がこちらまで届いていたらしい。考えられるとしたら、鳥共のウワサ話か。小鬼も多少は動物の声を理解出来るから、真っ先に考えられる話の出所はそこだろう。

 そして村人からの要求は正に小鬼が言ったソレだ。村人の方も家を襲われたと言って大分混乱している様子が見られた。今はカナイが落ち着かせているだろうが、それでどう変わるかは俺もに分からない。住民自身には被害が無かったものの一歩間違えれば自分らの命が危うかったかもしれないのだから当然か。

 しかし、オレの思惑は村人からの頼みとは違う。ソレを言いに小鬼共のナワバリへと来たのだから。


「退治しろとは言われたが俺はお前らを退治しない。オレはお前らから話を聞く為に来た。」


 あくまで冷静に、奇襲に遭いはしたが今は落ち着いて話を切り出せた。だが小鬼共の表情はいぶかしむ様子が見られた。オレの話が信じられない、と言うよりも信じるという行為そのものに対して疑心を抱いてると言う。


「オレ達ガ何ヲ話シタカラッテ、オレ達ニハ何ノ特モ無イ。」

「ヒトニ何カアレバ、オレ達ガヤッタ事ニナル。ソシテオレ達ヲ退治シテ話ハ終ワル。」

「小鬼ガ退治サレルマデ、ヒトハ疑ウ事ヲ止メナイ、終ワラセナイ。」


 亜人という種族がヒトを襲う事例は少なくない。ここ以外の土地、行商人や荷物を運ぶ馬車が頻繁に行き来する街道に小鬼が出没しソレらを襲う事件はよく耳にした。小鬼がヒトを襲うのは食糧の強奪だったりナワバリの範囲を広げたりなどの目的がある。要は小鬼は生きる為に他種族を襲うのだ。快楽のために行動する事は無い。あるのは何らかに要因で精神に異常をきたされた時ぐらいだろう。ある意味に動物の本能に近いと言える。だから妖精族であるオレに小鬼の言葉が理解出来るのだろう。

 そしてコイツらは自分らが今村人からどういう印象で見られているか自覚している。村から近い場所にナワバリを張っているからか、人間的な思考を取り入れている節が見られる。故あっての疑心だろう。オレが話を聞いたくらいでは事態は収まりはしないと自分らは思っている。思うしかないといった感じだ。


「オレはお前らが端から犯人ではないとわかってる。」


 野性的な本能を持ち、理不尽にオレに襲い掛かってきた小鬼共はまるでヒトの意気消沈していた。そんな彼らにオレが発した言葉で空気が張ったかに感じた。確信を持って、疑うことを否定する様に強く口にした。


「例えば襲う理由が食糧だったとしても、畑や食糧庫が手つかずな時点で除外だ。ナワバリを広げるにしても家屋1軒の一部壊すだけで終わるのも可笑しいし、破壊目的も不明瞭でソレも無し。結局んとこ犯人が小鬼に限定って所も怪しくなってくるワケだ。」


 オレが村で感じて、オレなりに整理した情報を小鬼共に聞かせた。他にも可笑しな事がある。


「森の動物共の様子もそうだ。何か恐ろしいものを見た、隠れたと話をするだけで誰も襲われた、食われたとは言わなかった。お喋りなアイツらが自分や仲間の存続に関わる事を言わないワケが無い。

 そもそも森からお前らが抜け出たとして、周囲に被害が出なかったのも可笑しい話だ。お前らは何もせずにナワバリを出入りする様な無駄な事をする奴らじゃない。如何にお前らが頭が足りない種族であってもだ。」


 オレが最後辺りの発言に小鬼共はオイ!と言い返しはしたが、それ以外にオレが話した事に口出しして来ない。ただ目を見開いてオレを見ていた。次にオレはコイツらの自暴自棄発言を聞いて感じた事を喋る事にした。


「お前らが自分の出自で自分自身苦しんでるってのはわかった。 言っちまえばココでカナイと出会うまでお前らは確かにヒトを襲うことを当たり前の様にやっていた。 言わば自業自得だ。同情なんてありゃしない。 オレもしない。」


