杪夏

 コンクリートの壁に鉄球が打ち付けられる。

 剥がれる壁。

 砕け、散る塗膜。


 解体はどんどんと進み、僕の最後の仕事は、ここを看取る事になった。

 ゆかりの最期は見届けるしかなかったのにな。


 馬鹿みたいに照りつける日差しが、馬鹿みたいに奇麗に残骸を映し出す。

 そのどれもが、輝いていた。


 賑やかな破壊の音は夕方に止む。

 最近は日が落ちるのも早くなってきた。


 それでも、外にいると汗が酷い。

 それをあのハンカチで拭う。


 重機が退き、鋼鉄の顎が無くなると、そこには鉄骨の卒塔婆が幾重にも並んでいた。

 皆、夕暮の中でキラキラとしていた。


 虫の音。


 風だけは涼しく、微笑み、額を撫でてくれた。

 それは心地よかった。


 遅い夏休みに入ったら、ゆかりに逢いに行こう。

 両手にいっぱい、ゆかりの好きな花を持って。


 その風には夏の終わりが乗っていた。

 僕の夏が終わった。

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La Perte du Passage @Pz5

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