聞いた話

@katudonnihai

聞いた話。

「ねぇ。おばー。おばー。ってさー、変わった話とか分かる?」

「変わった話とは何か?」

「うーん。あんまり人に信じてもらえない話とかかなー?」


幼い頃から、怪談や不思議な話が怖がりの癖に大好きな私は、長生きしてる大好きなおばあなら何か知ってるかもしれない。小学生低学年なりの頭を振り絞って聞いてみた。家にはおばあと私の2人だけ。他の兄妹はまだ帰って来ず、父母は働きに出ている。前から聞くチャンスを伺っていた私には最高のタイミングだった。

少し考える素振りをしてから「あるよ。聞くねー?」とおばあに言われ、私は「うん」と答えると壁に持たれて座っているおばあの隣に移動して、肩と肩をくっつける様に座った。なんだかんだで怖いからだ。

そんな私を見て笑うと、目を見ながら話してくれた。


「昔はねー、本当に食べ物が無かったんだよ。毎日、ひもじい思いをしていたねー。食べれるものを探していたよ。」

そう言って、好き嫌いの多い私の頭を撫でた。


頭を撫で終わると話を続けた。

「だから食べる物を作る為に畑を耕したり、海に行って釣りをしたりしてから、食べ物を取っていたわけ。朝も夜も。それでも少ししか取れなかったんだけど、近所の人なんかと分けたり交換して少しでも、増やして食べたよー。」


「ある日、畑を耕していたらね…。アンタも分かるでしょう、◯◯の畑。」

保育園に上がる頃から、手伝ってる畑の名前を出されて反射的に頷いた。

それを確認して「あの畑を耕して、少しお昼休憩していたら畑の奥の草と木がたくさん生えているところから、真っ黒で毛むくじゃらの人みたいなのが見てるわけよ。直ぐにマジムン(魔物)と分かったよ」

知っている場所の想像と想像出来ないマジムンが脳内で混ざる不思議な感覚になる


「だから、わざと大声で『あー。今日はもう疲れたなー。難儀したよ。全然ここの畑からは何も取れんなー』と言ってからお家に帰ったわけさ。それからは2、3日はそこの畑行かないで、遠い××の畑に行ったわけよ」

また、知っている畑の名前を出される。

「なんで?マジムンがいるから?場所変えたわけ?」

単細胞な私の質問におばあは「そうだよ。」と一言だけ言った。そのあとで

「何もない。と言わないと畑の物を取られるかも知れないし、何か取れると分かったら畑にずっといるかもしれないしねぇ。それに…」

おばあはちょっと間を開けて

「ひもじいのは、マジムンもかもしれないから、こっちが食べられるかもしれなかったねー。そんな時代もあったわけよー。」


ここまで話すと「終わり。」とニッコリ笑ったあとに「家族や他の人には、内緒だよ。」と、また優しく頭を撫でてくれた。

おしまい。




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