第13話 チキントルティーヤ


 小さくなっても、燃費は同じ。将来なしの迷人生。迷うと言うで、謎と読む。山科 楓 今6歳。我ながら実写版が過ぎんな(=_=)としか思えない現状に、主張すべきはただ一つ!


「1日3食だよ!じゃないと私餓死する!!」

「すぐに用意しよう。どれくらい食べる?ブラッディベア 1頭用意すれば餓死しないか?」


 途端過剰に反応して慌てだしたグランに、私は首を傾げる。


「ブラッディベアってどんなん?」

「10mくらいの熊だ。Bランクだから、B級冒険者パーティーでやっと討伐できるかどうかってくらいの魔獣」


 ウォルフの説明に、私はグランにチョップした。


「んな食うか。いいよ。鳥持ってるから、それでなんか作る」

「・・・っていうかさ。すっげぇ自然にしてるから聞きそびれてたんだけど、お前アイデムボックス持ちなの?」

「まぁ。そうだね」


 頷く私に、何故かドン引きの目をするウォルフと真剣に詰め寄るグランが注意してきた。


「カエデ。決して俺から離れるな」

「お前、マジで他人にそれ言うなよ。竜人とかより希少なんだからな」

「え、そうなの?」

「カエデの魔力なら相当量入るだろうから、バレてしまえば俺よりも高値で売れることは間違いない。魔法スキルを見ても、俺 5人分くらいの価値があるだろうな」

「お前、まず常識覚えろよ。どんな家で育ったんだよ。よく今まで無事だったな」

「私、ほぼ引き篭もりしてたから。インドアもインドアで、家から出ることなかったし。休みの日とか、友達と遊びに行ったの、多分小学校低学年頃が最後かな」

「お前、学校行ってたの?」

「貴族の出だったのか?」

「違うけど。いいや、忘れて。説明めんどくさい」


 異世界トリップしたとか、若返って云々とか、説明して納得するわけがない。私なら納得しない。ならば、黙秘でいこう。


「「・・・・・・・」」


気まずげに目配せした二人がまさか、――きっと、言えぬほど高貴の出で監禁されて育ったのだろう――なんて納得しているとは知らず、私は予定通り鳥ちゃんを調理することにした。

 まず、慰謝料に貰った木の器に小麦粉、水、オリーブオイルを適当に入れて、木の棒で混ぜます。

 チキン(コカトリス?)に、塩、洗った石で潰したコショウを振り掛け、下味をつけます。

 そしてこれも、ありがたくかっぱらったフライパンに油を敷いて小麦粉のタネを流し込み薄く・・・ここで問題が発生。フライパンが重すぎて持てねぇ。今気づいた。でも慌てない。何故なら、私には身体強化魔法があるのだから。何度目かの『便利だな魔法』とか思いながら、児童には重すぎるフライパンを駆使して薄く皮を焼き上げる。途中、突っ立ってた男どもを使いバトンタッチして、ニンジンとタマネギの細切りに取り掛かる。いい感じの大小の石を魔法で凸凹になるよう削って、簡易すり鉢を作ると、バジリコとマカラ(クルミ)、オリーブオイルを入れてすり潰して塩とかで味を調えソースっぽい感じのものを作る。

 そして適当に切ったチキンを焼いて、皮に野菜と焼いたチキン、ソースを適量塗って巻いて出来上がり!