 ここでナワバリが出来る前、コイツらは集団で放浪していた。時には他の土地の動物を狩り、時にはヒトを襲って食糧を奪いここに流れ着いた。そしてカナイは彼らを打ち負かし強制的にではあるが彼らと約束した。カナイが守護する森の一画をナワバリにしてそこに棲む事を許す。その代わりに動物やヒトを襲う事を禁じる。というものだ。

 他のヒト、特に小鬼の被害者からすれば場所は分けているにしても小鬼との共生など考えられない事だろう。だが、オレはそうは考えた事は無かった。

 カナイは小鬼にした約束に、正確にはナワバリの出入りを禁じてはいない。あくまでヒトや動物を襲わないだけ。小鬼がナワバリの出入りする事に関して緩くなったのは約束を発したカナイの落ち度かもしれないが、カナイはわかってそのような約束を交わした。


「お前らはカナイとの約束を交わしてからは違えてはいない。少なくとも今まで村人を襲っているところを見た事無い。

 お前らが過去の事で今負い目を感じるのも、ヤケを起こしてオレらに八つ当たりするのは…まぁ許さねぇが返り討ちにするから問題無いな。だが、お前らが犯してもいねぇ罪を犯したと認めるのをオレは認めねぇし、お前らに無実の罪を被せる奴らをオレは許さねぇ。」


 森に棲む小鬼共が他の土地に棲む小鬼と変わらないのは知っている。しかし他の小鬼と違うのも見てきた。小鬼共は頭は悪いが知恵が働かないワケじゃない。群れで動く分仲間意識は少なからずあるし道具や武器を使う知能を持っている。そんなヤツらが今更何の理由も無く森の、それも村の中で騒ぎを起こすには理由があるとオレは考える。

 小鬼だからヒトに悪さをして当然。 小鬼が罪を負い罰を受けるのも当然。そんな考えをオレは当たり前と考えない。

 何をした所で結果は決まっている、なんてセリフはもう聞き飽きた。だから今回の件もオレは色んな意味で少しイラついている。


「…ツマリ、何テ言イテェンダ?」

「さっき言ったろ、端からお前らが犯人でないとわかってるって。」


 あくまでカナイから言われたのは『小鬼達の所業の解決』だ。小鬼が事の犯人だから退治しろとは言ってないし、恐らくカナイも小鬼共が家屋破壊の犯人とは思っていないだろう。でもオレと同様に関係者であるとは考えてはいる。そしてもう1人、小鬼が犯人だと思っていないヤツがいる。

 気づけばオレに傍を離れ、ナワバリの奥の方にいた。奥には小鬼の子どもだろう、何人も小さな小鬼が集まっておりそんな中にアサガオがいた。

 子どもとは言え小鬼特有のしゃがれ声に爬虫類の目、どんな強靭なヒトが見ても恐ろしいと心に抱く姿をしたソイツらにアサガオはビビりもせず接し、しかも拾った枝の端を小鬼と引っ張り合って遊んだりと楽しそうにしてる。


「アサはあぁ見えて怖がりなんだが、ビビりもせずに小鬼の子どもと遊んで…ノンキなヤツだ。」


 警戒心は経験し、成長して身につけて行く。まだ幼いアサガオはその子ども故の経験不足により、小鬼に対しただ好奇心で近づいているだけかもしれない。だが、幼くても本能からくる恐怖心はある。実際アサガオは本当に危ない事には本能的に近寄らないし、何より痛いのが人一倍嫌いで道具や武器を持った相手には近づこうとはしない。

 そんなアサガオが怖がる表情も気味悪がる顔もせず、それどころか遊びに誘うアサガオに小鬼の子どもらも完全に警戒心を無くし、打ち解けた様子を見せていた。

 そんな光景を見て大人である小鬼共は緩和した様な、どこか憂いにも似た複雑そうな表情にも見えた。


「改めて言うが、今お前らをここから追い出そうだの考えてはいねぇ。壊れたものは修理すれば直るが、後から事がデカくなるのはこっちとしては勘弁だ。

 だから話せ。お前らは、村で何をみた?」


     3


 土地守であるカナイが守護する森の中、力を用いる事で森の中を把握出来るカナイだが、さすがに就寝の最中で力を使うのは無理だ。故に事は夜中、村人が証言した通りの時間帯に起きた。

