放置田の草刈りをすることになったのだが、なぜかダンジョン攻略することになった

第15話

　日本観光業界と日本探索者業界も大打撃を受けた渡航規制も、

　２年ぶりに緩和され、　外国からの訪日観光探索者も戻って来ている

　また円安もあり、訪日観光探索者による日本国内『ダンジョン』探索も

　渡航規制前の水準に　戻りつつあるそうだ

　海外探索者向けの高級一式装備品などの売り上げも、各企業は再び

　高まっているという

　これらの記事から読み取る限りは、すでに今年度の上半期売上高が

　同期比5・8%増という過去最高を 記録した事や、訪日観光探索者の

　富裕層向け装備品市場規模は10億円以上で　過去最高との事だった

　日本国内に限った事ではあるが、その恩恵を受けている多くの企業は

　装備商品類を　訪日観光探索者の富裕層向けにシフトしている。

　日本探索者には、目もくれていない。

『日本探索協会』は『手野グループ』に所属しており、ダンジョンでの収益は

　全額手野グループのものとする契約により成り立っている。

　そこで彼の目を引いた記事は、同じ『手野グループ』に所属する『手野百貨店株式会社』のダンジョン内の 収益状況についての記事だった。

『第一群手野百貨店』並び『第二群手野百貨店』は、世界規模で流行した感染症の影響で　赤字店舗が3店舗 黒字店舗も50店舗近く存在するらしい

　だがこれは別段珍しい事ではなく、日本全国どの企業であっても

　一般的に見る光景との　事だった。

　確かに地方の赤字店の中には、2期連続赤字で債務超過に陥った

　中堅法人などもあるようだ。

　その様な中、『第一群手野百貨店』は年々増収傾向にあり、海外支店まで含めると

　2021年度は、5期連続増収となる見通しらしい。

　その最大の要因となったのが、2021年2月19日に発表された海外戦略による

　訪日観光探索者向けの高級装備品の売上だ

　日本の技術力向上により品質が良く耐久性のある防具類を世界価格の

　数割お得に販売し、完全にオーダーメイドな一品物のため

　ネットオークションで高額取引される程に人気　だったそうだ

　同じく『手野グループ』に所属する『手野航空株式会社』は、

『マッハライトニング』という

　東京と米国西海岸なら往復で四時間を切る超音速旅客機を開発・運営し、

　就航開始から数年で 黒字化したらしい

　他にも主に高速鉄道事業を営む子会社もあるようだ。

「これからの『百鬼夜行』期間と『逢う魔時』期間になれば、規制緩和前よりも

　さらに訪日観光探索者が押し寄せるんじゃないのか?」

　発着回数が元に戻りつつあるという記事を読んで、彼は身震いしつつ

　独り言ちた。

　この『世界線』と元居た『世界線』では微妙に違う事が多いが、

　共通している事は、感染症拡大防止による規制が約二年続いた事と

　訪日観光客が激減 し、　観光業の収入が減った事だった。

『転移』する前の『世界線』でも、急激な円安の影響もあり訪日客数が

　規制前の八割まで回復したとの事だった

「こっちの『世界線』でも、人気観光地のオーバーツーリズム問題とかは

　発生していたりするのか?」

　彼は業務用pcで検索するがそれらしい問題はないらしく、その代わりの問題として

『オーバーダンジョンツーリズム』なるものが発生しているらしい

　それは無許可無断で、『廃神社・廃寺』怪異ダンジョン』と『『放置空き家』

　ダンジョン、　日本各地の『耕作放棄地』から『放置田ダンジョン』化した場所への侵入またそのダンジョンでの探索・配信が問題になっているらしい

「ああ、さっき視たあの動画類はやはり違法行為だったのか」

　江崎はそれらのネット記事などに眼を通すると、ふぅっと息を吐いた

　マナーの悪い訪日観光探索者は、勧告を無視しては各ダンジョンへの

　侵入と探索を強行して　私有地等を荒らし、

　ダンジョン内で他の探索者に迷惑行為を行う

　その動画をネット配信して収益を得ている者までいる様だ

　だが、これらの行為は法律で禁止されているため『日本探索協会』は警告や

　注意喚起などを行っている

　しかし、訪日観光探索者には日本語が通じないこともあり、なかなか

　取り合ってもらえないそうだ

　また『日本探索協会』に対する予算や人員も、規制期間中に縮小された ようだ

　もっとも、それ以前から日本国内『放置田ダンジョン』からは

　レアアイテムや素材などが　ドロップする事が無く、

　日本探索者登録数も少ないないため、そもそも人手不足が発生していた。

　それゆえに海外企業に比べて、『ダンジョン』稼働率や売上は日本人探索者に

　限っては　圧倒的な差をつけられてしまっている様だ

「言っちゃなんだが『手野グループ』の図体はかなり大きいんだぞ?

　それでもこの『世界線』の『手野グループ』でさえ『ダンジョン』運営に

　難が出ているとすれば、ほとんどの日本企業が訪日観光探索者に

　太刀打ちできないレベルなんじゃないか？」

　改めて自身の知る世界の状況に思いを馳せた彼は、その危機感から深い溜息を吐くのだった。