王女リジーナ、選択の時。
小野寺かける
プロローグ
暗く、寒く、狭い場所で、それは寂しげに目を伏せた。
誰でもいいから話し相手になってほしい。誰でもいいからここから出してほしい。誰でもいいから――
しかし、思えば思うほど空しくなるだけだ。
願っても願っても、自分の想いは叶わない。どれだけ声を張り上げても、その叫びが届くことはない。たとえ聞こえても、無視されてしまうだろう。
かつては『英雄』と呼ばれた人物と共に、国を守るために戦った。その人が居なくなってからは、自由気ままに空を舞うこともあった。
あの頃は何が幸せで、何が楽しくて、何が悲しいかなんて分からなかった。
仲良くなった者たちも、一つ、また一つと次々に生を終えていく。初めは淋しさに涙を流したが、いつしか慣れ、何とも思わないようになってしまった。
――自分がこんな場所にいるのは、その罰なのかもしれない。
弱々しく自嘲気味に笑うが、やがてその笑みも薄れていく。
もう何年、他人の声を聞いていないだろう。誰かの温もりに触れていないだろう。
どこか遠くへ行きたくても、見えない鎖が自分を縛る。
――考えるだけ無駄だ。
希望を持っても、それはすぐ絶望に変わる。いつまで続くのかも分からない苦痛に身を委ねるしかないのだ。
その時だった。
無限に続くかと思われた闇の世界に、一筋の光が差した。
それはまるで水中に差し込んだようにゆらゆらと揺れ、時折天色に煌めいた。
――いつまでそんなところにいるつもりだ。お前らしくもない。
かつての『英雄』の苦笑が、脳裏を掠めたような気がした。
無意識に、足が動いた。一歩ずつゆっくりと、光に向かっていく。
懐かしく温かい、その光へ。
また、あの光に触れたい――本能的に手を伸ばした直後。
それの世界は、一変した。
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