 ナワバリ内で腹をすかせた小鬼が数体、ナワバリの片隅にある木の実の成る木が集まる場所へと移動していた。その時その内一体が何かを察する様にある一点を凝視した。ソイツは特に耳が自慢と自負しており、村のある方向から聞き慣れない音が聞こえたという。好奇心か警戒心からか音の出所が何か確認するためにソイツらは音を聞いたという小鬼を先頭にし音が聞こえるという場所へ向かった。そうして進んだ先で彼らは見たのは、小鬼曰く『風のカタマリ』だった。

 その『風のカタマリ』を中心に周囲にも強風が吹き、その強さは木の葉を強制的に地に落とさんとする程だった。そして『風のカタマリ』は動きを見せた。それは動きが最初カメを思わせる遅さをしていたが、ヒトの住む村に近づくに連れて何かに興奮する様な雰囲気が感じられたとか。

 そこまで見て小鬼共は察した。コイツをそのままにしておくと村の人間共が危険な目の遭うだろうという事。そして村で何か悪い事が起こると自分ら小鬼が責任を負わされて不都合な事態に巻き込まるかも、という自分らの身の安全のため、村人や土地守にバレない様に『風のカタマリ』を処理しようと動いたとの事。

 『風のカタマリ』は小鬼共が自身に近づいてくるのに気が付くと抵抗をし、その際木や地面を削る様な強風が吹き荒れ危うく全滅しかけたとか。恐らくその木や地面を削る様な強風というのが村の家屋破壊の原因だ。小鬼が意図せずに追いかけた結果であるなら事故に近いものだ。ただ『風のカタマリ』というのが問題だ。意図して村に近づき、最初から破壊を目的に何かしらの力を使ったのであればソイツが今回の犯人だと言える。


「ソレカラオレ達ハソノ『風のカタマリ』ヲ追イカケタガ結局逃ゲラレ、見失ッテシマッタ。」

「まだ近クニイルハズ。ダカラオレ達、戦イニ備エテル。」


 小鬼共の話が確かなら、その『風のカタマリ』と小鬼共が称するソレは村の近くにいる可能性もある。その事に気づきオレは頭をかき回し、今日ついた溜息の中でも特にに苦々しさと忌々しさを含んだ溜息を吐いた。


 非常に不味い。小鬼の発言に虚構や虚栄が無いとしたら、あれだけの傷を作れる力を持った何かが村の近くに野放しでいる事になる。運が良ければ逃げた時点でそのままこの土地から離れるのが良いが、小鬼しか視認していない正体不明な存在が遠くに移動してしまうのは正直厄介だ。

 ソイツが動く前にカナイにすぐ連絡を取ろうと交信魔法を発動させカナイに語りかけた。が、何か雑音が魔法の使用で顔の前に発現した魔方陣から響いて上手くカナイと交信が取れない。この状態には覚えがあった。


 魔法を使うために空気中を漂う魔法の素となる『魔素』を集め、想像力によって魔法へと形成する。要は様々な色の糸を編み込んだり、粘土をこねて形を整えるのと一緒だ。上手く集中していれば発動に特に問題は無いが、みだりに魔素を集めたり魔法を使い過ぎたりすると魔素が大きく変化し自他の魔法使用を阻害となる事がある。今のオレは正にその阻害されている状態だ。

 思い出しつつ考えた。 小鬼が称した『風のカタマリ』。詳細を聞くと相手は小鬼よりも大きく、地面を蹴る音を聞いたという事は少なくとも地に足を付ける生き物の姿をしているんだろう。そして『風』という単語。予想ではあるがソイツは風を纏っていたのだと思う。比喩では無くそのままの意味だ。

 つまりソイツは魔法的な要因で風を周囲に発生する事で風圧による攻撃を行っているのだろう。村人が言っていた小鬼の足音を聞く前に聞いたという風の音がソレだ。

 魔法は知能が働けば動物にだって使えるし、体毛などに他者が魔法を施す事で魔法を使用出来る事もある。なんだったら小鬼だって使う事がある。


 さて、オレの予想が当たっているとして今オレは魔法を阻害された、となれば。ある結論が出る。そこまで考えて奥地の小鬼の子どもとアサガオが遊んでいた場所を見た。すると小鬼の子どもが何かを察した様に顔を上げ、アサガオは何があったかとソイツらを見るがわかっていない表情をする。直後にオレはアサガオの体に腕を回し自分の方へと引っ張った。次の瞬間には前触れも無く地面が大きなと音を引き連れて抉り取られた。小鬼の子どもは間一髪その衝撃から逃れ辺りに走って逃げた。


