第16話
本日の五号『ダンジョン』での勤務を終えて、『日本探索協会』に帰社する前に、
彼は『ダンジョン』内へ脚を踏み入れていた
荷物にはXCP245『異世界水』一本が入っている
目的はそのXCP245『異世界水』を散布するためであり探索では、無い
初めて『オープンワールド型』の『ダンジョン』へ脚を踏み入れた江崎は、
眼に飛び込んできた景色に、ただ圧倒された
それは『ドローン』から送られてきた映像とは違う生の景色だった
『ダンジョン』の中とは思えない広大な自然、どこまでも続く
蒼穹の 下に広がる草原、 その中を吹き抜ける爽やかな風。
空気も澄んでいて、土と草の匂い、花の香りまで漂ってくるようだ
足元は踝ほどの高さの雑草が生い茂っているが、膝より上のところに
生えている草は無い。
「こ・・これが『オープンワールド』の『ダンジョン』か」
彼は震える声で呟く
草の生えた地面を手で掬い取ると、すぐに指先が緑で染まった。
どうみても天然な野草だ
その草を鼻に近づけて匂いを嗅ぐと、少し青臭い香りがした。
見渡す限りでは、『ドローン』より送られてきた映像と違いはなく
草原は地平線まで続いているようだ。
だが、遠くには山や森が見える。
「凄すぎだろ」
彼は思わず息を呑む、それは称賛の気持ちに他ならなかった
この『世界線』に『転移』してみてきた『放置田ダンジョン』は、
二つとも『洞窟』形の『ダンジョン』だった。
それもガチ系のRPG系ゲームで登場している『洞窟』で、おまけに
少しすえたような 臭いもしていた
それ故に、多種多様な自然や異世界感が漂ってくるような光景に、思わず絶句した
『転移』後に経験してきたのは、『洞窟』形の『ダンジョン』内で遭遇する
モンスターとの戦闘だ
もちろんそれも元の『世界線』では、決して経験できない事も確かなのだが……
今いる場所は、本物の自然の草原を探索しているかのような錯覚を受けるほどの
場所だった
ある意味リアルなRPGならではといったところだろうか。
それとも俗に言うところのオープンワールドゲームの
醍醐味というやつなのだろうか
初めて見る光景に驚きを隠しきれない様子の江崎だったが、しばらくすると
落ち着きを取り戻して移動をはじめた
なお、彼の服装は『ネクロマンサー』一式装備だ
彼が向かっている場所は、XCP245『異世界水』を散布するのに
最適な 場所だった
その場所は、念入りにドローンで確認して目星を付けていた場所だ
『ダンジョン』出入り口からは離れており、なおかつ北にある
廃墟と化している関所より数kmは離れた所だ
そこは丁度森林と草原ばかり広がる地形で、特徴的な
大きな岩がそびえたっている
道中は、運が良かったのかモンスターとの遭遇も無く、 無事に
目的地にたどり着いた
「この辺りで散布していこう」
江崎は、目の前に聳え立つ巨大な岩を触ってみる
苔が所々にこびりついていてザラついているが、滑らかな触り心地だった。
触れた手を見ると、灰色の粉が付いていた
彼は慎重に周囲を見渡すと、誰もいない事を確認してから詰め替え可能な
ミニ噴霧器をリュックから取り出した
中身はXCP245『異世界水』だが、使用方法通り水
で原液を2倍に薄めて詰め込んでいる
ミニ噴霧器を岩や周囲の草に噴霧し、再度周囲を見渡す
「これでどれだけの効果が出るか・・・」
効果が出るかは不明だが、何もしないよりはマシだろと思いつつ、
次の場所へ向かうのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます