第4話 今まで会ったことない人(柚side)
『———今日、楽しかった』
私———
今日は学校だったが、それを忘れてしまうほどに楽しかった。
まぁえーたは帰りに『あぁ……俺のゲームは死んだな……確定ゴミ箱の中だ……』と嘆いていたが、自業自得だと思う。
因みに私は、優等生というわけではないし、既にゲーム配信でそこらのサラリーマンの5倍くらいお金を稼いでいる。
なので、1日学校を休んだ程度で家族に何か言われることもない。
「ん……気持ちいい」
私はベッドでえーたに取ってもらった猫のぬいぐるみを抱き締める。
このぬいぐるみは、私が初めて他人に貰った物でもある。
これはクレーンゲームの景品だが、えーたは、私が1000円掛けて取れなかった物を、僅か100円で取ってしまった。
その時に『まぁ少し任せなさい。巷で『ゲーセン泣かせのクレーンゲーマー』と呼ばれてた俺の力を見せてやろう』と言っていたが、その後やけにソワソワしてたし、目が泳いでいたから恐らく私と同じ初心者なんだと思う。
でも、私のために取ってくれたことに変わりない。
正直言ってちょっと嬉しかったのも事実。
「……変な人」
初めてえーたと話したのは先週の金曜日。
彼が私に告白してきた。
しかし———何十回と告白されている私だから、彼が本気で告白しに来た訳ではないと気付いていた。
緊張していた様だが、それだけ。
彼からは微塵も必死さが伝わって来ないどころか、今までで1番適当に返事したのに、まるで分かっていたかの様にあっさり去っていった。
その時は少し拍子抜けしたが、同時に深く印象に残った。
それに、巷の噂ではその後に私以上に告白されている姫野芽衣にも告白したとか。
えーたは、彼女が欲しいだけで、特定の好きな人がいない様に思える。
まぁ私からしてみれば、相手が自分のことを好きではないと分かった方が接しやすい。
だから登校中に偶々見つけた彼について行った。
それで分かったことだが———えーたは意外と相手への気遣いが出来る男子らしい。
先程のクレーンゲームもそうだが、電車で私が寝ていたら注意してくれるし、常に私が車道側にならない様に歩いていた。
ゲーセンの時も、私が口に出さなくても目線だけで何がやりたいのか大体把握していたように思える。
だって、私が目線を向けた瞬間に、そのゲームをやろうと言っていたし。
そして、彼といると気分がいい。
感情があまり表に出ない私は、誰かと遊ぶと相手はつまらなそうに、もしくは気まずそうにする。
しかしえーたは、初めこそ気まずそうにしていたが、途中からは私に遠慮なく物を言っていた。
それが私にとって、とても印象的で、初めてのことで嬉しかった。
つまり———えーたは、私の中で1番好感度が高い。
「ん、明日も楽しみ」
明日もえーたに構ってあげよう。
多分驚くだろうけど、それはそれでえーたの反応がどんな感じなのか楽しみで仕方ない。
今度は私からゲーセンに誘ってみようか?
そして色んな所に連れ回すのだ。
ついでに幾つかゲームもあげた方がいいかもしれない。
今頃壊れたゲームがゴミ箱に入っているのを見て、泣いている気がするから。
「ふふっ。覚悟しとけ、えーた」
私は———人生で初めて、学校に行くのが少し待ち遠しくなった。
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