「あぁやっぱりか!もう近くに来てやがった!」


 その地面を抉った衝撃の出た先を見れば、確かに小鬼の証言通りに『風のカタマリ』はあった。今は昼で薄暗くはあるが目を凝らせば全容が見えた。

 大きさも証言の通りに小鬼、下手すれば成人したヒトの平均男性よりも大きいだろう。2Mくらいはある巨体をしたオオカミが木々の間に立っていた。薄汚れた体毛はよく見る褐色色のものだが、風の魔法を周囲に纏う様に発動しているからか霞んで見えた。


「なんでサッサと今の話をカナイにしなかったんだよ!後少し遅かったら大惨事じゃねぇか!」

「オメェラガ村ニ入ッチマッテ言イニ行ケナカッタンダヨ!」

「最初カラ疑ッテル人間イッパイイル所ニナンテ行ケルカ!」

「オレの事遠慮無く襲った奴がそこで日和るなよ!」


 する必要の無い口論を直ぐに済ませ、襲撃してきたオオカミの方に向き直った。明らかにやっこさんの目が正気とは言えない。焦点は合ってないし息も荒く、そもそも魔法を遠慮無くぶっ放してきてソレで正気だったら遠慮がちな小鬼共は何だと言える。

 妖精族としての眼で視て、魔法の練り方もぐちゃぐちゃ、理性のある動物だってもう少し整えている。相当混乱しているか、それとも他者に操られているかどれかだな。こっちが動けばあっちも反応して逃げるか攻めるかして来ると予想しつつ考えあぐねていた。その時、オオカミの上から突如網が落ちてきた。見ればソレは木の上から跳び下りた小鬼が網を持ち、ソレをオオカミに覆い被せて抑え込もうとしている。


「コンニャロウ!テメェノセイデ俺達ァ肩身セマイ思イシナキャナラネェンダヨ!」

「ヒッ捕ラエテ袋叩キニシテヤル!」


 抑え込まれオオカミはもがき体や首を振り回し網の捕縛から逃れようと暴れている。良く見ればオオカミを捕らえた網は太い植物のつるを雑に編んだもので、急ごしらえだというのが一目でわかる。

 暴れるオオカミを大人しくさせようと他の小鬼共もオオカミに接近し直接抑え込もうとしらり、持っている石斧や槌で殴ってオオカミを弱らせようとしているが、オオカミの皮膚が厚いのかビクともしていない様に見える。蔓で作った網もブツブツと音をたてて切れかかっているし逃げられるのは時間の問題だろう。


「オイお前ら、急いで縄か何か縛る物用意しとけ。」


 そう小鬼共に呼びかけ、再び剣を構えた。小鬼はオレの声に答える様に渋々と引き下がった。相手は正気を失っているものの魔法を使っている。正直コイツらでこの巨体オオカミを捕まえられるとは思えない。だからオレが加わらなくてはいけないと思った。っと言うかここまで来て傍観してる場合じゃねぇ。

 だから小鬼を下げてオレが替わって前に出た。アサガオはとっくに後ろに控えていた小鬼に引き渡した。アサガオがオレを呼んだ。返事のために目はオオカミから離さないまま、手だけアサガオに向けて軽く手を振ってすぐに態勢を整えた。

 合図の様に蔓の網は切れ、拍子に抑え込んでいた小鬼達も振り払われ地面に落とされた。丁度良いとそのままオオカミの下へと走り寄った。

 オレの接近に気付いたオオカミは大きく口を開け牙を向けてきた。噛みつかれる予想し体を捻らせた次には掠る位の距離をオオカミの牙が走った。攻撃直後の隙をついて剣を振るった。

 当たった感触が剣の柄を通して掌に伝わったが、当たったであろうオオカミの顔の箇所に傷と思える跡も出来ていなかった。また嫌な予感を察して一歩引いた瞬間、爪をたてた前足が上から風を切る音をたてて振り下ろされた。今度は足を軸に回転させその勢いに乗って剣を振ってオオカミの顔を横から殴る様に斬りつけた。

 確かな手ごたえだ、だがそれも無意味に終わった。また傷が付かなかった。微かに剣が当たっただろう箇所にそれらしい跡が見られたが、ソレで相手が痛む事は無い事も見てわかる。

