【急募】鈴木さんをおもしれー女にプロデュースする方法

来生 直紀

女子生徒A 鈴木さんか佐藤さん

「あのね、押尾おしおくん……。

 わたし、おもしれー女になりたいんだ」


 放課後の教室で、彼女――鈴木さんは言った。

 ……いや、佐藤さんだったか? 田中さんだったような気もする。

 同じクラスメイトの女子であることは間違いないのだが、いまいち自信が持てなかった。それくらいには印象が薄く、もちろん会話した記憶もない。


 性格:普通

 容姿:普通

 成績:普通

 運動神経:普通

 家柄:普通

 趣味:なし

 特技:なし 


 みたいな女子生徒だった。実際のところは知らんけど。


「さ……鈴木さん……」

「うん。鈴木遥すずきはるかだよ」


 よかった、鈴木さんで合っていた。

 ちょっとほっとする。


 それにしても、彼女はさっきなんて言った?

 それに、どうしてわざわざ、放課後の教室で俺に話しかけてきたのだろうか?


「あの……もう一回言ってもらっていいかな?」

「うん、わたしね、おもしれー女になりたいんだ」

「ああ……なるほど」

「うんうん」


 こいつ、頭大丈夫か?

 

 とは思ったが、さすがにそんなことを聞くのは失礼すぎる。

 俺は自分を落ち着かせて質問を口にすることにした。


「なんで……そうなりたいの?

 っていうか……なんで俺に、そんなこと言うわけ?」

「あ、それはね。昼休み、押尾くんが友達と話してるの聞こえちゃって」

「話? どんな」

「ほら、YouTubeがどうとか……」

「ああ……」


 そういえば、確かに今日は最近推しのVの話で盛り上がっていた気がする。

 もっともクラスでも陰のカーストに属する俺は、べつに大声で話していたわけではなく、ちゃんと分をわきまえて教室の端っこで会話していたのだが。

 まさか聞かれていたとは。


「押尾くん、そういうの詳しそうだなって思って。

 なんだっけ……誰かのこと、おもしれー女、とか言ってたでしょ?

 あいつの良さをわかってんのは俺だけだしな、とか」

「………………言ってたかな」

「言ってたよ」


 なんだか急に顔が熱くなってきた。

 まあ、べつに俺がどこでなにを言おうと、鈴木さんにとやかく言われる筋合いはない。


「あの、鈴木さん……」

「う、うん」

「具体的には……どうしたいの?」

「なにが?」

「だから……おもしれー女になるっていうのは……」

「あ、うん。つまり、配信とか」

「ああ……なるほど」


 少しずつ、話が見え始めた。

 確かに、俺の趣味はYouTube鑑賞だ。いまどきの高校生らしいといっていい。

 

 つまり、佐藤さんは、じゃなかった鈴木さんは、昼休みの俺の話を聞いて、YouTubeや配信者に詳しい俺に、そのアドバイスをしてほしい、ということなのかもしれない。


「それでね、天下をとりたいんだ」

「え、なに?」

「天下だよ。つまり、一番になりたいってこと」


 天下、と聞いたら、それは天下一武道会か天下一品しか連想できなかった俺は、彼女のその大胆な発言に面食らった。


「どうせやるなら、やっぱりはるか高みを目指したいな、って」


 意外だった。

 こんな、モブというか、一般女子生徒Aというか、地味というか、そんな鈴木さんが、まさかその内側にそこまでの強い情熱を秘めていたなんて。

 やはり、人は見た目に寄らないものだ、と俺は内心猛省した。


 同時に、腹の底から沸きあがるものがあった。

 これはもしかしたら、伝説の始まりなのかもしれない。

 

「わかった。俺が佐藤さんを、おもしれー女にしてやんよ」

「鈴木だよ」

「ああ、ごめん鈴木さん」

「でもありがとう。よろしくね、押尾くん」

「で、じゃあ目標はYouTuberを目指すってことでいいのかな?

 あ、それともV?

 だったら、好きなゲームジャンルとか、得意なものとかは……」

「え、なんのこと?」

「え?」

 

 なぜか鈴木さんは目をぱちくりさせて俺を見つめていた。


「わたし、YouTubeとかまったく見ないんだ。

 え、でも大丈夫だよね……? 天下くらい、さくっととれるよね?」


 くらっ、と激しい目眩がした。


 おまえのその自信は、いったいどこから沸いてくるのだ。

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