「で~きた!」

「これ何だ?」

「チキントルティーヤならぬトリティーヤ?」

「トリティーヤ。美味しそうだ」

「数ないから、一人3つまでね」


 コカトリスはデカかったけど、育ち盛りのウォルフとか成人男性の胃袋満たせるだけの量は作れない。そして、私は疲れたからあとは自分たちで焼いて巻くように材料だけ差し出す。


「「!!!!うまい!!!!!」」


 2~3口でがっつく二人を横目に、私はこれからのことを考える。


「逃げたのはいいけど、まずどこに行くかだよね」

「旅支度が必要だな」

「だね。私たち服がないし、食材も調理器具もない」


 慰謝料でかっぱらったフライパンや鍋は、あのビフォアを見てる身としてはクリーン掛けたけどなんか生理的に嫌だし。お金と宝石、グランの腰にかかってる立派な剣はいいとして、靴と服がボロくて長旅は無理だ。実は私も気づいた時から布製の靴だったんだけど、もう片方破れてたりする。山道歩く恰好ではない。

 体温調整は魔法で何とかなってるけど、この恰好で旅はないな。


「どうする?」

「近くに村はあるが」

「グラン目立つし、服屋ってあるの?つぅか、服ってどうやって調達するのこっちって。既製服ある?」

「そりゃあるだろ。でも大体布買って自分で作る家が多いんじゃね?あとは兄弟とかのお古だとか、貰いもんだとか」

「私たちに必要なのは、防御面もしっかりした冒険者風な服だよ。靴もだけど。てか、よくそれで山道歩けたね」


 布靴をはくウォルフもだけど、グランに至っては裸足だった。今更ながらに気づいて、尋ねると、何でもないように二人は肩をすくめる。


「慣れだな」

「竜人は皮膚を硬化できる。流石に剣を弾くとまではいかないが」

「この辺りは土見えてるところだから大丈夫だけど、私茂み歩くとき気を付けて歩かないとケガするから歩くの遅くなっちゃうんだよね」


 もう記憶に懐かしき我が新発見の子「カエッシー」に出くわした時、何でケガしなかったのか今でも謎だ。まぁ、多分無意識に身体強化してないと説明つかないスピードもそうだけど、ケガもなんか魔法パッシブしたんだろうなと予想はつくけど。


「カエデは俺が抱いていく。歩く必要はないぞ」


 『この先もずっと』そんな副声音が聞こえる。この男(グラン) ちょっと、ヤンデレロリ疑惑があるぞ。と睥睨しながら、私は首を振った。


「ブーツ手に入れて、自分で歩く。私体力付けないとだし」

「体力?」

「今34しかないんだ」

「「34!?」」


 何故か驚きに叫ばれ、私は身を引いた。


「え?うん」

「どうやって生きてきたんだよ、お前。普通、3~4歳とかでももっとあるぞ。赤ん坊の数値だろ、それ」


 実は、こっちに来た当初っていうかあの巨大ウサギちゃんを解体してて、妙に疲れやすいなぁと思って気づいたのだが、私のHPの減少はべらぼうに早かったりする。が、代わりに膨大にあるMPで一定値きると回復をしているようで、疲れを感じては消え、疲れを感じては消えを繰り返しているドーピングパッシブあってこその今だったりする。


「私多分、今1km 歩いたらHP0になる自信がある」

「カエデ。そんなに病弱では、旅は無理だ」

「病気じゃないよ。体力ないだけ。それに、その分魔力あるから一旦魔物倒してLv上げすればも少しまともになんじゃね?こっち来たときは24だったけど、ホーンラビット倒したらLv upしたし」