 何故傷一つ付けれないのか攻撃をしていて確信した。風だ。オオカミの周囲を風が巻きつく様に吹いておりソレが壁となって攻撃を妨げていた。そりゃまったくダメージが通らないワケだ。相手が盾を構えた状態だと言うならソレを取り払ってしまえば良い。言うのは簡単だがやるとなるとどうすれば良いか。

 また思考した、その間またオオカミが牙や爪を使いオレに攻撃を仕掛けた。躱す為に体を動かし、おかげで考えが逸れて考えがまとまらない。さてどうやって相手の魔法の風を取り払うか。答えは直ぐに出た。魔法に魔法をぶつけて相殺させる、それが良いだろう。タイミングは何時だと相手を観察する。


 オオカミは魔法で風を起こし、ソレを自分を中心につむじ風として壁を作った。何時からそんな防御状態にしているか知らないが大分時間が経っているはず。魔法を使い続けていれば当然魔素の消費と同じだけ魔法の使用者の疲弊も大きいはず。ならばそのまま動けなくなる程使い続けさせるのも手だが、正直その手段をとるには気乗りしない。相手を自滅に誘うのは性分は持ち合わせていないし、サッサと勝負をつけたい。

 観察していて次第に風の壁が弱まった気がした。魔法の効果が切れ始めたのだ。オオカミはほぼ無意識に再度魔法をかけようとする。その発動の瞬間の隙にオレも魔法を使うため詠唱をした。


「吹き荒れ、盾となり、牙を遮り断つ。」


 相手が魔法を発動と同時にオレも魔法を発動させる。発動したてならまだ威力が出ておらず弱い、風向きもよく見て同じ向きに風を操った。

 瞬間2つの強風が吹き荒れ、ぶつかり相殺し合った。少しの間顔に砂粒が当たる感触がし顔をしかめた。そして数秒の内に風は治まった。上手くいったらしい。

 気にせずオオカミは再度魔法を使おうとするが、無駄だった。今アイツの周りにはオレが使った魔法のざん、要するに魔法の残りカスが周囲に散り、取り巻いている。

 詳細ははぶくが、魔法の残滓がその場に多くの残っていると、再び魔法を使うための魔法の力を自分に集めようとする時に障害となり、魔法の発動を妨害されてしまう。オレがカナイに交信魔法を使おうとして使えなかった状態と一緒だ。この現象を起こすため少し強めに魔法を発動した事もあり、こっちも少し立ち眩みがしたが無理矢理持ち直す。

 先ほどはオオカミの魔法が発動中を妨害されたが、今は残滓がオレとオオカミの2つ分周囲を漂っているから、さっきよりも長い時間魔法が使用出来る様になるハズ。とはいえその時間もそこまで長くないし、時間を掛かれば残滓も自然消滅してまた魔法が使える状態に戻ってしまう。その前に片をつける。

 それに魔法を使えなくなっても相手は巨体の獣だ。しかもまだ正気を失っているから見境が無い。さっきはほぼ勘で動いて躱せたが、今オオカミの挙動に少し恐ろしさを感じている。

 するとオオカミの後方から突如矢が飛んできた。その矢はオオカミに当たりダメージこそ無いが気を散らしている。チャンスと見たオレはオオカミの死角へと周り剣を斬りつける。傷が出来たがやはり毛皮に遮れて浅い。それでも何度も剣を振るい傷を増やしていく。

 オオカミもオレに狙いをつけようとするが、再び矢が飛んできて気が散っている。オオカミの体に徐々に傷が増えていき、オオカミ自身の消耗が見られた。オレは相手の足元がぐらついたのを見計らって近くの木を蹴り上げ、オオカミの上に跳び乗った。暴れられる前に毛を引っ掴み、丁度良い態勢になった瞬間そのまま剣を振り上げ脳天に直撃させた。良い所に入ったのか、オオカミは動きを止め横倒しになった。少し様子を見たが完全に気絶してくれたらしい。ようやく戦闘を終え、オレはオオカミから降りると同時に腰を下ろして顔を上げ息を吐き出した。


