眠る街灯
日野唯我
眠る街灯
男は、いつものように布団に入り、目を閉じた。特に大袈裟なことではなく、きっと読者も経験したことがあるだろう。よって、これがどういう現象化を詳細に描写する必要は無いと考えられるので、ここでは省略させていただく。
普段であれば、目を閉じてから暫くの間考え事をし、その段階の途中で意識が朦朧として…
と、いうようにして我々は眠りに落ちていくのだが、この日の男は違った。目をつぶっても眠ることが出来ない。このような経験をしたことがある人もいるのではないだろうか。男も同じように考えた。
これまでもそのようにして眠りにつくことが出来なかった日というのは多々あった。子供の頃、次の日が楽しみで眠れなかった夜九時。学生の頃、好きな相手を思い浮かべて眠れなかった夜十二時。そして、初仕事の緊張のあまり眠れなかった夜二時。思い返せば、夜はまるで人生の階段を背後から照らす街灯のようなものだ。懐かしさを感じながら、男は徹夜した。
しかし次の日も、男は眠ることが出来なかった。そして次の日も、また次の日も。眠気はあるのにもかかわらず眠れない自分の身体に、男はどこか違和感を感じるようになった。
人間が自分に違和感を感じた時にすることはただ二つだ。一つ目は素直に病院へ足を運ぶこと。身体のプロは、自分よりも自分のことをよく知っている。そのことを素直に受け入れて医師に相談する。
もう一つは、そのことを頑なに受け入れずに自分だけを信じ、かえって容体を悪化させる原因を作ることだ。こういう者に限って容体が悪化してから医者に行き、手遅れです、と言われて憤るものだ。男は後者だった。最も男の場合、医者に通っても同じ運命だったのだが…。
眠れなくなって数か月後、男の身体はボロボロになっていた。睡眠不足による朦朧とした意識。病気のせいなのか、気が狂っていく。全身は意識せずとも震え、立ち上がることすら困難になった。眠れなくなってから約一年後、遂に男は息絶えた。街灯は消え、人生の階段は闇に包まれて誰の目にも映らなくなった。
眠る街灯 日野唯我 @revolution821480
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