第37話 確信


「ウィル様」

「なんだ?」

「早朝に失礼かと思いましたが、ご報告がございます」


 早朝。俺は学院へ向かう準備をしている途中、アイシアがそう言ってきた。フレッドは朝食の準備をしており、今この場にはいない。


「レル=アルフォードの件についてです」

「何か進展があったのか?」

「はい。どうやら、進めている事業の中で不審なものがあるようで」

「具体的には?」

「どうやら薬品を取り扱う事業を立ち上げているのですが、少々金銭の動きに違和感があります」

「ふむ……薬品の事業か。それに不審な金の動き……ドラッグの件と関係無しと思うのが無理というものだな」

「はい。それと、レル=アルフォードはどうやら裏の魔法使いとも繋がっているかと。彼の経費計上はやけに接待費が多いので調べてみましたが、可能性は高いでしょう」



 どうやら、ただの清廉潔白な人間ではないことが明らかになってきたな。まさか、ケイン関連からここまで繋がってくるとは思っていなかったが。


 俺が複数の役割をこなしていることも、無意味ではないようだなと改めて思った。


「彼が極秘裏に開く食事会に複数人の魔法使いが招待されていますが、どれも協会所属の魔法使いではありませんでした」

「……分かった。まぁ限りなく、黒に近いな」

「はい。フロント企業として薬品会社を使い、裏ではドラッグの生成をしているのだと思われます」

「アイシア。感謝する。やはり、お前は優秀なメイドだよ」

「恐れ多いお言葉です。メイドたるもの、この程度は当然です」


 恭しく頭を下げるアイシアだが、本当に優秀で助かるな。ただし、それに甘えてばかりの俺ではない。ここからどのようにして、レル=アルフォードに迫っていくのか。


 なんとなくすでに作戦は出来上がっている。あとはそれを実行するだけだが、俺一人では決してそれをすることはできない。


 これはあいつにも相談することになるな。


 そして俺は学院へと向かい、昼休みにいつもの屋上に──ルイスのことを呼び出した。


「あの。お話って」

「ドラッグの件だ」


 もちろんすでに魔法結界は張ってある。防音だけではなく、人払いの効果も追加してあるので漏れることはないだろう。


「えっ。何か進展があったんですか?」

「あぁ。おそらく、レル=アルフォードという貴族が黒幕だ」


 俺は得た情報をルイスにも共有する。彼女はその話を真剣な顔で聞いていた。同時に、自分がやるべき役割も察したようだ。


「僕は表舞台で何かすればいいんですね?」

「あぁ。おそらく、相手は精鋭の野良の魔法使いを用意している。そいつとの戦闘を任せたい」

「野良……ですか」

「協会に所属していない魔法使いのことだ。非合法な仕事をしているものが多く、暗殺などもしている魔法使いもいる」

「……暗殺」


 流石にここまで言及する必要はなかったか? だが、相手は非合法なことに手を染めているので、殺人に手を染めている可能性もゼロではない。レル=アルフォードの取り巻きにいる魔法使いが、普通の魔法使いとは思えないからな。


「無理なら無理と言ってくれ」

「いいえ。私がやります」


 彼女は覚悟の決まった目で俺のことを見つめてくる。


「大丈夫か?」

「……ウィルくんのお手伝いをしたいという思いはあります。それと同時に、違法なものが広まって困る人がいるのは、本当に良くないです。私には幸運にも才能があります。けれど、その才能には責任が伴う。誰にでもできることじゃない。私しかできないのなら、私がやります。それが私という魔法使いの役割だと思います」

「そうだな。俺もそう思うよ」


 才能には責任が伴う、か。ルイスもどうやら魔法使いとしてではなく、人間としても成長しつつあるようだな。才能とは天から恵まれたものだ。それをどう活かすかは本人次第だからな。


「あとその……」


 彼女は急に顔を伏せて、俺のことをチラッと目線で窺ってくる。


「どうした?」

「もうすぐ夏休みですよね」

「そうだな。この一件が終われば、すぐに夏休みに入るだろう」

「その……また一緒に、お買い物とかどうですか……?」

「それぐらいなら、構わないが」

「本当ですか……!? 楽しみにしていますね!」


 打って変わって、ルイスはとても嬉しそうにそう言った。なるほど。今回の件を成功させた報酬として、俺に何か物品を与えて欲しいということか。それならば、お安い御用だ。構成員に報酬を渡すのも、上の務めだからな。


「ふ……ルイスも以外と現金なところがあるな」

「? 現金なところ……?」

 

 そんなやりとりをしつつ、ルイスには作戦の概要を伝えた。あくまで彼女には表舞台での活躍を用意してある。そして裏では──俺が暗躍する予定だ。


「サリナ。いるんだろう」

「あら。やっぱり、気がついていたのね」


 気配を消していたサリナの名前を呼ぶ。彼女は俺とルイスの会話を聞いていたは俺も気がついていた。しかし、なぜ隠れていたのかは謎だが。


「なんで隠れていたんだ?」

「そっ、それは……だって。まさかルイスくんが……その……」

「あぁ」


 すでにルイスが女性だということはサリナに共有されている。もう同じ組織の人間だからな。その際サリナは、「えっ……同性美形の絡みじゃなくて、異性……? う。で、でも私はノーマルでもいけるはず……! いや待て……これはでも、ある種特殊なプレイなのでは?」と意味不明なことを言っていた。


 もしかしてその影響なのか?


「こほん。まぁ、私のことはいいわ。それで仕掛けるのね」

「あぁ。サリナにはレル=アルフォードに接触して欲しい。概要は──」


 俺はサリナにも作戦を伝える。すると彼女はすぐに理解して、首肯してくれた。


「分かったわ。そっちは私たちに任せて。あなたは、彼と対峙するんでしょう?」

「あぁ。任せておけ」

「ふふ。流石に心配はしていないわ。あなたほどの実力者なら、問題はないでしょう。じゃ、また当日に」


 無事に作戦を伝えることはできた。そして俺たちはついに、レル=アルフォード相対することになるのだった。

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