 周りの小鬼も状況をやっと理解出来、歓声を上げた。突然の小鬼のしゃがれ声がオレの耳に一気に響いて、肩が少しビクっと跳ねた。驚かせた事をとがめようと思ったが、疲弊を頭いっぱいに実感してきたため止めておいた。そういえばと辺りを見渡すと、一目散にこちらに走り寄って来る姿が見えたのでソイツの到達を待ち、飛び込んで来たソイツを疲弊状態の体で受け止めてやった。


「アサ、今オレは疲れてるからあんま強く掴んでくんなよ?」


 言いはしたがアサガオはわかっているのかいないのか、態度も力加減も変えずオレにしがみ付いたまま嬉しそうに笑っていた。すると小鬼の1匹が喜び合っている群れから外れこちらに来た。


「…今回ハ守仕ニ助ケラレタナ。一応礼ハ言ッテオク。」

「そうかい。まぁこっちも仕事だからな。最後はお前らに助けられたしな。」


 最後、オオカミに射られた矢。ソレがオオカミの気を逸らし攻撃する機会をくれた。矢を撃ったのは今言った通り小鬼共だ。木の上に残りオオカミに攻撃する機会をオレと同じく伺っていた小鬼が今回の勝機をくれたんだから無碍にしない。小鬼を見据えて礼を言った。


「ダガ!お前ニ手ヲ貸スノハ今回ダケダカラナ!」

「次武器持ッテナワバリニ入ッテ来タラ容赦シネェカラナ!」

「ソモソモオ前ガ来タセイデコッチハコイツヲ迎エ討ツ準備シ損ネタンダカラナ!」


 周りの小鬼共も呼応してオレへの罵倒がまた飛んできた。なんでだよ。


     4


 さて、気絶したオオカミだが前足後ろ足どちらも小鬼が用意した蔓製の縄で縛りここから運び出そうとして、何かがオオカミの体に付いているに気付いた。よく見るとソレは枯れた木の根だ。戦ってる最中にどこかでくっ付けたソレが体毛に引っ掛かったままでいたのだろう。種類は見た事無いが気にせず払い落とした。

 そうこうしている内に口を縛ろうとした次の瞬間、オオカミが意識を取り戻し、目を見開き体をじらせた。直ぐに後ろに跳び鞘に納めたばかりの剣の柄を握ったが、様子が先ほど戦っていた時と違い大人しく辺りをキョロキョロを見渡している。コレは見覚えがある。アサガオが移動中によくやる癖だ。好奇心などで音がする物や影を目で追い余所見してるものに近い。そう思考していると、ずっと正気を失い言葉すら発しなかったソイツは初めて口を開いた。


「こごはどごだ!一体何起ぎでらんだ!?」(ここはどこだ。一体何が起きているんだ。)


 …他の動物よりも体が大きいから力も強く、そのため言葉も他の動物よりもハッキリと聞き取れた、ハズだった。何か濁った発音に聞こえてよく聞こえなかった。特に最後の辺り。


「おめらは何だ!?まったぐ記憶さ無ぇすなすてが体のあぢごぢが痛ぇ…まさが自分さ何かするべどすてら悪人だぢが!?」

(お前らは何だ。まったく記憶に無いし何故か体のあちこちが痛い。まさか自分に何かしようとしてる悪人たちか。)


 よく聞くと言ってる意味はわかる、だがやっぱり所々聞き取れなくて何と返事すれば良いか悩む。


「あー…何かする事はもう無いから、とりあえず寝て休んでろ。ってか寝ろ。」


 オレの言葉を聞いて更に混乱したオオカミを余所に口を遠慮なく縛り、強制的に黙らせた後小鬼共に合図を送り持ち上げる様指示した。オレの様に動物の声を聞き取れない小鬼共はオレの様子を見て察したのか、オレには何も言ったり聞いたりせず黙って正気を取り戻したオオカミを予定通り森の外に向けて運び出した。オオカミはワケも分からないまま暴れようとしてるがどちらの足もしっかり縛られているため体を揺らす位しか出来ぬまま、小鬼共に運ばれて行った。

 アサガオにオオカミは何を言っていたかと聞かれたが、正直何と言えばわからずさぁ?としか返事出来なかった。

地面に落ちた木の根はいつの間にか消えてなくなっていた。


 時間が経ち、村の戻る前にカナイに連絡をとったおいたので待機していたカナイの下までやっと縛られたオオカミを運び出せた。ちなみにオオカミは運んでる最中も叫んだり逃げようともがいたりしていたが、記憶に無い戦闘での傷や疲労で今は気絶した様に眠っている。ホントに気絶ではなく寝ているだけだ。


