secret desire~隠された欲望~
講和淵衝
序章
プロローグ 「最後のメモリー」
師走の冷たさを切り裂くようだった。
それほどに大きな彼女の声が警察署内に響き渡る。
「だから!ここまでの証拠が全て揃っているんです。一刻も早く捕まえるべきじゃないですか!」
「落ち着けって。嬢ちゃん達が急いでいるのは十二分に分かる。だがな、ここまで来て焦って失敗しちゃ、努力が水の泡だ」
そう言われ項垂れる〈相棒〉を横目に、私は自分に対して疑問を投げかけていた。
ここまで一切尻尾を出すことのなかった彼が、果たしてこんな下手をするのか。
しかし、これをチャンスと捉えるべきだとも思えてしまう。
ふぅ…っと小さい溜息をついてテーブルの紅茶に手を伸ばす。ゆっくりと口に運ぶがなんとも言えない温さに苦い顔をした。
どうしたものか…あと一歩なんだ。この二年間わたしと彼女が追い続けてきた〈語られることの無い真実〉に王手をかけているというのに、もどかしさばかりが増えていく。
「お前さんもだぞ。いつものように考えすぎるなよ。俺達はいつもそれに助けられてきたようなもんだったが、今回は別だ」
「言われなくても分かってる。おじさんこそ最後の最後でいつものように呑気なままでいないでくださいよ」
私の言葉におじさんが何かを言い返そうとした瞬間、その隣にいた小柄な少女はその言葉を遮った。
「お二人さん、どうでもいい話が過熱しているところ悪いけど、待っていた〈彼〉からの暗号文がようやく届いたよ」
それを聞いて一目散に少女の持つ、パソコンに食いつくように三人が集まる。
少女が暗号を解読して、それが文章として表示されるのに数秒とかからなかった。
そこに表示された言葉の数々に私たちは自分たちの考えがいかに浅はかであったのか…何もかもを根底から覆すその言葉に対して、言葉が見つからないまま固まってしまった。
全ての始まりは約二年前。それは、私と彼女が同期の新人としてこの警察署に採用されたあの春先から始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます