第35話 配信見学
「なんだか今日はあっという間だったな」
「きっとお師匠さんとのお別れがそう感じさせたのよ」
師匠との模擬戦は引き分けに終わり、俺が悔しがっている間にも、師匠はさっさとどこかへ行ってしまった。
彼にとってのお別れの挨拶は俺との模擬戦だったらしい。
その後は明日の配信に備え、ポピンの葉やパルズ草を採取して終わった。
「もうすぐでキラちゃんの配信が始まるわね」
今はと言うと、家でのやる事を済ませてホタルと一緒にキラさんの配信を見ようと言う事になっている。
お邪魔させてもらっているホタルのフレンドルームは、バーチャル部室に比べて質素、と言うかほとんど何もない。
デフォルトの白い空間に、今日のために用意されたであろうこれまた無料で手に入る丸椅子が二脚置かれており、そこに座っている。
不思議な事に、座り心地はまあまあ良い。
「あ、始まった」
20時を少し過ぎた頃、準備中の画面から切り替わり、R2Oの画面が映る。
『待たせてすまない!』
キラさんの声がしたかと思えば、カメラの視点が切り替わり、キラさんのアバターが画面中央に現れる。
身に付けている装備は青と白を基調としたデザインで、シルバーの胸当てをしている。
『毎度お馴染み、キラだ。今日もR2Oをプレイしていくぞ!』
普段と配信時で性格が違う人がいると聞いた事があるが、キラさんの配信は同好会の延長線上にあるように感じられた。
「コメントも凄い数流れてるわね」
「おお、ホントだ」
コメント欄では配信を楽しみにしていた視聴者によるコメントがぐんぐん流れていく。
読もうとすればすぐに視界から消え、一つのコメントを取り上げるのすらままならない。
「……コメントが読めませぇん」
「ふふ、慣れるしかないわよ」
『今日はゲストとしてトネリさんが来てくれたんだ! 自己紹介を頼む』
『トネリだよ〜』
ゲストという事もありコメントがさらに賑わう。
「トネリさんってどなた?」
「R2Oの配信者よ。トップの剣士として有名なの。私も何度か配信を見た事があるわ」
「へぇ〜」
装備はどちらかと言うと騎士っぽい。
甲冑を身にまとい、腰に剣を下げて堂々とした姿勢で立っている。そんな見た目とは裏腹に、力の抜けたゆるふわな声をしている。
「声可愛いな……」
「男の人らしいのだけれど、兜の下は配信で映った事がないらしいわ」
「ミステリアスだ……」
見た目と声のギャップや、謎な部分がある事も人気の秘訣なんだろうな。
その後、二人の配信はギルドで依頼を受けそれを達成するところまでダレる時間がないまま進んで行った。
移動時間はコメントを交えたキラさんとトネリさんの会話で間を繋ぎ、戦闘時に視点を効果的な配置に置き、臨場感のある演出をしていた。
「いやー、面白かった」
「でしょ?」
何故か誇らしげなホタル。
「でも出来る気しないなぁ。それこそカメラの配置とかさ」
「それは私の役目だから気にしなくて良いのよ?」
「なんか、負担を押し付けちゃってるよな。ごめん……」
「何か勘違いしてるみたいだけど、負担は半々よ。私は配信、ドーンくんはR2O」
ホタルの方を向くと、とても楽しそうにしている。
「もしあなたがあの森からスタートしなかったら? もしお師匠さんと出会ってなかったら? ヴォルちゃんを助けなかったら?」
「……」
「動画を作ろうなんて、配信をしようだなんてならなかったわ。あなたが負担だと思ってないように、私も負担だと思ってないわ」
「うん、ありがと。明日はデビュー戦だ」
「一心同体の力、見せつけましょう」
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