「成る程…こいつが今回の犯人か。見たところこいつは北方に棲む奴だな。」

「あぁやっぱそうか。詠唱も無しに魔法発動してたから、体毛その物が魔法の術識になってたんだな。」


 術識じゅつしきは魔法を発現するための情報の様なものだ。円形の模様で描かれる魔法陣と呼ばれるものは、その術識を可視化したものだ。妖精族は他の種族の目には見えない術識を視認出来、ヒトによって見え方が変わる。ちなみにオレの目には、宙に薄く光って浮かぶ模様や記号の様に見える。

 このオオカミは何らかの要因で皮膚か体毛に術識を持って生まれた種類の動物だ。稀にそういった動物が生まれソイツが群れのリーダーになる事があると聞く。今回はその術識の暴走だろうとカナイと予想をたてた。


「そんなヤツを村に入れるのはどうかと思ったんだが、コイツらがどうしてもカナイや村人に直接見せたいって言ってな。」


 ナワバリにあまりヒトを入れたくない、そもそもナワバリに非戦闘員は入れない。だから小鬼共はわざわざ自分らが運んで事件の犯人であるオオカミを証拠として見せに来た。というのが現状だ。オオカミも今は眠っているし縛られてもいるし、一応安全ではある。アサガオも注意されないのを良い事にオオカミの毛に触ったりしてちょっかいをかけてた。これ以上触る様なら好い加減注意しても良いだろう。

 当然だが村人は距離を開けてこちらを見ていた。正確にはオレの隣にいる小鬼だろう。何やらおずおずした佇まいで明らかに何か言いた気だ。そんな様子村人を目にしてもオレはあえて相手にせずカナイと話を続けた。


 北の土地は大半が雪と氷で閉鎖的な場所となっているせいか、そこに棲む動物や妖精は他の土地の者と比べて異質で魔法の力が強いヤツが多い。北からやってきたこれだけ巨体のオオカミであるなら、あの風の壁による防御の強さは納得出来る。

 そもそもそんな所からどうやってこの西の大陸に渡って来たかは謎だが、暴走状態故に北と西を隔ててる山を無理やり登って来たとなったら相当なものだ。


「なんで暴走したのかはわからん上に、今後同じような事が起こらないとも思えない。対策くらいは立てといた方が良いだろ。」

「…わかった。他の土地守にも同じ様な事が生きてないか聞いておかねばな。」


 今後についてあれこれ喋っていると、黙って立っていた村人が近づいて来た。例の壊された家屋の男性の方だ。女性は男性の後ろからついて来る形で一緒に来た。オオカミの方ばかり見てたアサガオも何事かを察してオレらの方を見た。


「…何だ?」

「その…土地守さま…いえ、守仕さまかどちらか、そちらの小鬼に訳して伝えてほしいのですが。」


 どうやら村人は小鬼と話をしたいらしい。さま付けはいらないとオレが先に言ってから、何と言いたいんだと聞いた。隣でカナイがさま付けくらい良いだろと小声で言ってたが、それ以上は村人にもオレにも何も言わなかった。アサガオはオレに近づき黙ったままオレの服の裾を引っ張った。村人の二人は互いに目配せしてから再びオレに向き直り言った。


「申し訳なかったと。」


 真剣な、最初に小鬼を見つけた時とは違う怯えや怒りの感情も無くハッキリと言った。


「考えてみれば可笑しなところがあったのに、確かめもせずにただ小鬼の声がしたとだけで全て小鬼のせいだと決めつけてしまった。」

「それどころか別の犯人を、それも守仕さまと協力して捕らえて来てくれて。そんな者達に無実の罪を着せて、失礼な事をしたとお伝えください。」


 本音を言うと感心した。ホントに小鬼は犯人ではないのかと疑ってかかるのではという気持ちでいたが、そこまで浅はかでは無いらしい。謝罪を自分から言う村人の姿に小鬼は言葉は通じなくとも何か感じ取ったらしい。伝えてほしいと言われたので言葉を訳して伝えてやると、今度は小鬼共が目配せをし合い、オレや村人の方を見た。


