第20話 マナロックヴォルフ
「師匠」
「おお、来たか。今日は仕掛けた罠を見に行くぞ」
「この前のですか?」
「ああ」
師匠との修行の中で、効果的な罠の仕掛け方について教えてもらった。ワイヤートラップはロープやツルを使い、獲物の足を絡めるものだ。
この前森の中に仕掛けた罠が、果たして機能していたのかどうかの確認も含めているのだろう。ここで獲物を捕まえられていれば、お褒めの言葉をいただけるかもしれない。
『罠にかかってると良いですね』
ホタルの言葉に頷き、師匠に続いて森の中に入っていく。木の根に足を取られないよう足場を選び、駆け抜けていく。
「今回の目的は捕食者の間引きだ。小さな魔獣が罠にかからないよう、適切な罠の大きさを教えたな」
「はい。もし小さいモンスターがかかってたらどうします?」
「逃がして良い。もし動けないほどに弱っていたら殺してやれ。それが責任だ」
「……わかりました」
『なんだか生々しいですね……』
ホタルの言う通り、R2Oはゲーム内の至る所が生々しい。モンスターを倒す際も、生き物を殺している感覚がちゃんとする。ゲームとしてそれはどうなんだ?
「まずはここか。確認して来い」
「はい」
師匠は辺りの見張りをするため、木を登り、高所を取った。罠にはグリーンリザードを捕食するウィップパンサーを捕らえられていたら成功。
ウィップパンサーは豹のような身体に、長く太い2本の髭をムチのように使うモンスターだ。師匠の案内で森に入った時、遠くから見たことがある。
『え……』
「ウィップパンサーは罠にかかってるけど、なにこの子」
罠にはしっかりとウィップパンサーがかかっていた。かかっていたが、ウィップパンサーはすでに息絶えており、その肉を食べていたのか、子犬のような動物がそこにいる。
「鑑定!」
『ナイス鑑定』
【マナロックヴォルフ】
狼型のモンスター。体内のマナを制御することにより、身体の大きさを変化させる事の出来る。
「モンスターだ……」
『弱っているのかしら』
どうやらこのマナロックヴォルフは怪我をしているらしく、罠にかかったウィップパンサーを食べて回復するまで休憩していたようだ。
見ると腹から血が流れており、息も荒い。警戒して俺の事を睨みつけているが、脅威を感じない。
「おい、遅いぞ」
「あ、すみません。ウィップパンサーはかかってたんですけど、この子が……」
師匠は弱っているマナロックヴォルフを見ると、表情を変えずにウィップパンサーを解体し始める。
「おぬしが見つけたんだろ。好きにしろ」
「……!」
「妖精の泉は回復効果が期待できる」
「ありがとうございます!」
『ヴォルちゃんを連れて行きましょう!』
「ヴォルちゃん?」
ホタルはすでに名前をつけたらしく、俺はヴォルを抱えて素早く森を移動する。お腹の傷を刺激しないよう優しく、振動が極力伝わらないよう駆けていく。
「ガウゥッ!」
「ってて……」
『ヴォルちゃん暴れないで、助けてあげたいのよ』
ヴォルは俺の腕に噛みついてくる。鋭い牙が肉に食い込み、たらりと血が滴り落ちたが、俺のHPが減っていないのを見ると、この血はヴォルのものなのか。
「スイ、《とびら》を開けてくれ!」
「フィ!?」
霧が立ち込めてきたので、スイに呼びかける。すぐに来てくれたので助かった。驚いた様子だが、しっかり泉までの道を開いてくれた。
《妖精の園》に入ると、フェアリーたちが心配そうに飛び回っている。
ブーツを脱いで泉に入ると、隠者のローブが濡れるのを無視して、暴れるヴォルにマナの豊富な水を浴びせる。
「ガウッ、ガゥア……」
「大丈夫だから、落ち着いてくれ」
泉の水が効いてきたのか、ヴォルが少しずつ大人しくなってくれた。お腹の傷も塞がったのか、血はもう流れていない。
「よかった、大丈夫みたいだな」
『良かったですねドーンくん』
「ああ、焦ったよ……」
ヴォルは元気になったのか、妖精の園をキョロキョロと眺めている。確かに、沢山のキラキラしたフェアリーが飛んでるのは気になるよね。
喉が渇いていたのか、ヴォルは泉の水をゴクゴクと飲んでいる。そこにスイが飛んで来たかと思えば、何か話しかけ始めた。
「フィ!」
「ガゥア〜、ガゥ!」
「どうしたんだ?」
『ドーンくん、困ったら鑑定です」
あ、そっか。鑑定鑑定っと。
【マナロックヴォルフ:友好 調教可能】
「え、調教……?」
『たしか調教スキルがあったはず……』
スキル一覧から【調教】を探して……うわっ、5SPって【隠密】と同じレアリティの高さなのか。でも良かった、俺にはSPが有り余ってるから。
【調教を獲得しました】
ヴォルに視点を合わせ、調教スキルを使ってみる。首を傾げて俺のことを見つめている姿はとても愛らしい。
【マナロックヴォルフをテイムしますか?】
そんなのもちろん……
「【YES】だ……!」
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