第48話 冥府(3)

 と、なれば?


 あの時は、あちらこちらから。


「うぉおおおっ!」


「すげぇえええっ!」


「あんたぁあああっ!」


「健ちゃんー!」


「男王カッコ良いぞ!」


「素敵! あなたぁっ!」


「ばんざい!」


「バンザイ!」


「万歳!」と。


 僕を褒め称える万歳三唱が上がったみたいだ。


 でも僕自身は、余り覚えていない。


 でも、そんな状態の僕でもあっても。


 何故か僕は、ウォンの奴を殺してやろうと思う気持ち。


 そう、この集落の酋長であるアイカを蔑ろにして、謀反を企てようとした男──。


 ウォンのことをこの世から抹殺してしまおうと思う意思だけは、僕の心の中に残っていたみたいだから。


 僕はもう一度石を天空へと掲げたみたいだよ。


 僕の行動を見ていた人達の話しだと。


 そしてウォンへと致命傷となる打撃を加えようと試みたみたいだ。


「健太ー! 健太ー!」、


「た、頼むからぁっ! ウォンを! ウォンのことは殺さないでぇっ!」、


「頼むから許してやってぇ~! お願い~! あなたぁ~! 二度と~! あなたに逆らわないように~! わらわが注意をするからぁ~。あなたぁ~。お願い。お願いします……」


 そう、これだけは僕も覚えているよ。


 あの集落に僕が異世界召喚をされて半年以上になるけれど。


 アイカの奴が初めて夫の僕に頭を下げたんだ。


 それも他人……。


 ウォンのために地面に這いつくばり、頭を下げ、僕に命乞いをした。


 僕の時にはウォンにはしなかったのに。


 アイツはウォンの時はしたのだよ。


 僕じゃない男の為にね。


 だから僕の口から「アイカさん」と言葉が漏れ。


 自身の両目から熱い物が流れると。


 僕の身体中の力はあっさりと抜けたよ。


 だって僕がウォンに勝利をした意味が、これでなくなってしまったから。


 僕の利き腕で握られている石も自然にトン! と、音を出して地面に落下──!。


 だからアイカの奴が涙を流しながら僕に、ウォンの命乞いをするのを辞めたらしい。


 アイツが嬉しそうに微笑みながら僕の気持ちも考えずに。


「あなた、ありがとう」と。


 嬉しそうに微笑みながら告げたらしいと。


 後で僕は教えてもらうのだが。


 僕自身はここで、ウォンを助ける行為──死亡フラグの地雷を踏んだ訳だから。


 この後僕は、自身の痛みが和らぎ、精神的にも回復し、我に返ったウォンに。


 絶叫すら吐くこともできないほど一方的に殴り、蹴られ。


 最後には僕の首が反対方向へと向いて死んだらしいよ。



 ◇◇◇




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