「そんなんでLv上がるか」

「上がったよ、事実。今の私のLvに対してこの森の魔物のLvのが高いから、1体当たりの経験値が高いんじゃない?何体か倒せばいけるはず」


 ゲームで言えばだけど。


「ならば、俺が倒してカエデの経験値を上げる」

「経験値ってやり取りできんの?」

「戦闘奴隷と主従契約してる奴だけだ。それも少ないっては聞いたことあっけど」

「でも、グランのレベルじゃ、この辺りの魔物いくら倒しても経験値になんないでしょ」

「でも、お前そんなんで魔物狩れんのかよ」


 ウォルフの懐疑的な視線に、私は掌を人の居ない方へ突き出す。


「まぁ。こんな感じ」


 水魔法でイメージ大砲を打ち出せば、十数m先の木がなぎ倒された。


「・・・・・・・やだ、怖い」


 相変わらず威力の可笑しいそれは、我ながらドン引きもんだ。


「・・・お前、やっぱおかしいだろ」

「これならば・・・いや、だが・・・・歩くのを諦めてはどうだろうか」

「ダメな方向に誘導すなや。まぁ、めんどくさいから基本グランにタクるつもりではいるが、体力はつけねばならん。スローライフは、体力勝負だ」


 甘美な誘惑が聞こえたが、何故か本能が警鐘を鳴らすし、自力で走って逃げる体力くらいは付けろってお空の母ちゃんが言ってる。首を振る私に残念そうにするグランの様子に、ウォルフ少年も体力上げに賛同した。


「ま、魔物倒すだけで体力付くならそれはそれでおいしいし。筋トレ、走り込みなら意地でも歩かなかったけど」

「キントレ?何か鍛錬の仕方か?」


 尋ねるグランをスルーして、私は手を叩く。


「とにかく、Lv上げはそれとして。必需品買い付けに人里には寄らねば」

「だな。俺だけで行くか?」


 竜人奴隷のグランを連れ歩くことができない現状、ウォルフの提案も良策でもあるけど物買うのなら私も行きたい。


「グラン置いてけば、私も入れる」

「ダメだ。カエデにもしもがあれば、ウォルフでは守れない」

「そん時は結界で逃げればいいし。グランは目立つからダメ」

「………だが、子供2人だけなのも危険だ」


 渋るグランに、私はもう一つ懸念事項を上げる。


「でも、言った通りこの辺りで旅支度できるかと服買えるかって話なんだよね。普通の村で売ってんの?」

「売ってない」

「この辺りなら、少し大きな街だな」

「大きい町になると入場チェックされるでしょ」

「だな」

「グランもだけど、私たち子どもだけってのも目立つし。あんまり目立たない、品ぞろえのある街ってある?」

「少し遠いが、ダンジョン都市 “ルアーク”がある。あそこなら、俺も入れる方法がある」

「でもそれ、隣の国だろ」

「どの道、この国は2人住みにくいし、出る必要あるでしょ」

「いいのか?ここヒューマンの国だぞ」

「私の希望としては、あんまり目立たず田舎暮らししたいんだよね。だらだらして、人付き合いを気にせず、好きなことやって、美味しいもの食べて、だらだらして過ごしたいんだよ」

「今だらだら2回言ったぞ」

「大事なことだかんな。でも、美味しいものは外せないなぁ。美食の国とかないの?」

「ない」

「カエデの作るもの以上の美味など、俺は知らない。カエデが居を構えれば、其処が美食の国になることだろう」


 二人の即答に、私は嫌な予感にしばしシンキングタイムを設けた。


「………………ちょっと聞くけど、君たちの知る料理の味って、何味?」

「塩」「塩だ」

「他には?」

「生臭かったり、固かったりとか言うことだろうか?」

「いや、私の料理の味みたいな」

「ん~~~~。あ、果物とかの甘さだな」

「…え、まさかだよね。まさか、メシマズ系…いやいや。まだ分かんないって、カエデ。諦めるのはまだ早いって。異世界グルメ漫遊記の夢はまだ潰えてないって。この二人は迫害を受けてる獣人だし。普通レベルの飯ではなかったのかも」

「俺は王侯貴族に飼われていた時もあったが、あの時に口にしたものですら、カエデの料理には叶わない。屋台で売っているものも、焼いて塩を振るものだけだし、スープも塩を入れて味を付けるが、カエデの様な…深みのある味、と言うのだろうか。そういったうまさを感じたことは一度としてない」


 自分を励ます私に追い打ちをかけるかのように、グランが止めを刺しに来る。


「…よし、ルアークへ行こう!ダンジョン都市ってくらいなら、流通も盛んなはずだ。いろんな美食があるかもしれない」


 こうして、私の行きあたりばったりの旅は始まった。

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