第4話 始まりの追憶 1

 おはようございます、エリンシアです。

 異世界転生をしてきた5歳の女の子……あ、元男です。


 未知に囲まれ、男から女になって、この数年はとにかく大変だった。


 ごちゃごちゃ言ったってどうしようも無いけどね。

 成長しながら少しずつ受け入れていけてるから良いさ。



 まぁ、自己紹介は置いといて……この世界は所謂ファンタジーだ。


 だけどよくある中世的な世界じゃなくて、普通に発展してる。

 魔法を土台にしていて、便利さで言えばそこまで前世に劣らない……かも?


 あと違う点と言えばやっぱり人かな。

 その辺に色んな種族がごちゃ混ぜに暮らしてて、こういう世界お約束の種族差別も殆ど無いらしい。


 ちなみに俺はエルフ。

 白い髪と肌で、青緑色の目をしてる。髪は母から、目は父からかな。




 とにかく不思議な事に溢れた世界でね。

 好奇心のまま手当たり次第に動く毎日だ。


 ただ、なんか知らないけど生まれてから1年くらい死にかけてたらしくて……その所為か虚弱なのが困ったもの。


 いくら幼児と言っても、成長が遅くて体力が無いし、すぐに体調を崩しちゃう。

 色んな事を沢山したいのにな。



 当然、一番の興味は魔法。

 この世界の人達はマナという物を呼吸や食事で取り込んで魔力を生成する。

 その魔力を使って色んな事をするのが魔法。


 魔力はとにかく重要で、体から完全に無くなるのは死に直結する。

 だから魔力を使う事は多少なりとも体に負担がかかって疲労するんだ。


 でもって虚弱だとその負担が大きいかもしれないらしく、俺は一切教えてもらえてない。



 理由は分かるけど、気持ちは抑えきれない。

 だからお母さんに何度目かの直談判――今回は子供らしくワガママを言ってひたすら頼み込んだ。


 そうしてようやく許可が下りた。

 心配する両親の気持ちを無視した罪悪感が凄いけど。



 でもそんな罪悪感はお昼ご飯と一緒に無理矢理飲み込んで、今から魔法の授業だ。

 期待に胸膨らませて、早く早くとお母さんの手を引いて庭に向かう。


 ああ、夢の魔法……ワクワクが止まらない!






 ――なんて思ってたんだけどなぁ……はぁ。

 そんなワクワクは早々に吹っ飛んでしまった。



 順を追って説明しよう。

 まず最初にやったのは、適性のある属性を調べるという事だった。よくあるやつ。


 魔法には『火、水、風、地、雷、氷、癒』の7属性がある。

 誰でも最低限は一通り扱う事が出来て、個人の適性によって1つに特化する。


 で、結果として俺にはその適性が存在しなかった。なんで。


 せっかくファンタジー世界に転生したのに、これじゃ面白くない。



 属性魔法の練習が終わった所で、悔しさと悲しみを抱えて逃げる様に部屋に戻ってきた。

 なんにせよ魔法が使えた事は純粋に嬉しいんだけどね。


 こんな例は無いらしいし、これは前世の影響で普通じゃないのかな……なんて、グスグスと鼻を鳴らしてベッドの上で膝を抱えてる。




「シア、仕方ないとは言え落ち込んでばかりいないで授業の続きよ」


 と、お母さんが来てまた魔法の授業に連れてかれた。

 まだ終わってなかったらしい。


 別に興味を無くした訳じゃないから大人しく手を引かれて行く。



「魔力には他にも大事な使い方があるわ。こっちはコツを掴むまで難しいからね」


 家の庭に出て授業再開。

 まだちょっと引き摺ってはいるけど、気持ちを切り替えて話を聞こう。


「それって属性魔法とはなんか違うの?」


「ええ、さっきは魔力を属性という其々のエネルギーに変えたでしょう? だから分かりやすく火や水を出すなんて現象が起こせる」


 そう言うと実際に火を掌に出して見せた。

 この世界の魔法は呪文や詠唱なんて無くて、手足の様に意思のまま扱うらしい。


「でも今から教えるのは魔力を魔力のまま使うの。魔力は基本的に見えないから、最初はイメージが難しいのよね」


 て事は属性がダメでも、普通に使えるかもしれない。

 これは救いが見えてきたかも。


「魔力を全身に漲らせて身体能力の強化、体を覆って身を守る魔力障壁。同じく武器を魔力で覆う魔装。この3つは物凄く大事なのよ」


 なるほどなるほど。

 魔物なんていう化け物が居るんだし、本当に重要そうだ。


 もし戦うなら魔法をドカーンとやりたいけど、それが出来ないなら身体能力を上げて物理で行けばいいのか?

 いや、好んで戦いたいかって言われるとそんな事も無いんだけど……やっぱりこう、ね?


「身体強化は名前の通りだけど……体に負担が掛かるからシアにはあまり良くないかも」


「え゛っ…!?」


 ここでも足を引っ張る虚弱。

 なんなんだ俺は。どうすりゃいいんだ。


「あぁ、泣かないで……よしよし」


 頭を撫でられた。泣いてないし。ちょっと涙目になっただけだし。


「強化については明日やりましょ。実際に使ってみなきゃ分からないからね」


「ん」


 まぁ確かに、悲観するのはまだ早いよね。

 儚い希望な気がするけど……


「次は魔力障壁。命を守る為には一番大事な事よ。魔力の鎧……透明な服を着る感じかなぁ?」


「透明……見えない物で守るって怖いね」


「確かにそう言われると怖いけど、やってみれば感覚で分かるとしか言えないの……ごめんねー」


 感覚だけとは難しい事を仰る。


 まぁともかく、障壁の練習から始めよう。

 魔装は障壁の応用だから後回しでいいらしい。






 そうして1時間くらい経っただろうか。


 慣れるどころか、かなり疲れて息まで上がってしまった。

 これが魔力を消費した負担なんだな。


 たったこれだけで……なかなかキツイ。


「うぅ……魔力って増やせる?」


「使えば増えるわ。魔力が回復する時に少しだけ多くなるの。段々増えなくなるけどね」


 筋トレかい。まぁとにかくひたすら練習してればいいのか。


「じゃあ魔力くらいは……ちょっと無理してでもどうにかしたい……んだけど……」


 魔法が当たり前の世界で、最低限の事しか出来ないってのは嫌だ。

 かと言ってリスクを負って心配かけるのも嫌だ。


 だから後ろめたくてもにょもにょしてしまう。


「そうね……魔力が多ければ負担は減るから、増やす事はお母さんも賛成よ」


 どうやら使う事じゃなく、減った状態が問題らしい。

 元が増えれば相対的に消費と負担が軽くなる訳か。


「でも、その為に無茶するのはダメ。シアは頭が良いから……分かってくれるかな?」


 両手で俺の頬を挟んで、より真剣な表情で続ける。

 心配してくれているのが伝わるから、思わず目を伏せてしまった。



「ん……分かった……ワガママ言ってごめんなさい……」


 というか、適性が無くて悔しいからって焦る必要は無い。

 少しずつで良いじゃないか。


「良いの。小さくてもあなたはあなたで考えてるんだって分かってるから」


 そうして、ぎゅっと抱きしめながら言うものだから。


「大丈夫、焦らないでゆっくりやろう。私達の大事な娘なんだから……シアに危険が無い範囲なら、何だってしてあげる」


「んぅ……」


 なんだかポカポカとあったかくて。

 そんな事に気持ちを持っていかれるよりも、こうして家族と今を楽しむ方がずっと良いなって。

 疲れて眠くなってきた頭で思ったんだ。

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