第28話 ゲーム、ねぇ……




…………

………

……


「良い匂いだな」


「あ、来た!」


 ちょうど最後のピザが焼き終わったタイミングで、兄貴がリビングに入って来た。時計を見れば、確かに1時間経っている。


「こっちがトマトとベーコンで、こっちがマヨコーン。これが冷蔵庫に入ってた余り物ピザで、オーブンの中にパイナップル乗せピザも入ってる」


「パイナップルは夏樹しか食べねぇだろ」


「独り占め〜」


 テーブルに三枚のピザを置き、それぞれ椅子に座る。ここ最近は夏樹と二人きりの食卓だったので、一人増えただけでも賑やかだ。


「それでどうだった?」


「あー、春馬の言う通り落とされそうになったよ」


「やっぱ1時間がフラグなんだ」


「ただその後『ゆっくり選べと言ったのは貴女だ。時間制限があるなら初めに言うべきではないですか』的な事を言った。まあほぼ暴論だな」


 兄貴はトマトとベーコンのピザを一切れ、自分のお皿に乗せたので、タバスコを渡す。


「それでどうなったの?」


「……ちゃんと話を聞いてくれた」


「え、優し。なんだ、じゃあ俺もちゃんと言えば良かったのかなぁ」


「お兄ちゃん、多分驚くとこそこじゃない」


「え?」


「プログラムとか、そっち方面には詳しくないが、そんな器用に受け答えが出来るもんなのか?」


「つまり?」


「何か大まかな台本を渡された役者みたいな印象を受けたんだ。機械的じゃない、人間みたいだった」


 そう言ってピザを一口食べた。チーズが伸び、糸状になったそれを、落とさないように口へ入れる。


「役者を雇ってるって事?」


「それはわからない。俺が思いついたのはAIだな。自律的思考を持たせた、ゲームの世界を生きるキャラクター、みたいな?」


 言われてみれば、プログラム技術が発展したとは言っても、師匠のような滑らかな受け答えだったり、モンスターのリアリティ溢れる挙動には疑問を覚える。


 自ら学習して成長するAIならそれらも可能と言える、気がする。


 どう足掻いても確証はない。


 気がするだけだ。


 兄貴も俺もゲーム開発に関して素人だし、開発者が明言でもしない限りその辺はずっとモヤモヤしそうだな。


「春馬は何事においても全力になれる。ゲームでも自分の感情に忠実なのは、お前の可愛いとこだな」


「うん?」


「ゲームをもう一つの世界だと思うなってことだ。杞憂だとは思うが、一番大切なのはゲームじゃなくてこの現実。色んな経験をして、成長してくれ」


「心配いらないよ、もう高校生だ子どもじゃない」


「それはガキが言うセリフだ。俺も高校生の時に言ってた」


 兄貴が笑ってそう言う。夏樹を見ると、蚊帳の外な事には触れず、美味しそうにピザを頬張っている。


 視線の先にはオーブンの中のパイナップルピザがある。


「そろそろパイナップルピザ出す?」


「うん!」


「俺はいらないからな……」


「デザート風のも作ったから、良かったらそっちは食べてよ」


「おお、流石俺の弟。出来る奴だなぁ」


…………

………

……


「……って事があったんだよ」


『なるほど、楽しかったですか?』


 翌日、土曜日と言うこともあって、日中からR2Oにログインする。


 弟は図書館へ勉強をしに行き、兄貴はヤッさんの家に挨拶に行った。


「久しぶりに兄弟三人でゲームしたよ」


『兄弟、羨ましいわ……』


「一人っ子?」


『ええ』


 オンボロ小屋の中で、ポピンを齧りながら他愛のない会話を続ける。膝の上ではヴォルが小さな寝息をたてていた。


『今日は何をするの?』


「うーん、行ったことのないとこを探索しようかなって」


 今日も師匠と修行するつもりだったが、どうやら野暮用があるらしく、数日この森を留守にするようだ。


 その間に色々と使えそうな物を探そう。


『どこに向かうつもり?』


「師匠と出会った森の反対側に行ってみようかな」


 今思えば師匠と出会えたのが奇跡すぎる。もし会えずにこの森を彷徨っていたらもう十回以上は死んでる自信があるな。


 ステータスのLUKにはまだポイントを振っていないが、これがリアルLUKと言うやつか……


「ヴォル〜、散歩がてら探索するぞ」


「わうっ!」


 小屋の扉を開けて、いつもとは別の方角へと足を踏み出した。


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