「フッ…フン!今更謝罪ノ言葉ナド言ッテ許サレルト思ウナヨ!?」

「別ニ言オウガ言ウマイガオ前ラモ俺ラモコレカラモ敵対スルノニ変ワリナイノダカラナ!」


「何見栄張ってんだお前ら。」

「ウルセー!」

「サビ頭ハ黙ッテロー!」

「おう誰だ?サビ頭っつったのは、前出ろ。」


 何故かオレと小鬼の喧嘩が始まり、小鬼の言葉がわからない村人はまた唖然となって見ていて意味の無い光景をただ見ているしかなかった。カナイはいつもの事だと呆れて無視し村人に修理についての算段を話し出した。

 何も言わずいたアサガオは、場の空気は変わり気が緩むと喧嘩をするオレと小鬼共の周りを走り回りきゃあきゃあと騒ぎ出した。何してんだコレ。


 結局オオカミは傷の手当てが終わり次第元の棲みかへと戻される事となった。記憶は無いものの村に侵入し家を壊した事に反省の色を見せていたので村人もそれ以上咎める事も無かった。案外お人よしな住民なんだなと言ったら、カナイにお前が言うなと言われた。解せない。

 そもそも村で家が壊されただけで済んだのは、住民には悪いが幸いな事だ。豊かな自然に囲まれ動物や他種族と共生するこの土地で事件が起きないワケが無い。多少は被害は出たものの結局は和解という形で決着がついた今回の事件は、周りを飛ぶ鳥達のちょっとした噂話となって、またオレの眠りを妨げる一因になったとまた溜息が出た。


「結局オレが行く意味あったのか?やっぱカナイが行っても良かったろ。」

「行く前に言ったろ、お前が行くのに意味があるんだ。私が行って解決しても、結局土地守がいたから上手くいったと結論付けられるだろ?」

「…村人代表としてオレを起用したと?」

「私は土地守で、他の住民らとは一線を引く存在。一方守仕のお前は村人と接する機会も多く私よりも一番距離が近い。だからこそお前に村人は自分の姿を重ね物事を考える事が出来る。今回だってお前が村を出た後、随分冷静になっていたんだぞ。」

「結局はアンタの手のひらの上ってか?結局アンタの言った積極云々は何だったんだよ。」

「そう言うな。だってお前、私が言わなくても黙って一人で行って犯人捜すつもりだったんだろ?」


 その通りだ。結局行けと言われて動いたが、言われなかった時は勝手に犯人を捜して捕らえた後、晒して『コイツが犯人だ』とでも書いた立札でもかけて置くつもりだった。

 オレの思惑云々はさて置くとして、やっぱりカナイの思惑通りで、手を額に当て溜息を吐いた。


「相変わらず目立つのが嫌いな奴だな。それにまた眉間にしわ寄せてるし、もう少し笑いでもすれば気も楽になろうが。」

「誰のせいだよ誰の。後、嬉しくも楽しくも無ぇのに笑えるワケ無ぇだろ。」

「やれやれ、始終無愛想で目つき悪いお前を見て育ったアサガオは、どうしてあんなに素直な良い子なんだろうな?」

「…素直な良い子は、留守番が出来てヒトの後をコッソリ着いて行ったりしてねぇと思うが。」

「お前と比べてだよ。本当にこの村最大の謎だよ、お前たち二人は。」


 いつの間にかオレとアサガオが村の謎扱いになっていて、理不尽で今から旅で戻りたい気分になった。オレは今日何度目になるかわからない溜息を吐いた。



余談


「そもそも、なんでオレはあそこまで小鬼に嫌悪されてんだ?」

「そりゃあ戦いたくないとか言っときながら小鬼に生傷をこしらえてりゃ嫌われもするだろ。」

「あっちが先に仕掛けて来たんだっつうに。ってかアンタはどうなんだよ。」

「私は別に何もしてないぞ。私は望んで話し合いを…」

「テッテメェカナイ!今度ハ何シニ来タンダ!血祭カ、公開処刑カ!」

「俺達ニ出セル物ハ何モ無ェ!ソレデモオ前ハコレ以上俺達カラ奪ウト言ウノカ!」

「でぇい!良いからお前らは黙ってろ!今度ははりつけにすんぞぉ!」


「…何してんだよホント。」

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