第45話 静寂

「クソッ! ウォン!」


 あいつに悪態をつきつつ。


 僕はパチン! とあいつの鋼のような筋肉で覆われた身体を叩く。


 まあ、殴ってみた。


 それも一度きりじゃない。


 僕はあの集落の覇王的振る舞いをしていたウォンに対して。


 パチン! の情けない音を聞けばわかる通りだ。


 たいして、あの脳内筋肉、頭の悪いウォンあいつに利いていないとわかっていても。


 何度もロ〇コンパンチや猫パンチを繰り出すために僕は、あの時の静寂した空間──。


 僕とウォンの声しか聞こえない中で、あいつに何度も振り払い、蹴られようとも、猪突猛進を繰り返した。


 でも、その都度、ウォン口から絶叫が一度も漏れる、吐かれる、放たれることはない。


 いつも僕の口の方が開き。


「うぎゃぁ、あああっ!」、


「ぎゃぁ、あああっ!」、


「死ぬー!」と。


 僕の奇声や断末魔に近い絶叫が吐かれ、放たれるだけだったと思うよ?


 でもね、僕は、自身の口から奇声や絶叫は吐くけどさ。


 あいつ! あの男!


 そう、オーク種族最強の男戦士ウォンに対して、


『ゆるしてください』、


『助けてください』、


『もう二度と貴方には逆らいませんから。僕にこれ以上酷いことをしないでください』、


『貴方が欲しがっている僕の妻達を貴方に全部さしだしますから。僕の命だけは助けてください』と言った。


 男王らしくない、情けない命乞いを僕は一度もウォンへと告げ、嘆願をすることもなく何度も立ち上がり。


 あいつへと猪突猛進を繰り返した。


 あの時の僕の顔は──。


 僕だとわからないぐらい腫れ上り、変形をしていたらしい。


 それでも僕は朦朧としている意識の中で、何度も立ち上がった。


 僕は自身が産まれ育った世界、地球の代表者なのだからと。


 そして侍、日本人なのだから絶対にウォンに対して命乞いをしないのだと。


 僕自身が腹に決めたから。


「このクソガキ死ね!」、


「ぶち殺してやるからな、クソガキ!」


「ほら、ほら、死ねぇ! 死ねぇ! クソチビがぁっ!」と。


 ウォンから罵られ、蔑まれ、嘲笑いをしつつ。


 ドン! ドン!


 ガン! ガン!


 バン! バン! と。


 あいつから握り拳や足蹴り、足踏みを食らい。


 その都度僕の口から。


「うぎゃぁ、あああっ!」、


「ぎゃぁ、あああっ!」、


「くぇ、えええっ!」、


「くぉ、おおおっ!」、


「死ぬー!」と出る。


 吐く! 放たれようが!


 僕はシューティングゲームのゾンビの如く。


 あの時の静寂な空間の中──。


 ウォンの目の前で、何度も立ち上がって魅せる。



 ◇◇◇


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