第3話 「ダイジョウブ」
// パタパタと近づくスリッパの音。
「……ただいまデス! ……って、どうしたんデスか師匠? 部屋の中、真っ暗デスよ?」
//カチ、と蛍光灯の紐を引っ張る音。
「……! ……師匠……? 顔色が真っ青デス。具合でも悪いんデスか?」
「……ダイジョウブ? そんなワケないデス! ちょっと待っててクダサイ……!」
// パタパタとスリッパの音が一度遠ざかり、戻ってくる。
「――ハイ、師匠。……少しワキを借りマスネ?」
//ピピ、と電子音。
「……ッ、……大変デス! 熱がありマス!」
「あ、動いちゃだめデスよ!? ちゃんと寝てなきゃデス」
「……とりあえず、ちゃんとBedで寝ましょう? ……ホラ、師匠、立てマスか?」
//衣擦れと床をゆっくり移動する足音。
「こんなにひどくなるマで、……気付かなかったのデスか? ……ビョウインは?」
//ボフ、とベッドに倒れこむ音。布団を動かす音。
「……NEETは、ビョウインには行かナイ? ……Оh、デモ、薬は? 薬は飲みましたか?」
「um~~! ダメです、師匠! ……わかりマシタ。とりあえず、薬と、何か食べるものをもってきマス。……師匠はそこでじっとしていてクダサイ!」
◇◇◇
//ガチャ、と扉が開く音、スリッパの音。
「……師匠? ……起きていマスか?」
//食器と食器が触れる音。
「…………チキンスープ、作ってきマシタけど、……食べられマスか?」
「……よかったデス。……あ、身体は起こさなくてもダイジョウブデス。……ヨコを向いて、そうデス、少し上に顔を向けて……」
//食器と食器が触れる音。
「……ハイ。……Ahー……?」
「……? どうしたのデスか師匠。……ちゃんと食べないと薬が飲めマセンよ? ……エ? 恥ずかしい?」
「……何言ってるんデスか師匠、――スエゼン食わぬは男のハジ、デスよ?」
「……? 意味が、違うのデスか? ニホンゴ、難しいデス……ハイ、……Ah―――――……」
「………………」
「……美味しいデスか、師匠?」
「……ッ、ホントウデスか!? ンふふ、……もっと食べてクダサイッ」
◇◇◇
「……薬を飲んだので、少し眠くなってきマシタか? ……熱は……」
//ピピ、と電子音。
「……少し、高くなってきマシタね。……ダイジョウブデスか? さっきよりもツラそうデス……」
「……それにしても、師匠のママはどうしたのでしょうか。……師匠がこんな状態なのに、心配する様子が見られませんデシタ。パパも、みんなも何だか変デス……」
「……エ? それが、フツウ、デスか? ……ナゼ……?」
「――『オレが、落ちこぼれダカラ? ……ダイガク辞めて、……NEETダカラ? ……価値がナイから? ……ゴクツブシで、カケイのツラヨゴシで、人間のクズ……ダカラ?』 ……ッ」
「……ダカラ、ずっと……毎回……耐えてきたのデスか? ココで? ヒトリで? どんなにグアイが悪くても、寂しくても、……誰にも言わずに、ソノママ……朝マデ……??」
「――『……ずっと、ソウダッタから? 誰も助けてなんてクレナイから? ……だから、これでもう、放っておいてほしい……?』 ……ワタシには……関係ナイから……? ――ッ」
//ボフ、と布団の沈みこむ音。
「――NO、関係なくありマセンッ。……師匠、ワタシと一緒にNEETすると、言いマシタ。……だから、こんなところで師匠を放っておくなんて……ゼッタイにできないデス!」
「……嫌デス、離れマセン! ……何も話してくれなくても、教えてくれなくても、ダイジョウブです。……デモ、」
「……師匠と離れるのは嫌デスッ。……ワタシ、ずっと……師匠と『何もしない』がしたいデス!」
「……師匠、……師匠は、自分のことが嫌いなのデスか?」
「……」
「……師匠? もしかして、泣いているのデスか?」
「……『頭が痛いダケ?』…………」
「……………」
「…………シショウ……」
//髪を撫でる音。
「…………ダイジョウブ……、ダイジョウブデス……。……ワタシ、師匠のこと、ゼッタイにヒトリにしマセン。……シショウはハジなんかじゃナイし、クズで価値がナイなんて、大嘘デス。……シショウは、シショウデス。……シショウはNEETでも、ヒトリじゃありマセン。シショウはワタシの……トテモ、大切な人デスから……」
「……NO。……ゼンゼン馬鹿にしてマセン。お世辞デモないデス。……ワタシは師匠のこと、本心から尊敬していマス……」
「『どうして?』デスか……? …………」
「……本国にいたトキも、ニホンにいるトキも。……どんなに優しく親切な人デモ、『NEETに憧れている』と言うと、イツモ必ず笑われマシタ。……ワタシの、パパやママ、先生、師匠の、パパやママやみんなも、デス。……みんな笑って、誰もNEETのことを真剣に教えてくれマセンでした。……NEETの人、本人ですらデス。……デモ」
「……師匠は、ちゃんと、NEETのこと教えてくれマシタ……っ」
「……ゴウインでシツレイなワタシにも、追い出さず、馬鹿にしたりしナイで、隣にいるのを許してくれマシタ……。……おかげでワカリマシタ、……NEETはとても大変デスが、師匠と二人でするNEETは、……トテモ、温かい」
「……だから、デス。尊敬して、それでソノ……」
//髪を撫でる音。
「……師匠。……師匠……」
「……いつも一緒にNEETしてくれて、……部屋に居させてくれて……、」
「……アリガトウ、ゴザイマス」
「……だから、安心して今日はゆっくり休んでクダサイ。寝ると楽になりマスから……」
「……あまり眠くない? ……薬、効かないのデスか? なら……」
「……今日はずっと、朝まで一緒にいてあげマス……」
「……だから、師匠、……ダイジョウブ、……デス……っ」
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